Reiが語る新作『VOICE』 豊かな経験から生まれた多彩なギター・スタイル Reiが語る新作『VOICE』 豊かな経験から生まれた多彩なギター・スタイル

Reiが語る新作『VOICE』 豊かな経験から生まれた多彩なギター・スタイル

Reiの新たなミニ・アルバム『VOICE』は、その名のとおり彼女の“歌声”、“ソングライティング”にフォーカスした1枚だ。しかし当然、ギターへのこだわりも大きく、ソロ・プレイもさることながら、歌を支えるギター・アレンジも素晴らしい仕上がりになっている。各楽曲のプレイやサウンドメイクについて、たっぷりと語ってもらおう。

インタビュー=福崎敬太

ギターを弾く時は息つぎをするべき

新作『VOICE』はとても幅広いプレイ・スタイルが聴けますが、Reiさん個人としてはどのような作品に仕上がったと感じていますか?

 デビューしてからこの作品が10作目になるのですが、これまでに培ってきた様々なギターのスタイルがふんだんに盛り込まれた1枚になったと思います。

 ほかのインタビューでは、“VOICE=声”っていうタイトルがついているので、“歌やソングライティングに焦点を当てた作品です”ともお話しているんですけど、私のギタリストとしての部分を支持して下さっている方々やギタマガの読者の皆さんにも十分に楽しんでいただける工夫だったり、ギター・プレイの奥深さは表現できたと思います。

 “歌のアルバムだからあまりギターは弾いていないの?”っていうことではないので、改めてそこにも注目して聴いてほしいですね。

各楽曲についてもお話を聞かせて下さい。まず1曲目の「Love is Beautiful with Ginger Root」は、どのように作っていきましたか?

 フェンダーのシングルコイルの音で、アタックと音量の均等化のために、ストロークの振り幅を大きく持たせたカッティングをしましたね。作品をとおしてギターは何種類か使っていますが、この曲はアメリカン・パフォーマーと長年愛用している88年のストラトキャスターで弾きました。

“音量の均等化”という部分で、コンプレッサーを使うことは?

 場面によっては踏んでいるかもしれないですが、最終的にはアンプで音を作ってコンプを踏まずに録った覚えがあります。ちなみに、奥田民生さんのお下がりでいただいた、フリーザトーンのSilky Compがお気に入りなんです。

ギター・ソロはシティポップなトラックにマッチする、80sの西海岸的なテイストを感じます。

 どんなソロを弾く時も、口ずさめるかどうかを凄く意識して作っています。歌と同じように口ずさめるメロディ、というのはテーマとしてありましたね。

 やっぱりギターを弾く時は息つぎをするべきだと、私は思っているんです。文脈のある節回しと言いますか、ちゃんと起承転結があって、句読点も打ってある。音を立て続けに並べるようなこともできるとは思うんですけど、文章的な部分があると歌っぽくて良いなって思います。

「Sunflower」は爽快なカッティングがトロピカルなグルーヴを生み出していますね。

 この曲は聴き心地以上にダビングした曲なんです。ダブルノートで演奏できるようなところも、あえてピックアップをブリッジのものとセンターのものとで使い分けて、サウンド違いの2声を1弦と2弦に分けてダビングする。ちょっとナチュラルなコーラス・エフェクトが掛かれば良いなっていう狙いがありましたね。

そのアイディアはどこから生まれたのですか?

 特に元ネタがあるわけじゃないんです。ただ、この曲自体が最近のインディー・ロックの潮流をとらえた楽曲になっていて。レミ・ウルフやベニーなど、オルタナ・ポップやオルタナ・ロックと呼ばれているようなジャンルが今洋楽で盛り上がっていて、自分も素敵だなって思えるトレンドなので、それに自分らしさを掛け合わせたようなアプローチです。

 あと、イントロもアコースティックでウォール・オブ・サウンドにしていて、左右でアコギをダビングしています。リファレンスはいくつかあって。例えば、ちょっと懐かしいんですけどハンソンとか。全体的なイメージとしては、ボーイ・パブロやジャーニーなどもありますね。

アコースティック・ギターは全曲で使い分けました

「CITY」はストリングスやマンドリンの音を、アコースティック・ギターが支えているような印象を受けましたが、どのようなサウンドを目指しましたか?

