毎月1人のギタリストの足下を調査する連載企画、『月刊 足下調査隊!』。第4回はGLIM SPANKYのギタリスト、亀本寛貴のペダルボードをご紹介。骨太で粒の荒い歪みに様々な空間系ペダルで彩りを加え、多彩なリード・サウンドを操る亀本。そんな彼のペダルボードの内容を詳しく見ていこう。なお、今回紹介するのは、2023年11月からスタートした全国ツアー“The Goldmine Tour 2024”の初日で使用した状態のものだ。
取材/文=伊藤雅景 写真=大谷鼓太郎
“The Goldmine Tour 2024”用の2枚組ペダルボード
荒い手触りの極太なドライブ・サウンドから、ファジィでサイケな飛び道具的音色までをも生み出す亀本のぺダルボード。写真は、全国ツアー“The Goldmine Tour 2024”の初日、2023年11月30日(木)の恵比寿LIQUIDROOM公演で使用したもの。
2枚のボードで構成されており、写真左がメイン・システムで右の縦長ボードにはおもにフィルター系がまとめられている。
まずは全体の接続順をそれぞれのボードごとに見ていこう。
ペダルボードA(右)
【Pedal List】
①FREE THE TONE/JB-41S(ジャンクション・ボックス)
②EarthQuaker Devices/Swiss Things(スイッチャー/ブースター)
③Aguilar/Filter Twin(エンベロープ・フィルター)
④Arion/SPH-1(フェイザー)
⑤Electro-Harmonix/Nano POG(オクターバー)
⑥Xotic/XW-1(ワウ・ペダル)
⑦FREE THE TONE/PT-3D(パワーサプライ)
ギターからの入力を受ける、フィルター系ペダルやオクターバーが置かれた右側のボード。信号はジャンクション・ボックス(①)に入力され、スイッチャー(②)のインプットへ向かう。
②は、アウトプット・セレクターなどの機能も備えているが、亀本は2ループ・スイッチャーとブースターとして使用。
ループ1にはエンベロープ・フィルター(③)とフェイザー(④)が番号順に、ループ2にはオクターバー(⑤)が接続されている。必要に応じて、各ループのオン/オフを切り替える。
②のアウトプットからワウ(⑥)を経由後、ジャンクション・ボックス(①)へ戻り、左のペダルボード②へと信号が送られている。
ペダルボードB(左)
【Pedal List】
⑧FREE THE TONE/JB-41S(ジャンクション・ボックス)
⑨FREE THE TONE/ARC-53M(プログラマブル・スイッチャー)
⑩Benson Amps/Preamp Pedal(プリアンプ/オーバードライブ)
⑪EarthQuaker Devices/Black Ash(ファズ/オーバードライブ)
⑫Organic Sounds/Ares(オーバードライブ)
⑬Manlay Sound/Ronno Bender(ファズ)
⑭MXR/M108 10 Band EQ(イコライザー)
⑮Shin’s Music/Baby Perfect Volume(ボリューム・ペダル)
⑯BOSS/TU-3s(チューナー)
⑰EarthQuaker Devices/Aurelius(コーラス)
⑱Malekko Heavy Industry/EKKO 616 MkII ANALOG DELAY(ディレイ)
⑲DMB Pedals/Lunar Echo(ディレイ)
⑳JHS Pedals/Spring Tank Reverb(リバーブ)
㉑JHS Pedals/Switchback(ライン・セレクター)
㉒FREE THE TONE/PT-1D(パワーサプライ)
歪み系、空間系がバランス良く配置された亀本のペダルボード②(左)。
右側のボードからジャンクション・ボックス(⑧)へ入力され、プログラマブル・スイッチャー(⑨)のインプットへ向かう。
⑨のループ1〜4には歪みペダル⑩〜⑬が番号順に1台ずつ接続され、セパレート・ループ5にイコライザー(⑭)がつながれている。
⑨のアウトプットからボリューム・ペダル(⑮)を経由し、空間系ペダル(⑰〜⑳)を番号順に通過後、ライン・セレクター(㉑)から2台のアンプ、SHINOSとマーシャルへと信号が振り分けられている。なお、チューナー(⑯)は⑮のチューナー・アウトに接続。
2台のアンプの切り替えは、スイッチャー(⑨)からライン・セレクター(㉑)へラッチ信号を送ることで制御している。
また、アンプはSHINOSのSW-1とマーシャルのSV20Hを使用。SHINOSはクリーン・サウンドに、マーシャルはクランチにセッティングされている。
なお、パッチ・ケーブルはすべてベルデンの9395で統一。
本人インタビュー&徹底解説
“ファズが輝けるボード”というイメージですね
まずは、先頭のペダルボード①(右)について聞かせて下さい。Swiss Things(②)は多機能なスイッチャーですが、どういった使い方をしていますか?
