Interview | 小山田壮平×濱野夏椰 初ソロ作『THE TRAVELING LIFE』の制作秘話 Interview | 小山田壮平×濱野夏椰 初ソロ作『THE TRAVELING LIFE』の制作秘話

Interview | 小山田壮平×濱野夏椰
初ソロ作『THE TRAVELING LIFE』の制作秘話

andymori、ALのフロントマンとして日本のロック・シーンを牽引した小山田壮平が、キャリア初となるソロ・アルバム『THE TRAVELING LIFE』をリリース。“人生とは旅である”をコンセプトにした今作のレコーディングには、Gateballersの濱野夏椰(g)と久富奈良(d)、そして藤原寛(b)を始め、小山田が信頼を寄せるミュージシャンが参加しており、とてもリラックスした音世界を堪能できる。小山田とは10年来の仲だという濱野夏椰とともに、アルバムの制作について話を聞いた。

取材・文=小林弘昂 写真=星野俊


ベンチャーズをひたすら弾きまくってたんですよ。
──小山田壮平

壮平さんはギター・マガジンに一度も登場したことがないので、まずはギターを始めたキッカケから教えてもらえますか?

小山田 もともと僕はB’zを聴いて歌手になろうと思いまして。それからMr.Children、スピッツ、エレファントカシマシ、THE YELLOW MONKEYといった90年代のバンドが好きになったんです。ピアノは小学4年生からやっていたんですけど、中学1年生の時に“ミュージシャンになるならやっぱりギターをやらなきゃいけないな”と思って(笑)。それで近所の楽器屋さんに行ってギターの先生を紹介していただいて、貯めていたお年玉でストラトキャスターを買ったのが始まりですね。

最初はギターのレッスンを受けていたんですね。

小山田 そうです。でも、その先生がベンチャーズしか教えてくれなくて(笑)。今は素敵だと思っているんですけど、当時は苦手だったベンチャーズをひたすら弾きまくってたんですよ。あと、それと同時期くらいに父親がK.Yairiのアコギを知り合いから借りてきてくれて、それで当時のヒット・ソングのコードを覚えて弾き語りを始めました。

壮平さんの楽曲は、70年代の日本のフォークや、00年代以降のオルタナ/ガレージ・ロックの影響も感じられるのですが、最も影響を受けたギタリストは?

小山田 ずっとボーカリストを見ていたというか、ギターに注目することが大学生くらいまでなくて。意外かもしれないんですけど、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドを映像で見た時に初めて“ギターってすごいんだな!”と感じたんです。andymoriを始めた時はリバティーンズやストロークスがすごく好きだったので、当時は“和製リバティーンズ”と呼ばれていました(笑)。

夏椰さんのルーツは壮平さんと近いのでしょうか?

濱野 いや、全然違っていて、僕はBLANKEY JET CITY、ニルヴァーナ、レッド・ホット・チリ・ペッパーズなどを聴いていたんです。

超ロック少年ですね。

濱野 おもしろかった話があって。以前、壮平君バンドのライブで「everything is my guitar」(『andymori』収録)を演奏することになったんですよ。おそらくandymoriのライブでは一度も弾かれていなかった歌裏のギター・フレーズがあって、それをコピーしなくちゃいけなかったんです。その時に壮平君が“これはジョン・フルシアンテ風のフレーズなんだ”って言っていたんですけど、僕は“これのどこがジョン・フルシアンテ?”って思って(笑)。その解釈がこんなにも違うのかと。

小山田 ジョン・フルシアンテも好きでしたね。あのフレーズはジョンですよ(笑)!

濱野 裏から弾くっていうところはね(笑)。

小山田壮平

今作のリリース前にレコーディング・メンバーでツアー(「小山田壮平バンドツアー2019」)をまわりましたが、壮平さんがバンドのギタリストに夏椰さんを指名した理由は?

小山田 彼のギターが本当に好きで、すごく尊敬していて。

濱野 僕も壮平君の歌が好きです。

小山田 このように僕の音楽も好いていてくれて、一緒にやってくれそうな感じもあったのでお願いしました。

壮平さんから見て、夏椰さんはどんなギタリストですか?

