2021年に『RAFT』でソロ活動をスタートさせたTAIKING(Suchmos)。同年には藤井風やRADWIMPSのライブ・サポートを務めるなど、表現者の幅を広げている彼が、4曲入りの新作『CAPE』を完成させた。すべての楽器を1人で演奏して完成させたという本作の制作背景について、じっくりと話を聞いた。
取材:尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング)
どの活動も自分のアウトプットにつながっていった
2021年は、Suchmosの活動休止、藤井風やRADWIMPSのライブ・サポート、ソロ作品のリリースなど、さまざまな出来事が起きました。TAIKINGさんにとって、どのような1年でしたか?
間違いなくターニング・ポイントとなった年ですね。まず自分のバンドが止まるっていうことで、それまでと生活が大きく変わりました。そこで“音楽活動を辞める”っていう選択肢も含めて、これからの自分は“どういう活動をしていきたいのか?”、“1人の音楽家としてどのように音楽と向き合っていたいか?”ってことをイチから考え直したんです。
コロナ禍でツアーもキャンセルになったりとスケジュールがグチャグチャになっていく中で、“音楽だけは作れる”と自宅で新曲を作っていたんですけど、いろんな曲が生まれてくる中で“これはバンド向きだな”とか“これはバンドでやれないな”っていろんなタイプに分かれてきて。実は今回のEPに収録されている曲も、以前バンドでトライしてみたことがあったんですよ。
そうなんですね。例えばどの曲ですか?
「FIRE」と「SHIP」ですね。メンバーと一緒にやって、YONCEが歌ったりもしました。でもSuchmosはメンバー全員がそれぞれ曲を書いていたこともあり、その時は限られた時間内に完成形まで作り込めなかったんですよね。それが時を経て、バンドの活動休止が決まった時に“ああ、そういえばあの曲あったな”とか“あのデモのギター・リフはメロディアスな雰囲気だったな”ってことを思い出したんです。そこで“自分のソロとして形にしたいな”って思ったのがEPを制作するきっかけの1つでした。そこは大きな変化だったかな。
イメージが自分の中で広がっていったんですね。
そうですね。たしか2020年の暮れくらいにはメンバー同士で今後の活動に関して話し合いが行なわれていて。それくらいから、自分の中でソロ活動を始めようかなってことを漠然と考え始めたんです。その時に、例えば“ミニマムな編成でやってみよう”みたいにSuchmosだと表現できないスタイルも逆にあるな、と思っていて。それを少しずつ形にしていきながら、様々な出会いからも色んなことを学びつつ、少しずつ成長していったように感じています。
それこそ(藤井)風さんから“ギターを弾いてほしい”って連絡をもらったり、RADWIMPSの野田洋次郎さん、武田祐介さんからツアーのサポート・ギタリストとして声をかけていただいたり……そういうところは“バンドが止まってたからこそできることだったな”という風にも思うんです。
だからソロ・アーティストとしてだけでなく、1人のギタリストとしての活動と二重にスタートしたので、むちゃくちゃ忙しかったけど、どの活動も自分のアウトプットにつながっていったので、面白かったですね。
1人のギタリストとしてアーティストのサポートに入る現場では、どのようなことを意識しているのですか?
