結成25周年を迎えたASIAN KUNG-FU GENERATION(以下アジカン)が、3年ぶり10作目のオリジナル・アルバム『プラネットフォークス』を完成させた。当初予定されていたロンドンでのレコーディングが、コロナ禍の影響で断念を強いられるなど、逆境を乗り越えて完成に至った今作は、ROTH BART BARONの三船雅也らをゲストに迎え入れ、現代的な要素を取り入れつつも、さらに進化したアジカン・サウンドが堪能できるアルバムに仕上げられている。後藤正文(vo, g)に今作の制作や、5月から始まるツアーに向けた思いを語ってもらった。
インタビュー=尾藤雅哉(ソウ・スウィート・パブリッシング) 写真=山川哲矢
アジカンの可能性を広げる作品にしても良いのかもしれない
4月で結成26年目を迎えた中、3年ぶり10枚目のフル・アルバムを発表しました。どのようなコンセプトで制作されたのでしょうか?
最初はロンドンでアルバムを1枚作るつもりだったので、ブリティッシュな曲を書こうと思っていたんですけど、パンデミックで叶わなくなってしまって。そこからは、“色々な曲を作って、ASIAN KUNG-FU GENERATION(以下、アジカン)の可能性を広げてもいいのかもしれない”という話をメンバーでしつつ、特にこれといった方向性は定めずに曲を書いていきましたね。
四半世紀にわたる活動の中で、バンドとして変化してきたところ、変わっていないところをそれぞれ挙げるとしたら、どのあたりでしょうか?
使用する機材や制作コンセプトはその時々で変わっても、アンサンブルに色濃く出てしまう“バンド・メンバーの身体性”のようなものは、そこまで大きな変化はないと思います。普段の活動で考えていることや、運動神経も含めた身体の部分についても、ずっと付き合いながら歩みを重ねている感じですね。
例えば、“喜多(建介/g)さんだったらこの音”といった、メンバーそれぞれの記名性が演奏に刻まれているということでしょうか?
弾き方や、発音のタイミング、運指の癖といった“あいつが弾くと、その音になる”みたいなものは、メンバー全員が持っていると思います。楽器とアンプくらいじゃ変わらないですから。
そういう演奏者の記名性みたいなところに対して “もう少し変化が欲しいな”と思うこともありますけど、一方では、そういう“記名性をどうやって獲得するか?”が世の中に知ってもらうためには大切だったりもする。これだけたくさんの音楽が発表される世の中にあって、演奏する人間が誰でもよかったらもはや生き残っていけないので、プレイに記名性があることは悪いことじゃないな、とも思うんです。
そういう点では、後藤さんの歌声にも、今作に参加しているROTH BART BARONの三船雅也さんや羊文学の塩塚モエカさんといったゲスト・アーティストにも、一聴するだけで誰が歌っているかが聴き手に伝わる記名性があるように感じます。
そうですね。僕も含めて、今回の作品に参加してもらっている人たちは、みんな記名性が高いですよね。でも、そういう人たちしかシーンの前線に出てこられないし、残っていけない時代になった。そういう意味では、厳しい世界とも言えますよね。
今作ではギブソン・ギターのリッチな音が生々しく鳴り響いていて、サウンドが本当にカッコいい作品だと思いました。ギターの音作りに対するこだわりとは?
“どうやってギターの良い音を録るか?”という研究はずっと続けているんですけど、良いギターの音を録ろうとして音量を上げていくと、少し野暮ったい感じの音になって、世間の潮流からはズレていってしまう。でも近頃は、ヒップホップの人たちもグランジやオルタナから影響を受けて、ギターをフィーチャーした楽曲を作るようになってきていますし、(マシン・ガン・ケリーの『Tickets to My Downfall』をきっかけに)ポップ・パンクが再燃していたりもする。だから僕としては、徐々にデジタルなギター音が求められるような時代に変わってきたような感覚も持っているんですよ。
今、プロデューサ―として活躍しているYaffle君(小島裕規)も“アナログな機材を使うと、一気に今の音じゃなくなる”って言っていましたし。ラインで録った音をアンプ・イン・ア・ボックス(※アンプの音をエフェクターで再現したもの)を使って歪ませたりとかは、多くの人がやっている手法なんじゃないですかね。ただ『プラネットフォークス』に関しては、エフェクターはなるべく踏まずに、アンプから出た音をマイクで録っています。時代には、逆行していますけど(笑)。
加えて、ミキシングとの連動性も重要で。ボーカルやギターの帯域を広く取るために、ベースやドラムはなるべく低域を奏でるようにしてもらう。ベースがギターに近い音域で鳴っていると、ギターの奏でる“おいしい”中低域が割り引かれてしまうような感覚があるんですよね。なのでミックスの努力の甲斐もあって、結果としてギターの音が良くなったと感じています。
加えて、曲が終わったあとの余韻の部分は、音の消え際まですごく美しいと感じました。
ありがとうございます。音は消える瞬間が一番美しいんですよ。だから、リバーブがどこで終わり、どこで消えていくか……そういう“音が消えていくところ”を聴いてもらうように意識はしましたね。最近は曲の最後のリバーブの残響にもこだわりながら、曲を作っているんです。
メロディがコードに引っ張られて新しいところに行けるような感覚があった
今作において、バンド・アンサンブルにおけるギターの役割をどのようにとらえていますか?