小山田 情熱的で、無邪気なギターも弾く。でも、破壊的っていうことじゃないんです。ちゃんと曲の中で彩ってくれるところもあるし、特にラップ・スティール・ギターはすごく優しい響きを感じますね。

夏椰さんから見た壮平さんはどんなギタリスト?

小山田 “一応ギター持ってるなぁ〜”みたいな(笑)?

濱野 いやいや(笑)。壮平君のギター、かなり好きだよ。『革命』(2011年)の時は“おぉ〜!”って思ったな。あと壮平君のプレイはムダがないですね。僕のギターがなくても成立する状態で曲を持って来るから、いつも何をしたらいいのかわからないところから始まっていて。だから僕は“余計なことをする係”なんです。

壮平さんの楽曲はandymori時代から3ピースで楽曲が成立していたので、夏椰さんがどうやってそこにギター・フレーズを入れるのかがすごく気になっていたんですよ。

濱野 同じ音を違うポジションで弾いて重厚にしたり、いろいろやることはあったんですけど……いつも困ります(笑)。困りながらやっています。

小山田 andymoriの曲をやる時は特に困らせちゃうかな。

濱野 例えば「グロリアス軽トラ」(『ファンファーレと熱狂』収録)はアレに何か加わっても嫌で。だから“軽トラ感”を出そうとラップ・スティール・ギターを弾いています。

現在、壮平さんは福岡に住んでいるそうですが、どうやってバンド・メンバーとアレンジを仕上げていったのですか?

小山田 基本的にはGarageBandですね。一番多かったのはギターと歌とコーラスだけ入れたデモをみんなに投げておいて、会った時に擦り合わせるというやり方でした。

濱野 最初に壮平君から“こういう感じで!”とイメージを言われるんです。で、それを考えて持っていくと、ふたりの間のジョン・フルシアンテの解釈が違った……みたいなことが発覚して、やり直すという(笑)。

小山田 おもしろい話はいっぱいありますよ。僕は「旅に出るならどこまでも」の夏椰君のギターを聴いてビックリしましたね。

濱野 “カマキリ・グルーヴ”ね(笑)。

カマキリ・グルーヴ(笑)。ショート・ディレイがかかったフレーズのことですよね。

濱野 そう。カタカタカタ……っていう(笑)。

小山田 それがカッコ良い。それとサビの途中から(2:21〜)のコード進行も夏椰君がちょっと変えてくれて、もっとカッコ良くなったんですよね。

濱野 “『太陽にほえろ!』ゾーン”ね。

小山田 いやいや、文字じゃわからないでしょ(笑)!

濱野 ギタマガ読んでる人はわかるよ(笑)!

“マンチェスター・チューニング”を定着させていきたい。
──濱野夏椰

今作で夏椰さんが求めたギター・サウンドは?

濱野 曲によって違うんですけど、「HIGH WAY」はトム・ペティ&ザ・ハートブレイカーズって感じです。「旅に出るならどこまでも」はレッチリの『Stadium Arcadium』。

小山田 これ全曲言う流れだよ(笑)。

濱野 ヤバイ(笑)。「OH MAY GOD」はレッチリの『By The Way』。「雨の散歩道」はレスリーを使ったからプロコル・ハルムかな。で、「ゆうちゃん」は“みんなのノスタルジー”みたいな。「ベロベロックンローラー」はベロベロ酔っ払ってる感じ(笑)。「スランプは底なし」と「Kapachino」はどっちもフライングVで録ったんです。「Crazy Train」(オジー・オズボーン/『Blizzard Of Ozz』収録)みたいな音で。

ランディ・ローズですね(笑)。

濱野 「君の愛する歌」は壮平君から“優しい宿”っていうイメージを言われていたので、以前インドで泊まった宿を思い出しながら弾いてました。「ローヌの岸辺」は映画『ナイト・オン・ザ・プラネット』を観直して弾きましたね。「夕暮れのハイ」は初期オアシスって感じです! MATAMP(GT-100)を200Vで鳴らして、ドアを開けてレコーディングしました。

小山田 “マンチェスター・チューニング”にしたよね。

濱野 そう。ギターのチューニングを441Hzにしてね。200Vのアンプと441Hzのギターで“マンチェスター・チューニング”。これを定着させていきたい。

濱野夏椰

壮平さんも夏椰さんと同じように、1曲ごとにイメージを持っているのでしょうか?

