ポルカドットスティングレイとChar――なかなか縁がなさそうな両者だが、実はエジマハルシが理想のギター・ソロを目指す中でCharの存在がヒントになったという。今回は、2019年9月に開催されたフェンダー主催のイベント=Meet the LEGENDでの共演の話を軸に、Charの中に感じる“ギタリストとしての自由さ”について話してもらった。
取材=福崎敬太
目指したい方向性のプレイだと、
最初に観た時に感じましたね。
ハルシさんが初めてCharさんの音楽に触れたのはどういう流れでしたか?
YouTubeで「Smoky」のライブ映像を観たのが最初ですね。記憶は曖昧ですけど、関連動画で出てきたか、専門学校の先生に薦められたかだったと思います。それでビビッときて。
初めて「Smoky」を観た時、どう感じましたか?
少し話は逸れますけど、僕がギタリストとしてソロを弾く時に目指しているところが、“いくところはパッションでいくけど、それだけじゃなくてスケールや音使いもおもしろいものを使いたい”というところがあって。で、Charさんはそういう点でもすごくカッコ良く弾いていて、学べるところがめっちゃあるなって思いました。目指したい方向性のプレイだと、最初に観た時に感じましたね。
Charさんのそういったアカデミックさっていうのはどういう点から感じました?
その時は自分でも詳しく理解できていなかったんですけど、共演した時に感じたことがあって。
フェンダー主催の“Meets the LEGEND”の時ですよね?
そう、その時に「Smoky」をやったんです。で、シンプルな曲ではあるんですけど、実際に弾いてみるとめちゃくちゃ難しかったんですよね。基本的なコードの構成がDm7(9)とEm7(9)をいったりきたりするんですけど、解釈の仕方次第でできることがたくさんあって。でも、移動が早いから難しくて、僕はめちゃくちゃ苦労した……というか本番では何にもできなかった(笑)。それをあんなに自由に好きなように弾いているのはすごいなと思いました。
Charさんのプレイはどのようなアプローチだったんですか?
で、Charさんはペンタとドリアンが主体ではあったんですけど、すごく自然にコード・トーンを入れるんですよ。ちゃんと耳コピすればわかるんでしょうけど、聴いている感じだと自然すぎて。本当に歌うように弾くんです。普通にやろうとすると“あ、コード・トーンを追ったな”ってなりやすいじゃないですか。
私程度のレベルだと、“よし、コード・トーンを入れるぞ”って身構えてから入れるので、全然歌うようにできません(笑)。
わかります(笑)。Charさんは、途中のコードが展開していくところはコード・トーンを追っていたと思うんですけど、それもすごく自然なんですよね。
一緒にセッションをしないと
わからないことがたくさんある。
共演されたイベントについて改めて聞かせてくれますか?
イベントはそれぞれの曲を1曲ずつ一緒に演奏するっていう内容で、僕らの「ICHIDAIJI」とCharさんの「Smoky」でセッションしたんです。
事前にリハーサルはあったんですか?
一度だけリハがあったんですけど、Charさんが “じゃあやるか”っていきなり弾き始めてスタートして。それをもう一回、今度はちょっと違う雰囲気でやってみて終わりでしたね(笑)。しかも本番は全然違う感じになって、僕も緊張していたので事前に考えていたことはあまり出せずに、手グセっぽい感じになっちゃいました。でも、本番でCharさんが急に展開を変えてきた時のほうが、リハよりも楽しく自由なプレイができましたね。
Charさんに引き出された感じ?
それはありますね。予想していないことを急にふられた時のほうが、おもしろいことができた感じがあって。邦ロックのギターとして考えたフレーズじゃなくて、ひとりのギタリストとしていろいろと聴いてきた中で培ってきたものが、自然と出てきた感じがしました。
もともとイメージしていたのは、どのようなアプローチだったんですか?
時間が経ってしまっているので細かなところは覚えていないんですけど、Eマイナー・ペンタを軸にして、それぞれのコードのドリアンを混ぜていくっていうのが基本の考えだったと思います。そこにCmaj7のコード・トーンとかを混ぜようとも思っていたけど、全然出てこなくて……。で、2コードのリフから最後に展開していくところは、コード・トーンを持ってくる感じで弾いていたと思います。
Charさんの「ICHIDAIJI」へのアプローチはいかがでしたか?