楽曲のフレーズをなぞるだけでなく、ちゃんと自分の表現に落とし込まなくちゃいけないとは思うんですけど、サポートという立場上、“自分を出し過ぎてしまうのもどうなのかな?”って気にしていたんです。でも風ちゃんもRADも“もっと行きなよ”って言ってくれて。
背中を押してくれたと。
ライブに対しての仕込みの練習期間だったり、ツアーへの向かい方っていうのも、それぞれアーティストごとにやり方が違っていて。それぞれの音楽の良さを最大限に引き出すためには何が必要なのかってことはすごく勉強になりました。
例えば、RADWIMPSはしっかりとリハーサルを重ねながら準備をして、ベーシックとなる下地をドデカく作りつつも、本番ではアドリブを交えながらその日ごとに表現を変えていく。逆にSuchmosは、リハーサルをし過ぎないっていうのが1つテーマだったりしたんですよ。事前にやりすぎてしまうと、表現の鮮度を保つのが難しかったりするんです。
風ちゃんは……わりと任せてもらえましたね。本番をやってみて“このパートは歌と一緒にユニゾンしよう”みたいな感じで、ライブを重ねる中で出てきた客観的な意見や思いついた発想をどんどん取り込みながら完成形へと近づけていく。そうやって全員が成長していったので、代々木第一体育館でやったツアーの最終日なんて本当にすごくて……自分でも“集大成になったな”と感じました。
去年は……そんな感じで、本当に学びの多い1年でしたね。(小杉)隼太(HSU/b ※2021年10月に逝去)の件もありましたし。
とても悲しい報せでした。
今回の制作の時も“もし隼太だったら、どう弾くんだろう?”って考えながらベース・ラインを考えたりしたんですよ。中でも「VOICE」は、隼太をイメージしながら“こんな感じかな?”って俺が隼太クローンになりきって弾きました。人が聴いて“隼太っぽい”って思うかどうかはわからないですけど、そういうテーマ性で作ってみようかなって。そういうアプローチは、ソロだからこそできる面白さなのかもしれないですね。
今回は、歌やギターだけでなくドラム、ベース、鍵盤も含めてすべての楽器演奏を自分1人でやっているんで、やっぱり作り込んでいく過程でぶち当たる壁が1曲ごとに必ずあるんですよ。そこで“あいつだったらこうやってくれんじゃないかな?”って感じで、自分の中で発想を広げながら乗り越えていくというか。
自分なりのやり方を
“実験してみたい”って気持ちがあった
改めてソロ作品について話を聞かせて下さい。どの曲もギターがフィーチャーされていますが“弾き語り”のようなナンバーはなく、細部までこだわって編曲された音楽だと感じました。『RAFT』と『CAPE』の制作に関して、思い描いていたイメージは?
作品のイメージは曲ごとに変えちゃえばいいと思っているので、テーマ性についてはあまり深く考えていなかったんですけど、今回は昼と夜っていうコンセプトで『RAFT』と『CAPE』を作りました。あとは、バンドに比べて制作予算も少なくなる中で、自分1人の宅録でどこまでやれるか勝負してみたい、って気持ちもありましたし、以前とは異なる環境の中、自分はやりたいことをどのようにやりながら、ファンやスタッフ、音楽関係者の方々とどのような関係を築き上げていけるのかってところが、今すごい気になってて。
自分の音楽をハブにして、いろんな人とどうつながっていくか?というところでしょうか。
そうです。なので、まずは座組みから変えていく必要があるなって。そういうことはバンドの時から考えていたんです。ただ、Suchmosの場合は、ありがたいことに、ちょっとした成功も収めていたという自負もあるので、予算面やスタッフとの関係値といった面も含めて、いろんな人の協力を得て活動できていた。だけど、それがソロになるとどうなるんだろう?って時に、やっぱりバンドでのやり方とは制作に対する向き合い方を変えなきゃいけないよね、っていう現実的なラインがあったんです。
だからこそ、これからの時代に合わせてドンドンやり方を変えていく必要があるだろうし、僕自身も頑なに“俺たちはCDを売って食べていくんだ”っていうタイプでは全然ないんで……。例えば“ストリーミングが主流の時代に自分の音楽とどうやって届けていくか?”っていうこととも向き合いながら曲を作っていましたね。そういう自分なりのやり方を“実験してみたい”って気持ちもあったんですよ。“自分がマウスになりたい”っていうか。
