フジロックで初来日を果たしたフリコのニコ・カペタンが語る、デビュー作『Where we’ve been, Where we go from here』とオルタナティブ・ギタリストとしての源流 フジロックで初来日を果たしたフリコのニコ・カペタンが語る、デビュー作『Where we’ve been, Where we go from here』とオルタナティブ・ギタリストとしての源流

フジロックで初来日を果たしたフリコのニコ・カペタンが語る、デビュー作『Where we’ve been, Where we go from here』とオルタナティブ・ギタリストとしての源流

USインディー・ロックの系譜を継ぎ、美しいメロディと爆発的なオルタナティブ・ギター・サウンドを共存させた楽曲がコアなリスナーから支持を集めるシカゴ出身の2ピース・バンド、フリコ。彼らが『FUJI ROCK FESTIVAL ’24』に出演するために初来日を果たした。出演日の2日前、東京でニコ・カペタン(vo,g)のインタビューに成功。今年6月にリリースされたデビュー・アルバム『Where we’ve been, Where we go from here』の制作や、彼のギター・スタイルの源流を探っていく。

取材・文=小林弘昂 通訳=トミー・モリー 人物撮影=西槇太一

ニュートラル・ミルク・ホテルのアルバムからは
レコーディングに関して多くを学んだね。

ニコ・カペタン

今回が初来日ということで、まずはあなたのギタリストとしてのルーツから教えて下さい。出身地のシカゴにはチープ・トリック、スマッシング・パンプキンズ、ウィルコなど、素晴らしいロック・バンドがたくさんいますよね。どのような音楽を聴いてきましたか?

 初めて真剣に聴いたバンドはビートルズで、8歳から12歳の頃なんて本当にそれしか聴いてこなかったよ。おかげでメロディ・センスを養うことができたんだ。ビーチ・ボーイズの『Pet Sounds』(1966年)からもそういった要素を吸収して、アレンジのテクニックを学んだね。『Pet Sounds』は“ギター!”っていう感じのアルバムではないけど、ギターを使ってかなり複雑なことをやっていて、それが美しいものをもたらしている。そういうところにかなり影響を受けているよ。

王道のロック・ミュージックも聴いてきたんですね。

 僕らが成長できたのは、そこから得た気づきがあったからじゃないかな? ブライアン・ウィルソンのようなアレンジをしたいと思っているよ。そのあとは、もっとギターを主体としたバンドに夢中になったんだ。僕の父はキュアーやスミスといった80年代のロックを愛していて、その影響で僕もテレヴィジョンやイギー・ポップ、トーキング・ヘッズといった70年代のニューヨークのシーンが好きになっていったね。特に最近はトーキング・ヘッズの『Stop Making Sense』(1984年)を聴いているんだけど、彼らのファンク・ギターの扱い方はクレイジーだよ。ほかにはマイ・ブラッディ・ヴァレンタインみたいなシューゲイザーも好きだね。

フリコの音楽からはニュートラル・ミルク・ホテル、アーケイド・ファイア、ウィーザー、フガジ、ピクシーズなど、様々なアーティストからの影響を感じたんです。90〜00年代のアーティストもよく聴いているんですか?

 もちろん! 12歳くらいの頃からストロークス、ヤー・ヤー・ヤーズ、ニュートラル・ミルク・ホテル、アーケイド・ファイアを聴くようになっていったんだ。今回のアルバム(『Where we’ve been, Where we go from here』)は完全にDIYで録音したんだけど、そもそも僕は何年も実家の地下室でレコーディングをしていて、ニュートラル・ミルク・ホテルの2枚のアルバムからはレコーディングに関して多くを学んだね。ドハマりしたよ。

あなたはファズやノイズを積極的に取り入れたオルタナティブなプレイ・スタイルですが、ギタリストとして影響を受けてきた人は?