アウトプットの切り替えや、A/Bの両方から出したりと、トリッキーな使い方もできるんですけど、僕はただの2ループ・スイッチャーとして使っています。Boostスイッチはギターの持ち替えの時に踏むことが多いですね。
ギターの出力差を調整する際に使っているんですね。
そうですね。メインのボードはハムバッカーのギターを前提にセッティングしているので、シングルコイルのギターに持ち替えた時にサステインが足りなくなっちゃうんですよ。その時にBoostスイッチを踏むと、音がドンッと前に出てくれるんです。
なるほど。では、スイッチャー(②)に接続しているペダルの使い方について聞かせて下さい。まず、ループ1に接続されたエンベロープ・フィルター(③)はベース用ペダルですが、どういった狙いで導入したんですか?
これはトム・ミッシュのボードに入っていたのを見て、とりあえず買ってみたんです(笑)。ベース用ですが、僕は何の問題もなく使えちゃってますね。
そのうしろのアリオンのフェイザー(④)は名機ですよね。
こいつにしか出せない音がありますね。それに、とにかく音がデカいんです。音量がめちゃくちゃ上がるんですよ。ただ、つないだ時に音が細くなっちゃう印象があるので、スイッチャーに入れて使っています。
スイッチ部分ですが、ここまで上に跳ね上がっていましたっけ……?
これ、蓋がガッツリ割れてるんですよ(笑)。同じモデルは何台も持っていたので、別の個体に替えようと思ったんですけど、この前家で探したらこれしかなくて。ほかのやつらどこに行ったんだろう(笑)。
ループ2につながっているのはnano POG(⑤)です。POGには色々なモデルがありますが、このバージョンにした理由はありますか?
ほかのPOGシリーズも試してみないとなーとは思いつつ、一番安かったこのモデルを買いました(笑)。POGシリーズって意外と高いじゃないですか。“ちょっと使ってみようかな”くらいの気持ちで探してたので、とりあえずはこれを使っています。
SUB OCTAVEツマミだけ、2ヵ所にマーキングしていますね。
オクターブ上(OCTAVE UP)だけが必要な時でも、下(SUB OCTAVE)を9時くらいの位置まで上げているんです。上だけを出すと重心が上がりすぎちゃうんですが、下も加えるとバランスが良くなるんですよ。下と上が同じくらい欲しい時は、どちらも12時くらいにしていますね。その2パターンを曲の合間に変えています。
Xoticのワウ(⑥)にあるツマミのセッティングにこだわりはありますか?
今はBASSが上げめでTREBLEが下げめですが、その時々で変わります。基本的にはフラットで良い感じになりますね。あと、このペダルは掛かり方にクセがないのが気に入っていて。クセがあるワウは、ライブだと凄く使いづらいんですよ。こいつは踏み幅とかも含めて凄く安定感がある。逆にレコーディングではまったく使わないんです。
別のワウも持っているんですね。
ゲイリー・クラーク・ジュニアのCrybaby(ジム・ダンロップ/GCJ95)も持っていて、それがまた変わった音で扱いづらいんですけど、レコーディングではそっちですね。Xoticはライブ専用機です。マジで優等生です。
それでは、ペダルボード②(左)について詳しく教えて下さい。まずは、歪みペダル(⑩〜⑬)とイコライザー(⑭)が接続されたスイッチャー(⑨)の使い方は?
使うエフェクターと、アンプの組み合わせをそれぞれのスイッチにプリセットしていますね。左の2つのスイッチ(PS1、PS2)は、SHINOSの専用プリセットになっていて、両方ともベンソン・アンプスのオーバードライブ(⑩)と、マンレイ・サウンドのファズ(⑬)の組み合わせです。両方ともファジィなリードを弾く時に使っていますが、PS1だけはイコライザー(⑭)で音量が上がるようになっていて。
あと、バンクを切り替えるとPS1のベンソン・アンプスのオーバードライブ(⑩)が、オーガニック・サウンズのAres(⑫)に切り替わるようになっています。
では、右3つ(PS3〜PS5)はどうでしょう。
こっち側はマーシャル用ですね。PS3はオーバードライブ(⑩)と、アースクエイカー・デバイセスのファズ(⑪)です。ハイゲインなディストーションで、おもにコード・プレイで使っています。
PS4は一番使用頻度が高い、クランチ用のプリセットです。オーバードライブ(⑩)だけがオンになりますね。右側のPS5は、何もペダルを使っていないプリセットで、マーシャル直の音が鳴ります。
ファズはBlack Ash(⑪)とRonno Bender(⑬)の2種類を入れていますが、どのように使い分けていますか?