今回のアルバムのポイントは、4和音やテンション・コードを多く使い、パワー・コードを少なめにしているところだと思っています。そして曲の中では、僕か喜多君のどちらかのパートを目立たせないといけないところもあったりするので、2人の演奏が被ってそれぞれの美味しさを削ってしまわないように、同じポジションをなるべく弾かないようにしたり、バッキングや歌と被らないポジションで演奏したりしました。
あとアジカンは楽曲の構造上、喜多君が歌メロに対してカウンターのメロディを弾くパートがめちゃくちゃ多いんで、そのあたりを整理しながらギター・パートのことを考えていましたね。
アジカンの楽曲にもよく登場するオクターブ奏法の使い方に関してはいかがですか?
オクターブ奏法は、コード進行上の制約があまりないですし、簡単に面白いことができるんですよ。喜多君のポジション移動によってコードがセブンスに変わったり、メロディによってコードの積み方を変えられたりもできるので、全員でメロディを弾きながらコードを動かしていけるというか。なのでアンサンブルに参加している全員が、面白く表現できるところでもあるんじゃないですかね。
今回、テンション・コードの響きが後藤さんの歌や演奏に影響を与えたところは?
歌のメロディに対する考え方は人それぞれではあると思うんですけど、僕の場合、コードをちゃんと鳴らすと、その響きで情緒がコントロールされちゃうと思うんです。例えば、メジャー・セブンスを弾いたら“うわ、オシャレ”みたいな。
普段アジカンはパワー・コードを中心にしているのですが、今回の『プラネットフォークス』では、先ほど言ったとおりメジャー・セブンスなどを取り入れて曲を作ったりしました。そうすることで、メロディを作る時にコードの響きに引っ張られて、“どこか新しいところに行けるんじゃないか”という感覚になったんですよね。
では今回のアルバムにおいて、バンドとしてチャレンジをした部分は?
「雨音」のバッキング・ギターはもともと入ってなかったんですけど、自分たちで響きを採譜しながらコード進行を考えていったんです。ルート音はベースに任せつつも、ギターできちんと和音を積み上げていくということを意識しながら曲を作り込んでいきました。これは初めての試みでしたね。これまでは“面倒だからパワー・コードにしちゃえ”みたいなこともあったんですけど、“ちゃんと譜面に書かないとわからないことがあるんだな”と、色々な発見がありました。
ほかにも「Gimme Hope」は、ベースのルートだけ聴いたらめちゃくちゃいつものアジカンなんだけど、ギターがテンションを入れた4和音を指定して響きの表情を変えることで、“あれ? いつもと違うかも!?”みたいに聴こえるっていう。そういう普段使っているコードの手癖感を避けるようなアプローチもやりましたね。
今作の一部はロンドンでレコーディングをされていますが、その場所でしか出せない音作りを経験して、後藤さんは何を感じられましたか?
本当に昔ながらのレコーディング手法かもしれないですが、“あのスタジオに行かないと、この音にならないんだよな”というものが確かに残っている。その音の違いを味わえるという経験は、とても贅沢だなと思いました。スタジオの音は、電気や機材、建物の形や残響音などの複雑な要素が絡み合って成り立っているのですが、一度その違いを体感することで、例えばアンプ・イン・ア・ボックスを使ったとしても自分なりに“その音”を再現できるようになったりしますからね。
経験することで、そのサウンドが自分の中にインストールされているような感覚?
