2003年5月に結成し、2023年にバンドの20周年イヤーを迎えたシド。歩みを止めることなく精力的に活動を続け、“ヴィジュアル・ロック・バンド”の代表格として確固たる地位を確立した彼ら。今回はギタリストのShinjiに、今日に至るまでのシドの歴史を“ギター・ワーク”に焦点を当て、じっくりと語ってもらった。
取材/文=村上孝之 写真=今元秀明
シドでは色んなテイストの曲に挑戦できるから楽しかった
シドを結成された当時は、どういうスタイルのギタリストだったのでしょう?
もともとやっていたバンドがハード・ロックっぽいバンドだったので、そういうジャンルばかりを弾いていました。シドにはけっこう色んなタイプの曲があったので、勉強しないとなと思いましたね。
シドの本当の初期はマオ(vo)と明希(b)の2人だけのユニットで、僕は当初からサポートで入っていましたけど、その頃の僕には意見を言うような権限はなかったんです。ただ、与えられた曲をステージで弾くという。最初の頃はそういう感じでした。
あまりやったことのないプレイや苦手なことなども、やるしかなかったと?
いえ、そういうツラい感じではなかったです。僕はもとから色んな音楽が好きで聴いていたし。あと、BOØWYが好きだったんですが、BOØWYをかじっていれば、大体どんな曲でも対応できるじゃないですか。なので、むしろシドでは色んな曲に挑戦できるから楽しかったです。
意欲的ですね。その頃からアコースティック・ギターも弾いていたり?
アコギはほとんど弾いたことがなかったんです。実家には兄のアコギがあって、それを弾きたかったんですけど、神経質な兄だったのであまりギターに触らせてくれなかったんです。ファミコンとかも全然触らせてくれなかった(笑)。
だから、アコギを弾くようになったのはシドに入ってからでしたね。シドで初めてアルバムをレコーディングした時はアコギを持っていなかったので、知人によく借りていました。
駆け出しの頃はあまりギターを持っていないというミュージシャンも多いですよね。
そう。もともとアコギ弾きだったら持っていて当然だけど、当時はエレキ・ギターとアコギの両方を買うのがちょっとキツかった。
わかります。そうなると、レコーディングで弾き慣れないアコギを弾くことになったわけですが、それは問題なかったですか?
その時はストローク弾きくらいだったので、特に問題なかったです。“指で弾け”と言われたら難しかったかもしれないけど。
とはいえ、自分のアコギを持っていない時期に、そこにも対応できたのはさすがです。ここまでの話でもShinjiさんが色々なスタイルをこなす職人気質なギタリストだということがわかりますね。
どうなんだろう? いわゆる“器用貧乏”だと思います(笑)。
若い頃は、なんか根拠のない自信があるじゃないですか(笑)
シドは当初から曲調の幅が広かったようですが、さらにジャズやボサノバ、ワールド・ミュージックといったジャンルの要素も取り入れるようになっていきます。
ゆうや(d)にしても明希にしても、みんな器用だから、“こういうのもやれちゃうよね……”みたいになんでもトライしていたんです。それこそ、僕がジャジィな曲を作って、バンドに持っていってみたりとか。そんなふうに色んなテイストの曲が増えていったというのはありますけど、いま振り返ると、昔は全部“なんちゃって”だったんですよね。
バンドにジャジィなアレンジを持ち込んだのはShinjiさんだったんですね。
最初の頃はそうだったかもしれないですね。“みんなはこういうのは好きじゃないかも……”みたいなことは考えずに、自分が良いと思うものを作っていました。
それが良い方向に作用しましたね。作曲の話が出ましたので、曲作りについても聞かせて下さい。Shinjiさんはいつ頃から曲を作るようになったのでしょう?
作曲は、18歳くらいの時からですね。それまではずっとコピーしかしていなかったので、地元の先輩とかに“まだ曲作らないの?”みたいなことを何年も言われていました。
それで、やっとこさできた1曲を持っていって、当時南浦和にあったポテトハウスというライブハウスに出演したんです。セットリストの大半がコピー楽曲で、1番最後にオリジナル曲を演奏して盛り下がるという(笑)。みんな“この曲知らねぇし”みたいな感じで(笑)。初めてだったから、ライブの運び方とかもまったくわかっていなかったですね。
でも、やる気を感じます(笑)。色々なジャンルの要素を取り入れていく中で、特に大変だったスタイルなどはありましたか?
いっぱいありますけど、明希が持ってきたフュージョン・テイストの曲とかはかなり難しかったですね。フュージョンは楽典的な知識がないと弾けないじゃないですか。
たとえば、演奏中にスケールを見失ってしまうと、もう完全にわからなくなっちゃうんですよ。ペンタトニック1発とかだったらソロを忘れてしまってもアドリブで合わせられるけど、フュージョンはそうはいかない。これはちょっと“なんちゃってじゃ通用しないな”ということを痛感しましたね。
ジャズやフュージョン・テイストの楽曲に対応するために、スケールや理論なども勉強されたんですね?
