エディ・ヴァン・ヘイレンがシーンに現われた1978年、当時多感な青春時代を過ごしていたマーティ・フリードマンにとって、実際にステージで観た“あの笑顔”は、良くも悪くも深く印象に残った。そんなエディとの出会いから、彼とのエピソード、圧倒的なカリスマ・ギタリストであるマーティをもってして“真のギター・ヒーローは彼しかいない”と言わしめるエディの魅力について、存分に語ってもらおう。
取材/文=近藤正義
演奏中のあの笑顔には腹が立ちましたね。
「微笑むなよ、おまえ……」って(笑)。
マーティさんはデビュー当時のヴァン・ヘイレンのステージを実際に観ているんですよね?
はい。デビュー・アルバム(『炎の導火線』/1978年)の頃で、ブラック・サバスがアルバム『ネヴァー・セイ・ダイ』(1978年)のツアーをしていた時の前座がヴァン・ヘイレンだったんです。僕はブラック・サバスの大ファンだったので観に行って、そこでたまたまヴァン・ヘイレンのステージに遭遇したというわけです。その頃は新人らしくエネルギーは溢れているのですが、まだブラック・サバスのような独自の世界観は持っていませんでした。でも翌年の2ndアルバム(『伝説の爆撃機』)の頃にもう一度観た時には、2000人クラスの会場でしたけど、すでにスターのオーラがありましたね。その時には、パフォーマーとしてワールドクラスになっていると感じました。短い期間に急激に成長したんでしょうね。
ステージを生で観た時の率直な感想はどのようなものでしたか?
僕はその時ミッド・ティーンエイジャーで、もうバンド活動もしていたのですが、それだけに彼らのすごさを感じました。観た人はみんなそう思っただろうけど、「これは一体何ぞや?」と、ちょっと怒っちゃいましたよ(笑)。だって、難しくてカッコ良いフレーズを楽々と弾いているじゃないですか! 必死で練習したことをギリギリの状態で披露しているという切迫感がない。あのナチュラルさにヤラレました。それに、あの笑顔には腹立ちましたね。「微笑むなよ、おまえ……」って(笑)。
(笑)。実際にエディに会ったことは?
90年代にジェイソン・ベッカーのためのチャリティー・イベントが毎年あったんですが、たまたま95~96年頃、エディと一緒に出たことがあります。会って話した印象は、“とても気さくで親切な人”。彼はジェイソンのためにワーナー・ブラザーズとの契約で尽力してくれたり、一緒にテレビに出たりもしていましたから。あと、僕は彼の自宅の電話番号を教えてもらったんです。それがとてもうれしかったな。そんなにたくさんの時間を過ごしたわけではありませんが、本当に尊敬できる優しい人です。
ライトハンドではない、
普通の演奏部分こそがエディの聴きどころ
彼のギター・プレイで好きなところは?
僕はけっこうへそ曲がりで頑固だから、皆さんがよくおっしゃるようなライトハンド奏法にはまったく興味がないんですよ。アーミングやエフェクター、さらに自作ギターにもね(笑)。むしろ、タッピングの場面になったらガッカリするくらいなんです。逆にそれらを除いた、普通の演奏部分こそがエディの聴きどころだと思っていて。ナチュラルな指先のタッチ、超アグレッシブなノートの選び方、セクシーなフレージング、決してメトロノーム的ではない滑るようにしなやかなリズム感、攻撃的なパフォーマンスなど、何を弾いてもカッコ良い。理想的なロック・ギタリストだと思います。
ライブはもちろんですが、レコードでもエディはあまりダビングをせずにギター1本だけのサウンドで聴かせますよね。
初めてレコードを聴いた時、「こいつはなぜひとりだけでこんなに圧倒的な演奏ができるのか?」と驚きました。僕はバンドではギター2本でやることが多いし、そもそもひとりギターのバンドはあまり好きじゃないんですよ。でも、ヴァン・ヘイレンの場合は違います。ソロだけでなくバッキングにもおいしいところが山ほどあるので、しっかり聴きたくなる。だから、もうひとりギターがいたら邪魔(笑)。
楽しい時代に聴いていたハッピーなアルバム
やはり初期のヴァン・ヘイレンがお好きですか?
3枚目くらいまでかな。3rdアルバム(『暗黒の掟』/1980年)にも「ロメオ・デライト」とか好きな曲がありますけど、僕にとっては1枚目と2枚目が奇跡のようなアルバムです。1枚目はヘヴィなサウンドで大好きだし、2枚目はラジオでオンエアーされる曲も多かったから、当時高校生だった僕にとって馴染み深いんです。パーティー三昧の生活を彩るBGMはヴァン・ヘイレン、カー・ラジオから聞こえてくるのもヴァン・ヘイレン、そんな楽しい時代に聴いていたハッピーなアルバムでしたね。サミー・ヘイガーの時代になると、シーンの王道になったことで日和っていると思います。でも、ギターの部分はいつも最高ですよ。
では、最も好きな曲を教えて下さい。
えぇ……たくさんありすぎて選ぶのは無理(笑)! どうしても1曲だけあげなくちゃいけないなら……「アイム・ザ・ワン」かな? 僕はシャッフルが好きじゃないんですが、そんな僕がシャッフルを好きになってしまう曲。ズルイですよ(笑)。あぁ……でも、やっぱり「アトミック・パンク」にしましょう! これが時代的にもベスト・タイトルだったから。
エディの演奏で最も好きな一瞬は?
