カシミヤ・ステージ・バンド『テキサス・サンダー・ソウル』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第21回 カシミヤ・ステージ・バンド『テキサス・サンダー・ソウル』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第21回

カシミヤ・ステージ・バンド『テキサス・サンダー・ソウル』/マーク・スピアーの此処ではない何処かへ|第21回

現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。

今回ピックアップしてくれたのは、マークの地元=ヒューストンにあるカシミヤ高校のハイスクール・バンド=カシミヤ・ステージ・バンドによる1枚だ。ソウルフルなインスト・ジャズ・ファンクを聴かせる、若き才能の記録である。

文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2023年1月号より転載したものです。

カシミヤ・ステージ・バンド
『テキサス・サンダー・ソウル』/2006年

有名な高校生ビッグ・バンドの力みなぎる68〜74年音源集

60〜70年代には全米各地にハイスクール・バンドがいたと言うが、カシミヤ・ステージ・バンドはその中でも最も有名な集団の1つ。本作は68年〜74年の録音をまとめたもので、スリリングな狂熱のビッグ・バンド・ジャズファンクを体感できる。ジャズファンク・マナーに則ったグルーヴィンなバッキング〜弾きまくりソロなど、ギター的にも聴きどころ多し。

すべてが最高。これが高校生バンドだなんて信じられないよ。

 これは、僕の地元ヒューストンにあるカシミヤ・ハイスクールのビッグ・バンドによる録音だね。指揮者はコンラッド・ジョンソンという人。僕は90年代中盤にこの学校の「サマー・ジャズ・ワークショップ」というクラスに参加したことがあるんだが、その時の指揮者をしていたのがなんと彼だったんだ。アンサンブルについてずいぶん学んだよ。当時は彼がこういった音源をリリースしていたことなんて知らなかったね。のちになって、ジャズやファンク通のみぞ知るマニアックな良作だと知り、「え、自分の学校の先生が?」と驚いたよ。

 作風はかなりファンキーな雰囲気で、驚異的なのはプレイヤーがみんな16〜17歳ぐらいの生徒ばかり、ということだ。つまり高校生バンドなんだよ。高校生が本格的にツアーを組んでいたなんて、世界で初めてとも言えるかもしれない。そして彼らがアルバムを作り、世界中で流通したというのだから……信じられない話だろう(笑)? 最高にアメイジングなアルバムさ。

 何よりも魅力的なのは、演奏しているキッズたちのスキルはもちろん、みなぎる情熱、エネルギーだね。そこはぜひ聴いて感じ取ってほしい。ティーンエイジャーなのに、いや、だからこそか。実にフレッシュで素晴らしい演奏がくり広げられているよ。本当に驚くべき事実さ。コンラッド・ジョンソンによるアレンジメントも実に効いているし、もうすべてが最高だよ。

 もしもの話だけど、この腕前なら当時のジャクソン5なんかのバックで演奏しても素敵だったと思うね。「現役の高校生ながらにしてジャクソン5と共演!」なんて話題になっていても不思議じゃないよ(笑)。

マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール

マーク・スピアー(Mark Speer) 

テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。