小山田 いや〜(笑)。……「HIGH WAY」はくるりですね。「旅に出るならどこまでも」はストロークスです。

濱野 そういうことだったんだ……!

小山田 自分のギターだけのイメージね(笑)! 「OH MY GOD」はシンディ・ローパーです。

濱野 こういうの聞くとおもしろいですよね。“そうなんだ!”ってなる(笑)。

小山田 「雨の散歩道」は……。

濱野 井上陽水!?

小山田 いや……。

濱野 ほら、解釈の違い(笑)。

小山田 (笑)。「雨の散歩道」はブルース好きのおいちゃんって感じかな。「ゆうちゃん」はハネてるし……元気な小学生。「ベロベロックンローラー」は夏椰君がギターを入れてくれたのもあって、ちょっとオールディーズな感じがしてるんですよね。「スランプは底なし」も夏椰君のスライド・ギターが良い。

濱野 今作はIZU STUDIOで録ったんですけど、あそこって“出る”じゃないですか? まだ審議中なんですけど、僕のスライド・ギターの音が女の人の声に聴こえるっていう。

ええ!

小山田 ゴーストだよ(笑)! 「Kapachino」はリバティーンズって感じがするな。「君の愛する歌」はいろんな音が入っていておもしろい。“流れ星”とか……って、コレ説明になってないですよね?

いえいえ(笑)。“流れ星”って、イントロのキラキラしたギターのことですよね。

濱野 そうです。ジャガーとルーパーで作りました。ボリューム奏法でファ〜っとフレーズを入れるとそれが重なっていくので、窪みを埋めるようにどんどん足していきましたね。

小山田 「ローヌの岸辺」は最初クラシックのイメージがあったんですけど、夏椰君が逆再生のピアノのアイディアを入れてくれたんですよ。

濱野 逆再生のピアノの選択はみんながやってくれましたけどね。

小山田 散らかして帰ったという。“どうしろっちゅうねん!”みたいな(笑)。だからすごくおもしろい曲になりましたね。で、「夕暮れのハイ」は“UKだね”と言われたのでUKロックになりました。最初はアコギのイメージだったのにね。

濱野 うん。あのリフを思いついちゃって(笑)。

小山田 最初に夏椰君が弾こうとしたリフは、すごくオールド・ロックみたいな感じだったんですよ。僕はそれも良いなと思ったんですけど、“ちょっとオアシスの「Slide Away」(『Definitely Maybe』収録)みたいな感じにしてみて”って言ったら……。

濱野 そこでまた違ったオアシスの解釈が起きてしまって、こうなりました(笑)。

(笑)。では最後に、今作の聴きどころを教えて下さい。

濱野 “車に乗ってどこまでも行こう!”となって、“OH MY GOD”ってこともあって……。

小山田 また自ら難しい方向に……(笑)。

濱野 (笑)。雨も降ったり、懐かしい気持ちになって昔の約束とかを思い出しちゃって酒浸りになったり。そして“もう何もできないスランプだ”って言ったり、フランスに行ったりもするけど、最後は夕暮れを見てハイになるっていうところです(笑)。このアルバムはおじいちゃんになっても、おばあちゃんになっても、ずっと聴けるんじゃないですかね。

小山田 いろんな音色や、色鮮やかな景色を奏でているんじゃないかなと思います。“人生をともに楽しみましょう!”ってことで、自由に楽しんでいただけたらうれしいな。

作品データ

『THE TRAVELING LIFE』 小山田壮平

ビクター/VICL-65411/2020年8月26日リリース

―Track List―

01.HIGH WAY
02.旅に出るならどこまでも
03.OH MY GOD
04.雨の散歩道
05.ゆうちゃん
06.あの日の約束通りに
07.ベロベロックンローラー
08.スランプは底なし
09.Kapachino
10.君の愛する歌
11.ローヌの岸辺
12.夕暮れのハイ

―Guitarists―

小山田壮平、濱野夏椰