自分の起こすアクションに対するリアクションで効果測定していくというか。
そうですね。それを見たいっていうのも、ソロを始めた理由の1つでもあったりして。“どういうやり方だったらこの先の時代とうまく付き合っていけるのか?”ってところで“やり方を大幅に変えたい”とは個人的に考えていました。
1枚のアルバムではなく2枚の“EP”というのは、1つの作品の尺の長さなども含めて現代の聴かれ方に適しているように感じます。
そうなんですよね。僕自身、“アルバムとして聴くのは長過ぎるけど、アーティスト性も理解してもらいたい”っていう意味で、今回の形がちょうど合っているように感じたんです。やっぱりソロとしての自分の音楽を聴いてもらって、知ってもらうってことから始めないといけないので、そのためにはどういうサイズ感で届けたらいいのか?ってことはすごく気にしていますね。
あと僕もY世代(1980年から1994年までに生まれた世代)らしくて……CDの時代も知っているし、ダウンロードやストリーミングとかを全部、中途半端にかじっちゃってる世代だなとは思ってて。でも、そこで頭でっかちになるのは嫌だし、やっぱり時代に合わせていきたいですしね。
音楽の聴き方の選択肢が多様化したことで、自由度は上がっているようにも感じます。
僕もそう思います。例えば、同じ曲だったとしても、配信バージョンとフィジカル(CD)でアレンジを変えたりだとか、ひとつひとつの工夫が少しずつ数字を伸ばしていくことにもつながるのかな、とは思っていますね。
今回の作品を聴いて、ギタリストのソロ・アルバムではありますが、セッションマン的なアプローチで演奏されているフレーズがとても多いように感じました。
そうですね。色んな音がレイヤーとして重なってはいるんだけど、ゴチャゴチャしていないってところにフォーカスしていたかもしれないです。
特に「Easy」は、アレンジ面も含めて楽曲の完成度が非常に高いと感じました。
まさに「Easy」はそうですね。ギターは7~8本ほど重ねているんですけど、歌が真ん中にありつつ、要所要所で聴こえてくるペンタトニックのフレーズや、ブルースな雰囲気をいかに自然体に聴かせられるかってところを意識していました。
この曲のアレンジはすごく細かいところまで考えたんですよ。フリーに弾いているように聴こえるかもしれないけど、めちゃくちゃ決め打ちで演奏していて……ギター・ソロも今でも音源とまったく同じに弾けますからね。
そういう部分も含めて“ギタリストのソロ作でもありつつ、うるさくなり過ぎないように聴かせたい”みたいなのが……実はありました(笑)。ギタリストというのは、僕の一番パーソナルな部分だし、アイデンティティなので、ギタリストの作品というところには着地させたいという気持ちはすごく強いんですけど、その一方でギタリストし過ぎないっていう塩梅が……とても難しかった(苦笑)。
ギタリストのソロ・アルバムって、どこか歌とギターがリンクしていたりするんですけど、そういう匂いを全然感じない(笑)。
そうかも(笑)。歌のバックでギターをジャカジャカ弾くような曲ではないので、今はライブでどうやって表現したらいいかすごい悩んでいるんです。
ほかにもコーラス・ワークの音の積み方も緻密で、「Humming Birds」は山下達郎さんを彷彿とさせました。
確かに(笑)。三度上、五度下、オクターブ下をそれぞれダブルで入れたりして……全部で8声になったりするんですよ。ああいうふうに声が重なってブワッと来る感じはすごく好きなんです。あと僕自身はボーカリストではないので、自分の歌は曲を構成する1つのパートとしてとらえていて。だから“パンチを出したいな”とか“ちょっと豪勢にしたいな”って時に少し凝った音の積み方をしたコーラスを入れています。半分趣味のような感覚ですね(笑)。
個人的に「VOICE」は、シンセを絡ませた黒っぽいグルーヴにプリンス的な雰囲気を感じました。どのように作ったんですか?