そうです。実際に経験することで“あのスタジオの鳴りはこんな感じだったな”みたいに、音がイメージできるようになる。例えばテープ・エコーにしても、シミュレーターと実機では、音がちょっと違うんですよね。やっぱり“実機のサウンドを知っている”ということは、作業をする時に自分の中にきちんとした芯を通してくれる感覚があるんです。理解したうえでやるのと、知らないでやるのでは、意味がかなり違うと思うので。
なるほど。ちなみに後藤さんは、思いも寄らない方向への“音楽的な事故”を歓迎するタイプですか?
そうですね。今話してきたようなエフェクト効果などは、簡単に再現できないほうが面白いと思います。曲で盛り上がる箇所をオートメーションで書いてるとか、あとから考えると“サムいな”と思うかもしれないし、効果を数値化されるとちょっと恥ずかしかったり。
先ほどの“演奏の記名性”にもつながってきますけど、自分たちじゃなきゃ出せない音や、表現へと向かうありとあらゆる衝動は、絶対にオートメーションでは書けないと思うんです。“一度手を付けたら、もう後戻りできない”というような覚悟や、ある種の集中力をバンドに求めたりするほうが、結果として作品が完成した時に良かったりもする。なので“どのような表現をするか?”によってやり方を使い分ければ良いと思います。
例えば、ノイズとか、譜面化できないようなアプローチは、音楽に対してある種の反権力的なやり方なんですよね。平均律って、権力的な音の分割の仕方なので、そこに抗う意味でノイズや何の音なのかわからない複雑な倍音などは、音楽にとってめちゃくちゃ豊かな要素なんじゃないかなって思います。
メンバーが生き生きと演奏していて気分がいい瞬間があることが、今のアジカンの存在意義だと思う
現在はライブに向けたリハーサルの真っ只中だと思います(取材は4月中旬)。改めてアルバムの曲と向き合ってみて、気づいた点はありましたか?
僕は、ライブとレコーディングの音を切り離して考えているんです。レコーディングで録った音をライブで再現しようとすると、どうしてもライブの現場が窮屈になってしまうし、音源でライブの良さを出そうとしても、やっぱり無理が出てきてしまいますから。
なのでステージ上では、自分たちが出す生身の音で再構築する、とでも言うんでしょうかね。音の長さが変わってもいいし、ビートも揺れていい。例えば、サポート・メンバーが変わったりして、新しいグルーヴが生まれたりすると、そのほうが圧倒的に面白いですし、“このアルバムのツアーに来たんだ!”って感じられますから。
その瞬間だけの表現を会場にいる全員が共有できるということですね。
そうですね。 “この時の演奏は、あそこだけ長かったよね”とか。その時のムードが反映されていたほうが、スペシャルなものになるのかなって感じているんです。“自分たちの音楽は、いつも音源と同じ音で演奏できるわけではない”っていうことを逆手に取って、自分たちの魅力に変えていく。人間がやっているからこそ、オーガニックな方向に振り切っていくほうが自分の好みでもありますし、 ライブをやっている僕らも、観ている人にも楽しんでもらえるんじゃないかなと。
今作を作り終えてみて、後藤さんは今後のアジカンの表現の可能性についてどのようにとらえていますか?