基本的にCメジャーでいっていたと思いますね。で、その時にCharさんがやっていたことで、ひとつ真似をしているのがあるんですよ。それは曲が終わってからのかき回しの部分で、Cメジャーでバッと終わるところで、Charさんはマイナー・ペンタを弾いていたんです。Cのブルース的なアプローチですけど、それがロックな感じでカッコ良くて。僕もそのあとから真似しています(笑)。
吸収していますね(笑)。ちなみに、今度またセッションできるとしたら何をやりたいですか?
もう1回「Smoky」にリベンジしたいのと、あとはCharさんや僕らの曲ではなく、普通のセッション曲で一緒にやってみたいですね。もちろんCharさんがスタンダード曲を演奏しているのは観たこともありますけど、実際に生で観て感じてみたい。やっぱり一緒にセッションをしないとわからないことがたくさんあるんですよ。
Charさんのような音が
いわゆる“良い音”なんですよ。
ギター・マガジン2020年7月号『ニッポンの偉大なギター名盤100』のアンケートではアルバム『Char』を挙げていましたが、選出理由を聞かせて下さい。
僕のアンケートの回答を見てくれる人は、たぶん僕のことを好きなギター・キッズだと思ったんです。で、今ってギタリスト然とした人もバンドもたくさんいるわけではないですし、そういうのを聴く子も減ってきていると思うんですよ。でも、このアルバムをギターを弾く子たちが聴いたら、覚えたフレーズを弾くだけじゃなくて、ギタリストとして自由になるために学べることがあると思うんです。それにCharさんの音楽を聴くことで、ほかにどんなものを聴いたらギタリストとして自由になれるかっていうのもわかりやすくなるんじゃないかなって思って挙げました。
『Char』で好きな曲は?
「Smoky」もそうですけど、「I’ve Tried」のイントロは特に好きですね。曲自体もバラード・ブルースみたいで好きなんですけど、イントロがCharさん節の泣きのギターで良いんですよ。
ひとりのプロ・ギタリストとしてCharさんの背中はどう見えていますか?
遠すぎてあんまりわからないです(笑)。でも、シンプルに、Charさんがどれだけ有名かとかは関係なく、ギタリストとして尊敬できる部分がめちゃくちゃある。あと、もちろん対抗できるはずもないけど、どれだけ離れていても悔しいしいものは悔しいっていうのもあります。そういう意味でも、自分にとってすごく良い影響を与えてくれている。一緒に共演したのもあって、その気持ちはより意識できるようになりましたね。
ずはり、Charさんのギターの魅力とは?
シンプルに音ですね。僕の個人的な見解では、Charさんのような音が“良い音”なんですよ。それに加えて個性があるから、一聴してCharさんの音ってわかる。あと、うまい人はたくさんいますけど、Charさんはそれに加えて人を魅了できるパッションがある。いくところでバッといって、お客さんを沸かすことができる。それに、Charさんはノリでできているのかもしれないですけど、パッションでいっている時もちゃんとニュアンスを考えてるなって感じるんですよ。
最後に、ポルカドットスティングレイのファンには10代のギター・キッズも多いと思いますが、ファンに向けてCharさんの作品をどう聴いたら良いか、アドバイスをもらえますか?
理想を言うと、全部さらって、コードに対してどうアプローチしているか分析するのが理想ですけど、僕ですら大変でできていないから(笑)。ただ、邦ロックを聴いているだけだと掴めない自由さがあって、その自由さを獲得するためにどういうことをすれば良いかっていうのがCharさんのギターにはすごく詰まっていると思うんです。少しコピーしてみるだけでもギタリストとして自由になれるはずで、“ロック・ギターとは”、“ブルース・ギターとは”、“ファンク・ギターとは”っていうヒントがたくさんある。そこをまずは聴いて感じ取ってみてほしいなと思います。
>Special|令和時代も語り継ぎたい――平成生まれが語るCharのすごさ。
エジマハルシ
1995年、福岡県生まれ。ポルカドットスティングレイのギタリストとして、2016年にデビュー。アカデミックに組み立てられたバッキングからエモーショナルなギター・ソロまで、多彩なギター・プレイを高い技術で表現する若手注目ギタリストのひとり。
最新作
「FREE」(配信リリース)