この曲を作る時の個人的なテーマは“「STAY TUNE」のような楽曲を作りたい”だったんです(笑)。それを1人のギタリストが表現するんだったら、ギター・リフをガンガン前に出しながらも、ギミック的なカッティングを左右に散りばめつつ、歌がベーシックにあるというのが、この曲のゴールだったんですよね。なのでわりとギタリストっぽい雰囲気もありつつ、“あれ?これ、何なんだろう?”みたいな違和感も狙いたかったので……プリンスっぽいって言われるのがすごく面白いですね。
この曲のギター・ソロで聴けるファズを使ったシンセのようなサウンドも耳に残りました。
あれはOrganic SoundsのThe TriangleというBIG MUFFのクローンですね。すごく気に入っているペダルで、トーンをゼロにしたストラトと50年代後半製のフェンダーHarvardを組み合わせて録りました。“聴いたことないような音でソロを録りたいな”っていうのがあったかも。
サウンドメイクでこだわったところは?
“聴き馴染みはあるけど、どこか癖のあるサウンドにしよう”ってことを心掛けてるかもしれないです。最近は特に、一般的な“良い音”という概念について疑問に感じることが多くて。というのも、良い音って人それぞれの主観だと思うんですよね。なので“時代の音”って言ったほうが正しいんじゃないかなって。
例えば、“90年代っぽい音を出すんだったらこの機材の組み合わせだよね”、“70年っぽいのだったらこうだよね”、“80sのカッティングだったらストラトのハーフトーンの使うよね”みたいな“時代の音”はあると思ってるんです。でも、それが良いか悪いかは関係ないんじゃないかなって。
ちなみに次回作のイメージはありますか?
やっぱり僕自身の根っこはギタリストだから、基本的には“ギターが映えるような作品にしたいな”って考えているんですけど、その反面で“ギタリスト臭くしたくないな”とも思っていて……。なので、むちゃくちゃ歌モノに振り切った音楽とかやってみたいですね。星野源さんみたいな感じとか、すごく面白そうだなって。ギタリストという自分のパーソナリティは残しつつも、むっちゃポップな表現をしてみることには興味があります。
とはいえ僕は、音像を基本的にキレイに整理したがる癖があるんですよ。汚すほうが苦手というか……そこは次なる課題ですね(笑)。ただ、バンドであれソロであれ“その場で表現したいものをシンプルにアウトプットしたい”っていう気持ちはずっと変わっていないです。
常に音楽家の表現は冒険だと思うんですけど、自分がギタリストであるということは大事に守っていかないといけないなってことは一貫して考えているところだし、常にその瞬間の最大風速を音楽としてパッケージしたい。その時の自分がやりたいことをしっかりとやりたいし、変わらずにいるために変わり続けるっていうのも大事なことだと思う。同じようなことばかり続けていると、やる側も飽きちゃいますから。
自分に求められていることも理解はしているんですよ。だってライブでは絶対に「STAY TUNE」をやってくれって言われる時期もあったし。今は逆にめっちゃ「STAY TUNE」やりたいもん。
最新の自分だったらどう表現するんだろう?みたいな。
そうです、そうです。やっぱりSuchmosのことを多くの人に知ってもらうきっかけになった曲ですしね。
ビッグ・ヒットが自分自身を縛っていた部分もあったんですか?
自分で勝手にそう思い込んでしまっていたって部分はあるのかもしれないです。ヒットしたからこそ“似た雰囲気の曲を作ったほうがいいんじゃないか?”っていう葛藤もあったし。でも、当時の自分たちのスタイルとしては、どんどん新しい表現を求めていこうって考え方だったんですよね。そこに行くのって勇気が必要だし、特に3枚目(『THE ANYMAL』/2019年)なんかはもう、あの時にしか作れなかった作品だと思うんですよね。
次のソロ作品も楽しみにしています。
ありがとうございます。
作品データ
『RAFT』
TAIKING
ソニー/KSCL-3278/2022年2月23日リリース(2021年12月15日配信スタート)
―Track List―
01. SPOT LIGHT
02. Humming Birds
03. Easy
04. Present
『CAPE』
TAIKING
ソニー/KSCL-3279/2022年2月23日リリース
―Track List―
01. Space Traveler
02. VOICE
03. FIRE
04. SHIP
―Guitarist―
TAIKING