両方ともトーンベンダー系のファズらしいんですけど、個人的にはディストーションと認識していますね。どちらも単体だと扱いづらい音色なので、オーバードライブに歪みを足すっていう感覚です。なのでほかと組み合わせるのが前提ですね。
今はPreamp Pedal(⑩)と合わせています。組み合わせるペダルは、しっかり歪むものっていうよりは、ヘッドルームが高く余裕があるペダルを選んでいて。
Preamp Pedal(⑩)は、どういった部分が気に入っていますか?
プリアンプって言っているとおり、けっこうアンプっぽい音色なんですよね。レンジが広いまま歪んでくれる。オーバードライブはレンジが狭まるペダルも多いけど、そうならずに歪んでくれる。たぶん、自分はドライブ・ペダルにそういう要素を求めているんじゃないかなと思いますね。
もう1つのオーバードライブ(⑫)もそういったニュアンスのペダルなんですか?
こっちは⑩よりもクリアです。めっちゃ歪んだ音でアルペジオを弾く時とかに使っていますね。あとは、歪みきっちゃった音だと弾けないフレーズとかでも重宝します。分離が良い音が欲しい時に使う感じですね。
レベル補正でMXRのイコライザー(⑭)を使ってるのは、何かこだわりが?
EQは動かしていないんですけど、音色の感じが変わるんですよ! そこが気持ち良いですね。これでブーストするとけっこうテンション上がりますよ(笑)。バッファーを通した感じの音に変わるんですけど、そこも面白くて。
空間系セクションの最初にあるAurelius(⑰)は、アースクエイカー・デバイセスの新機種です。
深く考えないで、とりあえずウニャウニャってエフェクトが掛かってくれるやつを探して導入しました(笑)。ここに置くペダルは気分で変えています。アリオンのフェイザー(SPH-1)だったこともありますし、ほかのコーラス・ペダルを使ったこともあって。
ライブで使う揺れもののペダルは1個だけと決めちゃっているんですよ。というのも、空間系を色々と準備していくのはコンパクト・エフェクターだと難しいじゃないですか。
マルチ・エフェクターを使えば音源どおりに“ここはフェイザー、コーラス、トレモロ……”と使い分けられますけど、その時の気分で踏めるようにコンパクトにしているんです。本当は使う予定じゃないところでも、ライブで“踏んじゃえ”みたいなことができるのがコンパクトの良さだと思うんですよね。
だから、揺れ系のエフェクトが必要な時は、全部まとめてこれでやっちゃう。ライブはライブとして割り切っていて。
あえて使う音色を絞っているんですね。
そうですね。なのでAurelius(⑰)のモードも気分で変えていて。今はロータリー・モード(R)を使っていますが、ビブラート・モード(V)の時もあります。でも、どんな時に使ってもそれっぽくなるのが面白くて。クリーンの時は綺麗に聴こえるし、めちゃくちゃ歪んだ音に掛けると激しい印象もいける。その両方の使い方ができるんです。
マレッコ・ヘビー・インダストリー(以下マレッコ/⑱)と、ルナー・エコー(⑲)の2台のディレイはどのように使い分けていますか?
どちらも味つけ用で、特にタイムなどは決めていないですね。マレッコのディレイ(⑱)は薄いディレイで、ミックスもかなり下げています。ルナー・エコー(⑲)はもっとしっかり掛けたい時に踏んでいて、カオティックにしたい時は両方オンにします。そこはライブごとにチョイスしますね。あと、ルナー・エコーは左側のTake Offスイッチで発振できるのが凄く良いですよ。
ありがとうございました! 最後にこのボードのテーマを教えて下さい。
テーマ!? ムズいっすね(笑)。でもやっぱり、ファズを実用的に使えるようにしたっていうところがウリではあるので、あえて言うなら“ファズが輝けるボード”というイメージですね。