どの曲を聴いてもおいしいフレーズがありますので、これも選ぶのは難しいですが、その中から「オン・ファイアー」のイントロのリフの部分にしましょう。この低音弦と高音弦の距離、これは音使いの発想がおかしい! だから目立ちます(笑)。
真のギター・ヒーローは彼しかいない。
レベルがまったく違うんです。
これだけ幅広い世代から愛される驚異的なバンドですから、今後生まれてくるギター・キッズたちも彼のプレイを聴くと思うんです。そんな次世代のギタリストたちのために、エディのプレイをどこに注目すべきか教えて下さい。
彼を有名にしたのはタッピング、ライトハンド奏法でしたが、それ以外のところを意識して聴いてほしい。彼はバッキングを弾きながらオブリを入れてアドリブをする王様なんです。それがうまければ、バンドでのひとりギタリストもアリだと思う。ソロだけでなくリズムも、普通のギタリストに比べてケタはずれでしたからね。特に、音色は世界一。ラウドなのにきれいな音色は、ギターに興味のない人でも引き込まれることでしょう。
エディ・ヴァン・ヘイレンというギタリストは、音楽の歴史上どのような存在だと思いますか?
ハードロック、ヘヴィメタルのジャンルにエディ・ヴァン・ヘイレンなしの世界は想像できないです。ロックにとって彼の存在はマスト、必要だったんです。彼が登場した70年代後期、ギタリストとして成功していた人にも、エネルギーがなかった。そこへ彼が現われて、ロックに元気を持ち込んだ。その後80年代以降、エネルギッシュなロックバンドがたくさん出てきましたが、原点はヴァン・ヘイレンだったと思います。ある意味、ロックの救世主でした。ギター・ヒーローという言葉はいろんな人に対して使われていますが、真のギター・ヒーローは彼しかいない。レベルがまったく違うんですよ。
最後に、今エディに何を伝えたいですか?
何より感謝ですね。僕は細かいことを分析するマニアなファンではありませんが、彼は僕の憧れの中の憧れ、そんな尊敬するギタリストでした。
マーティ・フリードマンが最も好きなエディの“一瞬”
1st作から「オン・ファイアー」のリフをマーティはチョイス。オクターブの弦飛ばしフレーズの基本形を参考に譜例を作成したが、このリフをベースにしたエディの展開アイディアはぜひ楽曲を聴いて盗んでほしい。
COLUMN:スーパー・ギタリストにとってのエディ・ヴァン・ヘイレン
マーティ・フリードマンは1982年より、ヴィクセン、ハワイ、カコフォニーとしてシングル、アルバムをリリース。1990年にメガデスに加入し、バンドの4thアルバムから8thアルバムまでに参加。2000年までの約10年間、圧倒的なギタープレイでバンドの全盛期を支えた。アルバムはプラチナムの認定を受けるセールスをあげ、グラミー賞にもノミネートされるなど、スラッシュ・メタルの枠にとどまらない成功を収めた。
さて、彼とエディ・ヴァン・ヘイレンの年齢差は7歳。一世代離れているわけでもなく、しかし同世代でもない。言うなれば、兄貴のような年齢差だ。ヴァン・ヘイレンがデビューした1978年当時、マーティは16歳。ご本人の語るところによると、すでにギターを弾いていた彼は地元では人気も出ており、ロック・スター気取り。14歳から17歳頃までは超不良で、どれだけ不良だったかは、テレビの仕事が減ってしまうので言えないそうである(笑)。しかし、本当にプロになるのなら真剣に音楽に取り組まなければならないと考えて改心したマーティ少年。まさに激動の青春期にヴァン・ヘイレンの音楽に出会ったわけだ。
ヴァン・ヘイレンが登場して、生活のBGMとして彼らの音楽が聴こえてきた毎日。マーティにとって、その頃の記憶は楽しかった思い出の中にあるという。ロック・ミュージックと日常生活との距離はアメリカの場合、日本と違って近い。だからこそ我々日本人のファンと、同じアメリカ人である彼とでは、エディ・ヴァン・ヘイレンの曲やギター・プレイに対して持つ感情が微妙に違っていて当然だと思う。ましてや、マーティは90年代に入るとメガデスというモンスター・バンドのメンバーとして、同じロック・シーンに並び立つ存在だったのだ。だからこそ、あえてエディと同じことはしないのだろう。そんなニュアンスは、このインタビューからも少し感じ取っていただけると思う。しかし、一見クールに冷めた反応を交えながらも、実は心はエディ愛に満ちていることがインタビューからも伝わってきただろう。
Information
マーティ・フリードマンの配信ライブが2021年1月1日に開催!!
マーティ・フリードマンが2021年1月1日21時から配信ライブを開催。世界から注目を集める映像クリエイター花房伸行とコラボし、最新のLEDシステムを駆使したモーション・グラフィックスで“多次元的ROCKサウンド空間”を創出する。
アーカイブ配信は1月5日19時までで、チケットも1月5日の17時まで販売される。
詳細は公式HPをチェック!!
最新作
『TOKYO JUKEBOX 3』 マーティ・フリードマン
エイベックス/AVCD-96526/2020年10月21日リリース
―Track List―
01. 負けないで
02. 千本桜
03. 紅蓮華
04. 風が吹いている
05. ECHO
06. The Perfect World (feat あるふぁきゅん)
07. U.S.A.
08. 宿命
09. 行くぜっ! 怪盗少女
10. サザンカ
11. Time goes by
12. JAPAN HERITAGE OFFICIAL THEME SONG
―Guitarists―
マーティ・フリードマン
『ギター・マガジン2021年1月号』
特集:追悼 エディ・ヴァン・ヘイレン
12月11日発売のギター・マガジン2021年1月号は、エディ・ヴァン・ヘイレンの追悼特集。全6偏の貴重な本人インタビューを掲載しています。