令和に最も注目すべきギタリストのひとり、山岸竜之介。彼が5歳の時にテレビ番組の企画でCharとの共演を果たしていることはご周知のとおりだろう。そこから15年以上の長きにわたり憧れ続け、現在は同じプロの道を歩んでいる山岸にとって、Charとは“神様”なのである。“絶大な影響を受けている”と公言する若手筆頭株に、ニッポンの偉大なギタリストの魅力を語ってもらった。
取材=福崎敬太
Charさんのフレーズって
ちょっとピアノっぽいんです。
竜之介さんのギタリスト人生にとって、Charさんはものすごく重要ですよね。小さな頃から長年Charさんを見続けているわけですが、ずばり“Charさんのすごさ”ってどこだと思いますか?
僕が一番カッコ良いと思うのは、アンプからの出音。世界で一番良いんですよ! それこそ今までいろんなライブを観てきたけど、ダントツでCharさんの音が良い。ギターやアンプも関係なくて、僕が小学校2年生くらいでCharさんとレコーディングした時、僕のギターで弾いても“あのCharの音”だったんです。
まさにシグネチャー・トーンですよね。
そうですね。コードをジャーンと鳴らすのって、普通は“スピード感”というより“迫力がある”っていうような表現だと思うんですけど、Charさんはコードやアルペジオを弾いていても、スピード感がある。それは“速さ”とかじゃなくて、ドライブ感というか。その音が世界一なんですよ。僕はあれ以上良い音を、本当に聴いたことがないです。
プレイ面だとどうですか?
Charさんのギター・フレーズってちょっとピアノっぽいんです。例えば、ギターじゃないと使えないような“チョーキングからのペンタ、ペンタ、ペンタ”っていうのも少し違うんですよね。僕はスケールがペンタ以外の名前を知らないので詳しくは言えないですけど、チョーキングしたあとに戻ってくるのが“え、そこ?”っていう感じで。僕だったら、5弦飛ばしで“1弦チョーキング〜2弦、3弦、4弦、6弦〜”みたいにするところを、Charさんは“1弦、1弦、1弦、4弦、5弦”みたいに少し大袈裟にギターの弦を飛ばしたりする。あと、その逆で1弦から6弦まできれいに下るフレーズもピアノっぽいんですよ。
というと?
全部の音符を弾き切る練習みたいなフレーズってあるじゃないですか。そういうオルタネイトでスケールをなぞるようなフレーズって、僕は指体操っぽく聴こえちゃって“うそやん!”って思うんです。でも、Charさんだとそういうフレーズにもピアノを感じるなぁって思っていたんですけど、そしたらやっぱりCharさんはピアノも上手なんですよね。
もともとクラシック・ピアノを習っていたんですよね。
ギターから入っていないからこそ出てくるフレーズなのかなっていうのは、ずっと思っています。左手も右手も、特別バタバタ速いとかじゃなくて本当にスムーズで、ほかのギタリストにない手グセ感なんですよ。それがCharさん節だと思うんですが、すごく不思議な感じで。それこそ、僕とNAMM Show(2020年1月)でやっているアコースタソニック・ストラトキャスターのセッションでも、ちょっと鍵盤感のあるフレーズが出てましたね。めちゃくちゃ鍵盤っぽいわけではないんですけど、要所要所で出てくるんですよ。
Charさんを知るきっかけは、
意外にも歯医者さん(笑)。
竜之介さんは『さんま・玉緒のお年玉あんたの夢かなえたろかスペシャル』(2005年/TBS)の企画でCharさんと実際に会うわけですが、そもそもCharさんを知ったのはどのタイミングだったんですか?
それはテレビに出るより前で……。僕が幼稚園の頃、4歳くらいの時に通っていた、おばあちゃん家の近くの西村歯科っていう歯医者さんがあったんです。そこの院長先生がすごく音楽好きな方で、歯医者の待合室に『ギター・マガジン』があって。その中のCharさんの特集に所有ギターがたくさん載っているページがあったんです。まず、当時は自分でギターを買える年齢でもないわけで、ギターをいっぱい持っているだけでカッコ良いじゃないですか。それで“この人だれ?”ってなって、お父さんとお母さんが“Charさんやん!”って教えてくれたんですよ。そこで興味を持ったので、両親がCDを買ってくれたんです。当然、その時にベタ惚れしてしまいまして(笑)。だから、Charさんを知るきっかけは、意外にも歯医者さん(笑)。
最初に買ってもらったCDは何だったんですか?
『MR.70’S YOU SET ME FREE』(2003年)でしたね。あと、Charさんがよくguitars-R-USを弾いていた頃のライブDVDを観ながら、“うぉー、この人やばい!”ってなっていました(笑)。
すごい5歳ですね(笑)。改めてテレビで実際にお会いした時のエピソードも聞かせてもらえますか?
