Playing Analysis|エムドゥ・モクターのアプローチを探る Playing Analysis|エムドゥ・モクターのアプローチを探る

Playing Analysis|エムドゥ・モクターのアプローチを探る

エムドゥ・モクターのプレイスタイルは、音楽的にどのような特徴があるのか。奏法面や音運びなどから、彼の音楽性を分析してみよう。それが表出する2曲を参考にした譜例も用意したので、ニュアンスやスタイルまでコピーに挑戦してほしい。

譜例作成/解説=安東滋 浄書=Seventh 写真=WH Moustapha

エムドゥ・モクターのプレイスタイルを分析!

エスニック色が充満するペンタトニック系の音使いを素材に、コブシの効いた(?)細かい節回しを隙間なく連ねていく……このアフリカ・ルーツの個性を強烈に感じさせるサイケな音像が、“砂漠のジミヘン”とも称されるエムドゥ・モクターの看板。その根底にあるのは、彼の出身部族である西アフリカ・ニジェール共和国のトゥアレグ族に伝わる音楽 “タカンバ”。そこで用いられる伝統的な撥弦楽器“ンゴニ”のシーケンス的な細かい歌い回しをそのままエレキに置き換えたかのような、民俗的なフレージングが貫通するギター・プレイに大きな特徴が見られます。

ここでギター・プレイ面での基本事項をあげておくと、彼は左利きのプレイヤーで、弦の配置は上側に6弦を張る(ジミヘンと同様の)セッティング。カポタストによって基本の音程(key)を作り、使用チューニングはレギュラーを基本に、6弦だけを1音半アップさせるなどの変則的な調弦も適宜用いている模様です。

ピッキングは人差指を高速で上下動させるトレモロ・ピッキング的な動きを軸にしたフィンガー・スタイル。低音弦上のペダル音を絡めるフレーズ展開などでは、そこに親指のダウンも適宜絡んできます。またライブ映像を観察したところ、時折“タッピング(ライトハンド奏法)”を挟み込む場面も発見できました。ちなみに、アイドル・ギタリストのひとりにエディ・ヴァン・ヘイレンの名前もあげています。

以上の基本プレイ・スタイルはエレキでもアコースティックでもほぼ同様ですが、アコギでの演奏にはよりプリミティブな感性が露出してくるので、深堀りしたい読者にはそちらもオススメ!

「Asdikte Akal」
カポタストを軸に弾き出すエスニックなマイナー旋律

註1:タブ譜にはカポタストの位置を(0fとせずに)3fとしたフレット数を記入しています。

エスニックなマイナー感が充満する「Asdikte Akal」冒頭のフレージングを、前述したエムドゥ・モクターのプレイ・スタイルを睨んで、カポタストを3fに付けた設定で採譜したモデリング譜例(参考CDtime=0’24″~/註1)。3拍子系のリズムに乗せた短い一節の中に、西アフリカの民俗的なメロディ感が一気に浮き上がってくる場面です。

カポタストを軸に1&2弦の6fと8fの音を絡める横長のポジショニング、そしてコブシを効かせた独特の節回し、ともに彼の典型的なプレイ・スタイルが露出します。

【常用ポジション:その1】
民俗テイストを醸し出すマイナー・ペンタトニックの変化形

音使い面では、上記のカポタストを軸に発音される(実音表記の)【C音・D音・F音・G音・B♭音】、この5音階で構成されるペンタトニック系の音列に要注目(図1)。ペダル・ポイントとして置かれる主音のC音からみると、2番目の音が(通常のCマイナー・ペンタでは同位置が短3度=E♭音であるのに対して)長2度のD音になっている点がツボです(図1中のカポタスト側の2弦3fがその長2度の音)。この、C音の上にGマイナー・ペンタトニックが乗る、あるいはB♭メジャー・ペンタトニックが乗る構図の音列が、本曲の民俗的なイメージを増幅させる見逃せない要素ともなっています。

ちなみにこの音階は、雅楽で言うところの“律音階”と同様の音列でもあります。試しに5弦3fのC音をペダルとして鳴らしながら、譜例の節回しをゆっくりと発音してみると……そんな“和”な雰囲気も感じられる?(かな:笑)。なお、同様のマイナー・スタイルで演奏される他曲での音使いも見渡してみると、ポジションを上げて8f付近で弾く場面では、ノーマルのCマイナー・ペンタトニックの音使い(短3度の音を含む音使い)に移行する展開が常のようです。

「Taliat」
明るく突き抜けるメジャー・ペンタトニック

註2:タブ譜にはカポタストの位置を(0fとせずに)6fとしたフレット数を記入しています。

メジャー系のメロディ・ラインで躍動する「Taliat」後半のソロ・パートから、ハイ・ポジションに移行して高揚させていく場面を6fカポの設定で模写したモデリング譜例(参考CDtime= 3’07″~/註2)。こちらはD♭メジャー・ペンタトニックの音使いを軸にした、おおらかで明るい旋律が印象的に響く楽曲です。

前サンプルと同様に、カポタストの位置を軸に1弦上を横方向に大きく移動するリニアなポジション展開を柱に、コブシを効かせながら明快に進行させていきます。5小節目に登場する細かい音符の連打には、前述したトレモロ的な動作で弾く人差指ピッキングのキャラクターも見えてきますね。

【常用ポジション:その2】
横長に展開するメジャー・ペンタトニック

上記の音使いも含む、本曲全体で用いられるD♭メジャー・ペンタトニックの基本ポジションをまとめて書き出したのが図2。これはノーマルのメジャー・ペンタトニックの音階そのままですが、やはり水平方向に展開させる横長のポジショニングにエムドゥ・モクター特有の節回しのツボが隠されています。これをガイドにCD音源と一緒にジャムってみて下さい。きっと西アフリカの砂漠の広大な情景が目に浮かんでくるはず(笑)。

なお譜例にあげたフレージングとは直接関係ないのですが、低音弦上にD♭のペダル音を置く楽曲全体のストラクチャーを睨んで、6弦だけを1音半=短3度上げた変則チューニング(の6fカポ)と仮定しました。これも併せて試してみて下さい。

作品データ

『アフリク・ヴィクティム』
エムドゥ・モクター

Beat Records/Matador Records/OLE1614CDJP/2021年5月21日リリース

―Track List―

01. Chismiten
02. Taliat
03. Ya Habibti
04. Tala Tannam
05. Untitled
06. Asdikte Akal
07. Layla
08. Afrique Victime
09. Bismilahi Atagah
+日本盤ボーナス・トラック

―Guitarists―

Mdou Moctar、Ahmoudou Madassane