徐々にですけどね。でも勉強ということで言うと、当時よりも今のほうがしているかもしれない。ジャズを極めようと思ったらキリがないし、自分はその専門職ではないから、少しずつ勉強している感じです。
自分自身もそうでしたが、若い頃は時間があるのに勉強しないんですよね。
そう。若い頃は、なんか根拠のない自信があるじゃないですか(笑)。“理論とか知らなくても、カッコよけりゃいいんでしょ?”みたいな(笑)。
まさに、そうですね(笑)。スタイルの上辺をすくうだけではなく、深く追求されていくShinjiさんのスタンスは本当にリスペクトしています。
いや、そうでもないですよ。
いやいや。以前Shinjiさんが“ただ単にクリーン・トーンでオクターブ・フレーズを弾いただけではジャズっぽくならない”と言っていたことを思い出しました。
偉そうなことを言って、自分もそんなにできないですけどね。僕はギター教室に通ってそういうことを教わっていたことがあったんです。それくらいの時期から、バンドが事務所に入って、プロデューサーやアレンジャーさんが関わってきたりするようになって。そういう環境になってから、スキル不足を指摘されることも増えてきたんです。
そういう時期を経験して、なにくそ根性ですけど、“これはもうわからないじゃダメだな”と思ったんですよ。それで、色々勉強するようになったというのもありますね。
ロックは好きだし、何よりライブでは汗をかきたいんです
個人的にはガットも含めたアコースティック・ギターの指弾きなどもハードルが高い気がしますが、その辺りはいかがでしょう?
そうですね。僕の場合は、指で弾くならずっと指でいきたいタイプで。ライブの途中で急に指弾きになる時は、もうピックの感覚になってしまっているから、めっちゃ力が入ってしまったりするんですよ。そんな状態で弦を引っ張っちゃったりすると、音が潰れてしまうんですよね。
そもそもアコギは弦高が高かったり、テンションがキツかったりするため、どうしても力みがちですしね。
そう。アコギは“綺麗に弦を鳴らす”という感覚で弾かないと良い音はしないけど、若い時はそれがわからない。弱く弾いたほうが良いってことくらいはわかるけど、どうしても力が入り過ぎていて、よく指摘されてました。自分の思っている感覚で“ジャガジャーン!”と強く弾くと、アタックの“ペチペチ”しか聴こえなかったりするんです。
レコーディングやライブを重ねていく中で、アコギのことも少しずつわかるようになっていきましたね。
アコギともしっかりと向き合ってきたんですね。
アコギを弾くのも大好きなので。ただ、最近の自分はどんどんミニマリストになってきていて、機材やギターも少ないほうがいいと思うようになっているんです。ライブの時は色んな理由があってギターを持ち替えるけど、できれば持ち替えたくないんですよね。
最近はアコギすら出てこなくてもいいと思うくらいで。ゴースト的にアコギのストロークがうしろで鳴っているような感じならいいけど、アコギをメインにした楽曲というのは避けていますね。ギターを持ち替えることで、ライブの流れがスムーズじゃなくなったりするのをできるだけ避けたくて……。
こだわるポイントが変わってきているんですね。最近のShinjiさんは、ブルースに惹かれている印象を受けます。
惹かれていますね。今使っているアンプ(編注:Two-Rock/Classic Reverb Signature)に変わってから、より手で強弱をつけやすくなったというのもあって、今はそういう曲を弾いている時が一番気持ち良いかもしれない。ちゃんと丁寧に弾かないと鳴ってくれないアンプではあるんですが、ニュアンスが気持ち良く出せるから、ブルースを弾くのが楽しいんです。
それに、ブルースは自由な音楽じゃないですか。歌中のオブリを好きなように弾けるし、ギター・ソロもその時のフィーリングに任せて弾くことができる。自由な音楽で、二度と同じことは弾けないという感じが良いというのもありますね。
ニュアンスを重視した演奏は楽しいですよね。
そうですね。でも、僕らを観にきているお客さんというのはヴィジュアル系が好きで観に来ている人が大半なので、ブルースとかは聴いたことがない人も多いと思うんですよ。でも、逆にそういう部分をミックスできることが自分たちの強みなのかなとも思っています。
ブルースに馴染みのない方にも必ず響くと思います。もう1つ、Shinjiさんは色々な音楽が好きで、幅広いギター・プレイを習得されているわけですが、ロックのカッコ良さを忘れないところも魅力です。
そう、僕は意外とロックなんですよ。飲み会とかで“お前はロックじゃねぇ!”みたいなことを言っている人は好きじゃないですけど(笑)。やっぱりロックは好きだし、何よりライブでは汗をかきたいんです。ただ綺麗にギターを弾くだけじゃなくて、全身を使って弾くのがロックな気がしていて。それは昔から変わらないし、これからも変わらないと思います。
あと、心の底から楽しいと思えるライブをしたいし、“音楽は楽しくないとダメ”だとも思っていて。せっかく自分が好きで始めたことが仕事になっているわけだから、楽しくなくなったらやめたほうがいいと思っているんです。だから、楽しむためにはどうしたらいいかということを考えながら音楽を続けていくと思います。
LIVE INFORMATION
■SID 20th Anniversary Premium FANMEETING TOUR 2023
2023年7月23日(日)/Zepp DiverCity TOKYO
2023年7月30日(日)/Zepp Nagoya
2023年8月12日(土)/Zepp Fukuoka
2023年8月13日(日)/Zepp Osaka Bayside
2023年8月26日(土)/Zepp Haneda(TOKYO)
2023年9月2日(土)/SENDAI GIGS
2023年9月18日(月)/Zepp Sapporo
■SID 20th Anniversary GRAND FINAL 「いちばん好きな場所」
2023年12月27日(水)/日本武道館
※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細はSID 20th Anniversary Special Siteをチェック!
SID 20th Anniversary Special Site
https://www.sid20th.jp/