現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回の作品は、「Breezin’」の作者としても知られるシンガーソングライター/ギタリスト、ボビー・ウーマックの『ザ・ポエット』。デヴィッド・T.ウォーカーがギターで参加し、いたるところでムーディでソウル・フルなプレイを聴かせてくれる名盤。
文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2023年7月号より転載したものです。
ボビー・ウーマック
『ザ・ポエット』/1981年
デヴィッド・Tとのメロウな演奏が光るソウル名盤
「Breezin’」の作者としても知られるSSWで左利きのギタリスト=ボビー・ウーマック。本作は彼が全米R&Bチャート1位を獲得した唯一の作品だ。メロウなムードもゴキゲンな雰囲気も満載の名作ソウル/ディスコ・アルバムだが、極め付けはデヴィッド・T.ウォーカーの参加。特に「Games」から始まるB面はとろけるフレーズの宝庫。
1人のミュージシャンとして、常に聴かないといけないアルバム。
このギター・マガジンを読んでいる人なら、ボビー・ウーマックという人がギタリストとしても際立った人であるのはご存知だろう。そしてこのアルバムも彼の代表作だから、知っている人も多いだろうね。僕もこの作品が大好きで、“1人のミュージシャンとして常に聴いていなきゃいけないアルバムだ”と思っているぐらいだよ。
まず、ボビーは僕のフェイバリットなシンガーであり、声がとにかく素晴らしい。色気も力強さも兼ね備えているんだ。さらにソングライターとしても大好きだね。このアルバムを聴けばわかるけど、最高のメロディに包まれている。“良い楽曲を良いシンガーが歌う”というだけで、称賛に値するよ。
さらに、このアルバムには彼のミュージシャンシップの素晴らしさも詰まっている。僕みたいにテキサスに生まれ育つと、ブルースをこれでもか! というほど聴いて育つものだ。そんな中ボビー・ウーマックは、ブルースを主体としたギタリストの中にくくっていいのかわからないけど、僕が好きなブルージィな感覚を持っている。というのも、彼は厳格なブルース・ギタリストじゃなくて、むしろ単にグッドな曲を書いてきただけなんだ。そこに寄り添うギター・プレイが好きなのさ。
1曲挙げるなら、バラードの「If You Think You’re Lonely Now」 かな。実にムードのあるギターのオブリガートが味わえる。デヴィッド・Tの演奏かな? 素晴らしいよ。あと、ベースライン(ネイザン・イースト)も最強だね。
マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール
テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。