2年ぶりとなる13枚目のアルバム『HELL』をリリースした、おとぎ話。インタビュー第3弾では、「I♡PIG」、「闇堕ち」、「繊細」、「正義の味方」という4曲の楽曲制作について語ってもらった。
取材・文=小林弘昂 人物撮影=星野俊
引き算はしない。
足していって、いいところで止める。
──有馬和樹
先行シングルとしてリリースされた「I♡PIG」は、どういうスタートでこのタイトルになったんですか……?
有馬 去年、久しぶりにローリング・ストーンズの「It’s Only Rock ‘N’ Roll(But I Like It)」(1974年)を聴いていたんですよ。改めて歌詞を読んでみたら、“たかがロックンロールに目くじら立てんなよ“みたいな内容で。今、こういう曲を作っている人はいないじゃないですか? そう思った時に、“あ、豚の曲を作ろう!”って。
え(笑)!?
有馬 「It’s Only Rock ‘N’ Roll(But I Like It)」みたいな感じで、豚の曲を作ろうと思ったの(笑)。コード感はクイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジみたいにしようと作ったから、その辺がちょっと面白いかも。
牛尾 そこが有馬っぽい。こういう曲だと、僕はモロにストーンズみたいなことをやっちゃうので。途中で入ってくるギターのトレモロは、有馬が“入れたほうがいいんじゃない?”と言って、実際にやってみたら広がりが出ましたね。
前作『US』ではレコーディング中に思いつきでギターのオブリをどんどん入れていきましたよね。今回はどうだったんですか?
有馬 『US』の時は音が少なかったので大丈夫だったんですけど、今回のアルバムでそうするとトゥーマッチになっちゃうので、最初から決まっていたフレーズだけ入れたというか。しかも「I♡PIG」は曲自体がトゥーマッチですしね。でも引き算はしない。足していって、いいところで止める。オレたち、これまでに引き算をやりすぎたからね(笑)。
牛尾 トレモロのフレーズは、レコーディングの前日に有馬から“入れたほうがいいかも”って言われましたね。
今回は引き算を全然していないと思ったんです。
有馬 うん。引き算を知ってるから、もう足します(笑)。でも、ちょうどいいところで止めてるでしょう? ギターも全部ちゃんと聴こえるし。
牛尾 さっき、“「美」は昔のおとぎ話っぽさがある”と言っていましたけど、たしかに2nd『理由なき反抗』(2008年)みたいな感じがあるなと思った。あの頃は足す一方だったけど。
有馬 今は何を足せばいいのかがわかっています。……みんな、わかんねぇだろう(笑)? “有馬にプロデュースさせてくれ”って感じです!
1回目のギター・ソロは、牛尾さんのカントリー風のラン・フレーズが新鮮でした。
牛尾 あれは有馬が“こういうのが欲しいです”って言ったから、“じゃあこんな感じ?”って弾いて、それをレコーディングしたという。
有馬 ベックのサンプリングで、急にカントリーが入ってくる曲があったじゃない? あれをしたかったんだよ。
牛尾 1つ後悔していることがあって、テレキャスで弾けばよかったなって(笑)。
あのソロはSGで弾いたんですね。
牛尾 そう。軽い音にすればよかった。
有馬 そうだね。重いんだよな〜(笑)。
そしてソロの最後のフレーズだけ、別のギターが弾いているじゃないですか。あれは「恋は水色」と同じく、ただやってみただけ……?
有馬 そうそう。1人で弾いているのに、複数人で弾いているようにしているという。こういうのは意味ないんですけど、好きなんですよ(笑)。聴いていて気持ちが上がるし。
牛尾 このソロはノープランで弾いていて、まったく決め込んでなかったんですよ。
有馬 そうか。だから“最後にもう1本入れてよ”みたいな話になったのか。
テンション・コードを色々と使っているので、
ウィルコの「Either Way」みたいなイメージです。
──牛尾健太
「闇堕ち」はアコギのフィンガーピッキングの音が凄くキレイです。
牛尾 有馬が弾いていて、アコギはマーティン。3フィンガーですよ。
有馬 やっとできた(笑)。4年前にマーティンD-41を買いに行ったじゃないですか? そのおかげで練習しました!
牛尾 やっぱり良いギターを買うと練習するんだよね(笑)。
有馬 そうなんです。それが良いんだよ! 皆さん良い楽器を買って下さい(笑)。
牛尾さんもそろそろ自分のギターを買いましょう!
牛尾 ね。本当に買いますよ。
有馬 そう言い続けて何年経った(笑)?
(笑)。この曲の間奏で、牛尾さんがペイヴメントっぽいフリー気味のフレーズを弾いていますよね。
牛尾 「闇堕ち」はテンション・コードを色々と使っているので、あれこそウィルコの『Sky Blue Sky』の1曲目、「Either Way」みたいなイメージです。
有馬 ジャズっぽい音階で速弾きしてほしかったんですよ。
牛尾 僕は“ああ、そういうことね。わかったわかった”と言いつつ、実は何も決まってなかった(笑)。だからその場で弾きました。
有馬 でも牛尾はああいうのが上手いんだよ!