テレビの企画でレコーディング・スタジオに連れて行ってもらったんですよ。そしたらスタジオに着いて、“はい、竜ちゃんこの部屋入って〜”って、真っ暗な録音ブースに閉じ込められたんです。5歳ですし、そりゃ怖いじゃないですか。で、泣きそうになっていたらポンっとスポットライトがついて、そこには僕が当時めっちゃ弾きたかった、ジョニー・ウィンターが使っていた白のファイヤーバードが置いてあったんですよ。ギターの近くに行って“弾いていいんかな?”ってなっている時に、ボソボソっと“弾いていいんだよ。弾いちゃいなよ”って声が上からするんです。
天の声みたいな(笑)。
そう。で、ジャーンって弾いたら“えぇやん”とか、ずっと話しかけてきて。“なんやなんや?”ってなっていた時にガチャってドアが開いて、パッと明かりがついたらCharさんがいたんですよ。
おぉ〜!
で、その時Charさんは1967年製のムスタングを持ってきてくれたんです。当時、僕はずっとオープンEやオープンGで弾いていたんですけど、Charさんも僕が弾けるようにオープン・チューニングにしてくれていて。そこで、特に何も決めず、僕が弾いているのに合わせてくれた、っていうのが本当の一番最初です。
日本で一番カッコ良いんだから
とりあえず聴いて下さいよ。
Charさんとのセッションで感じる“すごさ”は、どんな部分?
何も構えずに棒立ちしているCharさんが微笑んだ時に、僕がストレート・パンチって入れても全然喰らわないところ(笑)。あと、Charさんと僕がセッションする時って、だいたいCharさんっておもしろめのイジワルを仕掛けてくるんですよ。“うそやん! 今F行くん?!”みたいな(笑)。でも、それは“俺のほうが”っていうのではなく、純粋に僕と同じ目線で楽しんでくれていて、ステージでお互いが“ふふっ”ってなり合える瞬間を作ってくれる。例えば、ドラムのブレイクの時に僕だけ1音残るように残していったりとか。“なんでそんなことすんの? ただただ恥ずかしいやん!”みたいな(笑)。でも、それってめちゃめちゃ愛がないとしないと思うんですよ。そういう、一緒に演奏する人を受け入れる気持ちが誰よりも大きい方で、だからこそ本当に言葉じゃなくて音楽で楽しむ方法を伝えてくれる方だなぁっていうのは演奏していて思うかもしれない。
ギタリストとは関係ないところで、カッコ良いと思う部分は?
……もう僕は信者なのでね、教祖さまのことを褒めるってどうすれば良いかわからないですよ(笑)。でも、本当に“わざわざ”カッコ良いんです。以前、偶然ご飯屋さんで会った時も、“お前、NAMM Showの時めっちゃ良かったな。……嘘やけどな!”みたいな(笑)。それこそ野音の時とか、終わったあとに“ええ感じやったな。……あ、俺の話な?”みたいなことを、ポロっと言う感じとか。そういうところもすごく大好きだし、素直に良いものを良いって言ってくれたり、自分がときめいた瞬間に素直にときめいたことを教えてくれる。そういう嘘がないところもカッコ良いですね。
竜之介さんも21歳になって、自分より若いギタリストもこれからどんどん出てくるわけですが。
ねぇ、腹立ちますね。
(笑)。そういった若いギタリストたちに、“Charさんは聴いておくべき”というオススメのコメントをお願いします。
“日本で一番カッコ良いのはCharさんなんだから、とりあえず聴いて下さいよ”っていう感じですね(笑)。その中で、自分に合ったフレーズや“あ、Charさんのクセってこんなんなんだ”っていうのを練習してみる。それで“なぜこれが日本で一番カッコ良いと思われているのか”ってことを、特に僕くらいの世代のギタリストには探ってみてほしいと思う。僕は何度も言っているように、“スピード感”が一番カッコ良いと思っているポイントで、それが速さやうるささとかじゃないっていう違いが、Charさんを聴くとわかると思っていて。アルバム『Char』でもピンク・クラウドでも良いと思うんですけど、まずは1枚聴いてみてほしいなと思いますね。僕が崇拝している宗教が広まれば、それで良いです(笑)。
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山岸竜之介
やまぎし・りゅうのすけ◎1999年、大阪府生まれ。5歳の時にテレビ番組の企画でCharと共演し、“天才ギター少年”として一躍注目を浴びる。2013年には、ムッシュかまやつ(g)、KenKen(b)とともにLIFE IS GROOVEを結成。現在はソロ活動のほか、ジャズ・ピアニスト・小曽根真のプロジェクトへの参加やTHE ORAL CIGARETTESの山中拓也とのYGNTなど、ジャンルレスに活躍中。