 今回、フィドルではなくストリングスというものとしては初めて自分の作品で採用したので、弦楽器の扱い方は慎重に考えてアレンジしていきました。アコースティック・ギターもかなりの数をスタジオに持ち込んで、色々と弾き比べながらやっていって。中低域を担ってほしかったので、ふくよかな音のギブソンJ-45を使いましたね。

 「Call My Name」のようなアコースティック・ギターのトップ・ノートがイントロのメロディを奏でる楽曲では、もう少し小さい、マーティンの00-18 Authentic 1931で弾きました。スプルース・トップで柔らかいけどちょっと腰高なギターを使って、儚さのある歌との親和性を意識しました。そうやってアコースティック・ギターは全曲で使い分けましたね。

00-18 Authentic 1931
Martin/00-18 Authentic 1931

その「Call My Name」を少しコピーしてみたのですが、5カポのプレイ・キーがCでしょうか?

 この曲はカポを使っていなくて、バー・コードをベースに1〜2弦でトップ・ノートを弾いています。私は全音下げチューニングで弾いているのですが、一番フィンガリング的に楽だと思います。5弦ルート、10フレットのバー・コードから始まって、3の指(薬指)4の指(小指)でメロディを弾いていますね。ラグタイムやピードモントの奏法を用いている感じです。

ではプレイ・キーはCではなく……もっと難しそうですね(笑)。

 キーはコンサートでFになりますね、弾きなれたら簡単ですよ! この曲で使った00-18 Authenticっていうのが、ニカワで接着していてまとまりのある音なんです。でも、ネック幅が広いんですよ。クラシック・ギターに近い弾き心地なので、そういった意味では難易度が上がりましたね(笑)。

あはは(笑)。その難しいイントロですが、コード進行からメロディと、どのように作っていきましたか?

 実はイントロが一番最後にできたんです。レコーディングの時も2パターンで凄く悩んでいて。最初は凄くシンプルなアルペジオだったんですけど、やっぱりもう少し印象に残るリフを入れたいと思って、あとからメロディを作って既存のものと組み合わせていきました。

ブルーズが好きなアーティストとして、スライドは特別なツール

「RICH KIDS」はリフの雰囲気やコード進行にブリティッシュ・ロック感がありますが、最後のソロはかなり攻めたファズ・サウンドですね。

 楽曲自体は、くるりの「琥珀色の街、上海蟹の朝」やスチャダラパーの「今夜はブギー・バック」、スーパーオーガニズムのような、ミッド・テンポの遊び心があるような曲がリファレンスとしてありました。ただ、そこにキーボードが入ることで、ユーモラスなだけでなく凄く音楽的になったんですよ。

 鍵盤の音色によって、ローリング・ストーンズの薫りが一滴入っているのもお気に入りポイントです。その流れで“曲が終わってから再起してリプライズして、ジャム・セッションみたいな構成も良いね”っていう話になって、こういう展開になりました。

メインのリフはどのように録りましたか?

 私は56年製のギブソンLG-2を愛用していて、ピックアップがマグネティックとピエゾの2つが付いているんですね。で、フリーザトーンにカスタムで作ってもらったプリアンプで、その2つのピックアップの音でブレンドして、さらにそれをラインではなく真空管アンプで鳴らすっていうのが私の定番のスタイルです。

 マグネティックがテレキャスターのピックアップなんですが、この曲ではその配分を増やして、(アイバニーズ)Tube Screamerで軽く歪ませたような音作りをしました。

これもアコースティック・ギターなんですね!?

 そうです。ソロはエレキで弾いていますけどね。

「朝」はスライドによってドリーミーな雰囲気が出ています。このプレイから生み出される音はどのような役割ですか?