お題を出されてパッと弾くのが得意というか。
有馬 牛尾はお題をパッと想像するのが上手いのよ。ニルヴァーナとか、オアシスとか、ウィルコのネルス・クラインとか(笑)。
牛尾 でも“ダララン、ダララン”っていう入りだけは決めていたんだけどね(笑)。そのあとは本当に何も考えてなかったけど、レコーディングあるあるで、その場で弾いたほうが良かったな。
この曲もところどころにダブル・ストップを入れていて、ソウルっぽい感じも出ていますよね。
牛尾 マジで無意識でした(笑)! コードを必要最低限の音だけで弾くのが好きなので、すぐやっちゃう。
有馬 有馬がアコギをちゃんと練習して弾いたから、絡むようになったよね。
“ファミレスでくっちゃべってる感じで”って言われて、
“ああ、わかった”って(笑)。
──牛尾健太
「繊細」の裏打ちのリズムと、小節いっぱいに詰め込んだ歌詞は、おとぎ話の新たな一面が出た楽曲です。
有馬 楽しい曲にしようと思って作ったんですよ。ロック・ステディみたいな感じでね。で、そういう曲をやろうとすると、日本人ってルーツを大事にしすぎるというか。逆に自分は良い意味でルーズにやりたくて、“楽しければいいじゃん”みたいな感じで作ったら、歌がラップっぽくなっちゃった。
結果的にこうなったと。
有馬 そうそう。スカとかロック・ステディとか、やってみたいじゃないですか? でも、まんまの曲はもうみんな上手にやってるから、レコーディングの時に吉田仁さんと“トーキング・ヘッズとかブロンディとかがやってるレゲエみたいな感じにしたい”と話していて。それで最終的にこうなったという。
たしかにレゲエ感は薄いですよね。
有馬 そのつもりで作っていたので。わけのわからない曲になって良かった(笑)。
牛尾 面白かったよ。
普通ならギターとドラムにローファイなディレイやリバーブをかけて、煙たくしちゃいますよね。
有馬 オレたち煙やってないからね! 普通に生きてたら楽しいことなんかいっぱいあるのに、やってるのダサいじゃん? ここ太字で(笑)!
了解しました(笑)。イントロの単音リフは60年代のブラジル・サイケ・ロックっぽさがあります。
牛尾 “どこかで発掘されたような音源みたいな感じで”、とか言ってなかった?
有馬 そう。謎のロック・ステディ。“南米奥地のロック・バンドの音源を発掘しました!”みたいな。
牛尾 だからこの曲のギターはHarmonyのBobkatで弾いた気がする。有馬のバッキングはハネてるんだけど、僕のリフは凄くベチャッとしていて、勝手にクラッシュの「The Guns Of Brixton」(1979年)をイメージしていました。
有馬 やっぱり牛尾はロックになっちゃうんだよ!
そしてこの曲でようやくファズの音が出てきますよね?
牛尾 あれも有馬が“欲しい”って言ったやつです。最後、エンディングにかけて弾いているフレーズは、有馬に“どういうのがいい?”って聞いたら、“ファミレスでくっちゃべってる感じで”って言われて、“ああ、わかった”って(笑)。
どんなイメージですか(笑)。
牛尾 それで弾いてみたら“OK!”って(笑)。ああいうのはレコーディングの楽しい瞬間。それくらい、この曲には余裕があった。
有馬 牛尾は弾きながら“本当に大丈夫?”って確認してきました(笑)。
ファズは何を使ったんですか?
牛尾 有馬が持ってるDeath By AudioのAPOCALYPSEかな。
有馬 APOCALYPSEは5つのモードが選べて、一番低音が削られるモードで!
カーズとか、ビッグ・スターとか、
“オレはこっちだな!”と言いたくなるような感じで作りました。
──有馬和樹
シンプルな「正義の味方」がアルバムの最後を飾るのは、凄くストレートで良いなと思いました。
有馬 ふさわしい曲ですよね。これは最後にすると決めていて、“そうじゃないと意味がない”っていうくらい。この曲、普通だったらアルバムの1曲目じゃないですか? でも1曲目はチョーキングから始めたかった(笑)。
牛尾 それ、録る前から決めてたよね?
有馬 うん。1曲目がチョーキングから始まって、最後が「正義の味方」で終わるっていうのは決めてた。そしたらまた1曲目に戻れるじゃないですか? アルバム自体も30分くらいだし。
この曲は全部のパートがサビのようにキャッチーですし、使っているコードも『HELL』の中では一番シンプルで、ちょっと異質ですよね。
有馬 そうですね。m7(♭5)を使ってるくらいか。
最初からコードをシンプルにして作ろうと考えていたんですか?
有馬 そう。わかりやすくして、今の時代に生きている人のラブ・ソングにしたいと思っていたかな。カーズとか、ビッグ・スターとか、凄くストレートなんだけど、“やっぱりオレはこっちだな!”と言いたくなるような感じで作りました。イントロで有馬が弾いているフレーズは難しいんだけど、牛尾にはひたすらわかりやすく弾いてもらっていますね。だけどパワー・コードは禁止で。
牛尾 そうそう。最初はパワー・コードだと思ってたんですけど。
有馬 禁止しました(笑)。
牛尾 でも、それで良かったと思う。
リフでアコギの音が入っていて、あれが良いアクセントになっています。
牛尾 あれは有馬チョイス。ああいうのはレコーディングまで知らないんですよ。
有馬 急に入れるからね(笑)。
牛尾 全体のアレンジは決めてるけど、細かいギターのことは決めないので。でもバッチリだったよね?
有馬 うん。先に全部決めちゃうと、レコーディング中にフレッシュじゃなくなるんですよ。タスクになるから音楽として楽しくなくて。そこは牛尾と有馬は良い関係性でやれています。
作品データ
『HELL』
おとぎ話
felicity
MARY-001 / felicity cap-372
2024年5月29日リリース
―Track List―
01.恋は水色
02.MARY
03.美
04.ね。
05.I♡PIG
06.闇落ち
07.絵画
08.繊細
09.です愛
10.正義の味方
―Guitarists―
有馬和樹、牛尾健太