 ヤー・ヤー・ヤーズのニック・ジナーや、リプレイスメンツのポール・ウェスターバーグのクールなギター・パートは大好きなものばかりだよ。特にウェスターバーグのヘタウマでリアルな感じのプレイには、僕自身が鍛錬を積みまくってきたギタリストではないからこそ共鳴するフィーリングがある。ファズに関して言うと、スマッシング・パンプキンズのパーフェクトなサウンドのロック・レコード、『Siamese Dream』(1993年)ははずせないね。フリコは大きなライブでは4人編成で音を埋めるように演奏しているけど(※フジロックでのライブにも参加したコーガン・ロブがサポート・ギタリストを務めている)、だいたいは3ピースでやっているんだ。バンドの中でどういったギター・プレイヤーになるべきなのかを日々学んでいる気がするよ。

コーガン・ロブ(g)/撮影:渡邉隼
コーガン・ロブ(g)/撮影:渡邉隼

1stアルバム『Where we’ve been, Where we go from here』の制作において、影響を受けた音楽はありましたか?

 アーケイド・ファイアの1stアルバム(『Funeral/2004年)を聴きまくっていたよ。あとはリプレイスメンツ。ロックでラウドな曲はもちろん、その逆の凄くソフトな曲もあって、その全部が好きでたくさん聴いていたね。テレヴィジョンからもインスピレーションを受けたよ。それとスピリット・オブ・ビーハイヴっていうバンドを知ってる? 彼らはフィラデルフィアで活動していて、まだそこまでビッグじゃないけど、君たちも気に入ると思うな。

チェックしてみます!

 彼らの『Hypnic Jerks』(2018年)はかなりクールなギター・アルバムで、僕も凄く影響を受けているよ。あとはフガジからも影響を受けたね。彼らはギターのアレンジが驚異的で、これって実は多くの人が見落としている気がするんだ。どうしてもパンクの象徴的なイメージが先行してしまい、作曲のレベルの高さが置き去りにされていると思うな。

フリコの音楽は2ピース・バンドとは思えないほどスケールの大きいアレンジが魅力です。曲作りはどのように行なっているのですか?

 僕はだいたいアコースティック・ギターを弾き語りながら、曲の核となる部分を作っている。ビッグな印象の曲を作ろうとしても、核となる部分がしっかりしていないと陳腐で退屈なものになってしまうよ。アコースティック・ギターに限らず、どんな楽器でもね。だから核となる部分が絶対に良いものでなければならないし、何よりもまずはそこから始めなければならないと思っている。

楽器にインスパイアされて曲ができることもあるんですか?

 例えばギターが最もヘヴィな「Crashing Through」では、僕のペダルボードに入っている白いペダルに大きくインスパイアされたようなところがある。そのペダルはTASCAMの4トラック・レコーダーのディストーションをシミュレートしたもので、ジェイ・アンダーソンというビルダーに作ってもらったんだ。ゲイン、ベース、トレブル、ボリュームの4ノブで、TASCAMの4トラック・レコーダーの回路が組み込まれている。ヘヴィにプッシュすると、永遠にフィードバックしそうなサウンドになるんだ。歪み方もナチュラルで、かなり気に入っているよ。

「Crashing Through」のノイジーなギター・リフが素晴らしいと思いました。あれはどのように考えたのですか?

 モーリス・ラヴェルのクラシックの楽曲の一部を逆から弾いて、リフっぽいものに落とし込んでいったんだ。例の白いペダルを爆音で使って、ゆっくりとジャズマスターのアームを持ち上げて、フィードバックをくり返しながら倍音を重ねていったらシューゲイザーっぽいサウンドになったんだよね。白いペダルは本当にクレイジーだよ。

先日リリースされたレディオヘッドのカバー曲「Weird Fishes/Arpeggi」が日本でも話題になりました。カバーするのは大変だったと思うのですが、なぜあの曲をチョイスしたんですか?

 以前のライブで、ストリングスを加えたアレンジで「Weird Fishes/Arpeggi」をカバーしようという話になり、それをレコード会社が録音していたんだ。「Weird Fishes/Arpeggi」はギター的にはもちろん、曲としても最高だよ。この曲のギター・アレンジは史上最高なものだと思っている。だから僕はこのカバーをレコーディングするなんておこがましいと思っていたんだよね。でもいざやってみたら楽しくて、自然な感じになったんだ。実は例の白いペダルが、この曲のエンディングでも活躍しているんだよ。

リプレイスメンツの
チープなギター・トーンも好きなんだよね。

ニコ・カペタン

アルバムのレコーディングで使ったギターは?