 ブルーズが好きなアーティストとして、スライドは特別なツールで。「朝」のスライドは、うしろノリの気怠い感じが出たら良いなって思っていました。「Paris, Texas」のライ・クーダーや、ベックの『Morning Phase』、最近の楽曲だとミツキの「My Love Mine All Mine」のようなイメージがあります。それで(ローランド)Space Echoを掛けて録りました。

「RUN, RUN, RUN」はスピーディなアコギのアルペジオと打ち込みのビートが徐々に熱を帯びていく、グルーヴの変化が面白いです。

 私の「What Do You Want?」っていう曲がアコギのジャキジャキした成分と打ち込みを掛け合わせたもので、あのジャンル感の曲をまた書いてみたいと思ったことがきっかけです。

 リル・ナズ・Xの「Old Town Road」やアヴィーチーもそうですし、カントリーやブルーグラスのサウンドとEDMを掛け合わせるっていうのが、ここ4〜5年くらいの洋楽に見える1つのスタイルで。それに改めてトライしてみたいなっていう思いの中で、今回のアレンジが生まれました。

 結果的にスパニッシュっぽい場面もあるんですけど、ジェイク・バグのような感じもありますよね。ソロはハーモニック・マイナー・スケールを使おうかな、なんていう考えはありました。

ニュアンスが出るように気をつけながら作りました

使用機材についても聞かせて下さい。初回限定盤ジャケだとブルーのギターを抱えていますが、あれが今作のテーマの1本ですか?

 そうですね、Duo Sonic IIがテーマ・ギターです。

Rei
Reiが抱えているのが、今回のテーマ・ギターであるフェンダーDuo Sonic II。

レコーディングで活躍したギターは?

 フェンダーが多かったです。アコースティック・ギターはギブソンとマーティンがほとんどですが、エレキはテレキャスターやシンライン、HSSのテレキャスターも使いました。ストラトキャスターも何種類か使っていて、最近お気に入りのAmerican Performerシリーズのモデルも弾きましたね。

 そして、なるべくアンプ直の状態で録りました。Hot Rodが多かったと思いますけど、手元のニュアンスが出るように気をつけながら音を作りましたね。

「RICH KIDS」のファズや「朝」のトレモロは何で音を作りましたか?

 「RICH KIDS」はエレクトロ・ハーモニックスのGreen Russian Big Muffだったと思います。「朝」はアンプのトレモロで、Vibroluxを使いましたね。リバーブもアンプのスプリング・リバーブを掛けることが多かったです。

Reiさんが打ち込みを作る際のDTM環境についても教えてもらえますか?

 ソフトはPro Toolsで、オーディオ・インターフェースは(アビッド)Mboxをずっと使っています。ただ、音楽専門媒体で言って良いのかわからないくらい古いもので……(笑)。

 Mboxも最近新しいやつが出ましたし、仲間内で使っている人が多いユニバーサル・オーディオのApolloや、宇多田ヒカルさんが使っているアポジーのSymphony Desktopとかも気になっていて。たまにロックオン(Rock oN Company)に行って聴き比べています(笑)。

検討中ということですね(笑)。さて、2024年の2月からはリリース・ツアー“VOICE MESSAGE”がスタートします。最後にツアーへの意気込みを聞かせて下さい。

 アコースティック・ギターもふんだんに含まれた作品なので、木材やメーカーによって音が違うっていうことも、演奏をとおして見せられたら良いなって思っています。

 あとは、柔らかな質感の穏やかな楽曲も多いので、右手の指先のコントロールとかも精査しながら、“グーパンチ”だけじゃない繊細な指弾きの美しさも、歌の良さと一緒に伝えたいですね。ぜひ遊びに来て下さい。

ではツアーにもアコギはけっこうな数を持っていく予定なんですか?

 そう……ですね。でも、ツアーにアコギを何本も持っていくのはけっこう怖いので……少数精鋭でいきます(笑)。

Rei Release Tour 2024 “VOICE MESSAGE”

日程/会場

  • 2024年02月11日(日)/北海道・ペニーレーン24
  • 2024年02月22日(木)/愛知県・THE BOTTOM LINE NAOGYA
  • 2024年02月23日(金)/大阪府・BIG CAT
  • 2024年02月25日(日)/福岡県・BEAT STATION
  • 2024年03月01日(金)/東京都・渋谷CLUB QUATTRO

※情報は記事公開時のものです。最新のチケット情報や公演詳細はRei公式HPをチェック!

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作品データ

Rei『VOICE』

『VOICE』
Rei

ユニバーサル/UCCJ-2231/2023年11月29日リリース

―Track List―

  1. Love is Beautiful with Ginger Root
  2. Sunflower
  3. CITY
  4. Call My Name
  5. RICH KIDS
  6. RUN, RUN, RUN

―Guitarist―

Rei