最近は、“メンバーが喜びを共有しながら生き生きとやれるのがいいかな”っていう風には思うんです。そのためには“アルバムを作るためのコンセプトが重要なのかな”とか思ったりもして(笑)。今の音楽業界が、あまりコンセプチュアルな作品作りを許していない風潮はあるんですけどね。予算をつけていくうえで、どうしてもタイアップが必要で、それらに合わせて曲を書かないといけないような状況もありますから。
なるほど。例えばザ・スミスのように“アルバムにシングルが入っていない”状態もあってもいいかもしれないですし。
そういうこともやりたいですし、以前、僕らも実際にやってきたんですけど……最終的には“やっぱりシングル曲を入れておけばよかったな”と後悔することが多くて。「ブラックアウト」や「マーチングバンド」のようなタイアップがついているのにアルバムに入っていない曲もあるんですけど、“果たして本当によかったのか?”みたいな問いにもつながるという(苦笑)。判断が難しいところなんですよね。
でも、サブスクの時代において、アルバムが解体されたような形で曲を聴かれていくのなら、プレイリストの中でも勝ち抜けるような形で存在感のあるシングル曲を作っていけばいいわけですし。もっと“アルバムに入れる曲を絞っても良いんじゃないかな?”っていう気もしますけどね。
近年はサブスクリプション・サービスやCDだけでなく、カセットテープ、アナログ・レコードなど、聴き手が自由に音楽の楽しみ方を選ぶことができます。
様々なフォーマットの中から、何を選ぶのかは難しいんですけど、結局は自分たちで決めていくしかないんですよね。Spotifyに入れても自分たちの曲は埋もれていってしまうし、それだったら“レコードに入れておいたほうが、あとあとになって面白いバグが起きるかもしれないな”とか。“ちょっと変わったフォーマットを使って、予期せぬ形で曲を残せないかな”とか、いろんなことを考えています。
むしろリスナーの視点ではなく、いっそのこと“作品ができた時に、自分たちがどれだけの達成感を得られるか”に注目してみてもいいのかなと感じることもありますね。アルバム制作を経済的な側面で見ると、レコーディング・スタジオを借りなきゃいけないし、楽器も買わなきゃいけない。金銭面での悩みが尽きることはないから……“せめて達成感を得られるところだけは、現実世界を忘れていいんじゃないか”とか、“作品の着地点の一瞬だけでも、お金の悩みからは逃れるような思考回路でやったほうが幸せで楽しいんじゃないかな”っていう思いもあるんですよね。足が着いたあとには、すぐにお金の話がやって来てしまうわけですから(笑)。
そういった現実面に目を向けなければならないからこそ、先ほど話に出た“メンバー同士で喜びを共有する”という部分がより重要にもなってきますね。
そうなんですよ。“みんなが生き生きと演奏していて、音楽を鳴らすと気分がいい瞬間”があることが、バンドにとっての存在意義であり、魅力でもある。なので、時には言い争ったりすることもあるかもしれないですけど、そこに向けて色々と努力を積み重ねていけたら楽しいかな、とは思っていますね。
LIVE INFORMATION
ASIAN KUNG-FU GENERATION
Tour 2022 “プラネットフォークス”
【SCHEDULE】
5月28日(土)/埼玉 三郷市文化会館 大ホール
5月29日(日)/埼玉 三郷市文化会館 大ホール
6月01日(水)/東京 東京国際フォーラム ホールA
6月04日(土)/広島 上野学園ホール
6月05日(日)/熊本 市民会館シアーズホーム夢ホール
6月10日(金)/石川 本多の森ホール
6月12日(日)/静岡 富士市文化会館ロゼシアター 大ホール
6月17日(金)/愛知 愛知県芸術劇場 大ホール
6月21日(火)/神奈川 神奈川県民ホール 大ホール
6月26日(日)/香川 レクザムホール 大ホール
7月01日(金)/兵庫 神戸国際会館 こくさいホール
7月02日(土)/奈良 なら100年会館 大ホール
7月09日(土)/群馬 高崎 芸術劇場 大劇場
7月15日(金)/千葉 市川市文化会館 大ホール
7月23日(土)/東京 日比谷野外大音楽堂
9月30日(金)/宮城 仙台サンプラザホール
10月02日(日)/岩手 盛岡市民文化ホール 大ホール
10月08日(土)/栃木 宇都宮市文化会館 大ホール
10月15日(土)/北海道 カナモトホール
10月19日(水)/大阪 グランキューブ大阪 メインホール
10月20日(木)/大阪 グランキューブ大阪 メインホール
10月23日(日)/福岡 福岡サンパレス ホテル&ホール
10月27日(木)/神奈川 横浜アリーナ
11月19日(土)/沖縄 那覇文化芸術劇場なはーと
全席指定席:7,300円(税込)※3歳以上チケット必要
[高校生以下対象 学割あり]※当日学生証or証明書持参で1,500円キャッシュバック
※チケット購入の詳細は特設ページまで
http://www.akglive.com/tour2022/
作品データ
『プラネットフォークス』
ASIAN KUNG-FU GENERATION
Ki/oon Music/KSCL-3367/2022年3月30日リリース
―Track List―
01. You To You(feat. ROTH BART BARON)
02. 解放区
03. Dororo
04. エンパシー
05. ダイアローグ
06. De Arriba
07. フラワーズ
08. 星の夜、ひかりの街(feat. Rachel & OMSB)
09. 触れたい 確かめたい(feat. 塩塚モエカ)
10. 雨音
11. Gimme Hope
12. C’mon
13. 再見
14. Be Alright
―Guitarists―
喜多建介、後藤正文