 2本のジャズマスターを使っていて、1本はP-90を搭載したホワイト・カラーのもの。今ここにあるやつで、僕のメイン・ギターだね。アルバムのすべてのクレイジーなサウンドで使ったよ。もう1本は去年フェンダーからもらった、ゴールド・フォイルのピックアップを搭載しているもの(Gold Foil Jazzmaster)だ。クリーンが持ち味なんだけど、今まで弾いてきたギターの中で一番重いんだよね。父親が組んでくれたテレキャスターも持っていて、それはジャズマスターとは違ったフル・レンジのサウンドを狙う時に使うんだ。そのテレキャスターは最も付き合いが長いギターなんだけど、父がどこからどう作ったのかはまったく知らないんだよね。

Gold Foil Jazzmasterを弾くニコ/撮影:渡邉隼
Gold Foil Jazzmasterを弾くニコ/撮影:渡邉隼
テレキャスターを弾くニコ/撮影:渡邉隼
テレキャスターを弾くニコ/撮影:渡邉隼

ジャズマスターを使うようになった経緯を教えて下さい。

 キッズの頃から聴いていたバンドの多くのギタリストが使っていて、それが大きいかな。でも、単にクールなギターだからっていうのもあるよ。「Crashing Through」でもたくさんやっているんだけど、ブリッジとトレモロ・ユニットの間の弦をピッキングして、そこにペダルを組み合わせてモンスターの唸り声みたいな音を出すのが好きなんだ。

「Where We’ve Been」などでアコースティック・ギターは何を使いましたか?

 Seagullのサンバーストのモデルだね。ほぼすべての曲を書く時に使ってきた、お気に入りなんだ。持っているギターは今話した4本だけだよ。

あなたが目指しているギター・サウンドはどのようなもの?

 例えばクリーンなサウンドをプレイするとして、そこに色んなカラーを加えてみたいと思っている。僕はいつもゲインの効いた音を出すことが多くて、クリーン・トーンでプレイすることが少ないから、そういう選択肢をもっと持っておきたいんだ。だからケヴィン・シールズやニック・ジナーのような歪んだ音を求めてしまうけど、たまにFairfield Circuitryのコンプレッサーを使うよ。それでいて、リプレイスメンツのお世辞にもベストとは言えないようなチープなギター・トーンも好きなんだよね。何か特定の、1つのサウンドが好きというわけではないんだ。

普段のライブで、アンプはリイシューのBassmanとDeluxe Reverbの2台を使っているようですね。なぜその2台を選んだのですか?

 Bassmanはヘッドルームに余裕があって、歪みやコンプレッションを伴うことなくラウドに鳴らせるんだよね。逆にDeluxe Reverbはボリュームを上げるとコンプレッションと歪みが加わってくる。この2台を組み合わせると上手くいくんだ。昔はDeluxe Reverbだけでライブをやっていたんだけど、歪み量が違うペダルを切り替えた時、それぞれのサウンドの違いがわかりづらかったんだよね。Bassmanはそれを解決してくれたよ。

これから取り入れたいギター・サウンドはありますか?

 Mk.geeの新譜(『Two Star & The Dream Police』/2024年)は聴いた? あのアルバムは本当にかっこよくて、超革新的なギター・ミュージックなんだ。彼のギター・プレイは僕とはまったく違うけど、インスパイアしてくれるよ。新しいアーティストにインスパイアされるのはかなりクールなことだよね。それと最近はトーキング・ヘッズのクリーンなギター・サウンドにも興味があるんだ。今までやってこなかったことにもトライしたいと思っているよ。

現在、日本のコアなリスナーにフリコの音楽が受け入れられている状況をどう思いますか?

 こうやって日本に来られて、自分の音楽をプレイできることが何よりも光栄だよ! 日本には“いつか行ってみたいよね”とずっと話していたし、2年前は地下室みたいな場所でプレイしていて、こんなことが起こるとは思っていなかったからね。日本でライブができたり、こうやってインタビューを受けているのは不思議な気分だよ。

ニコ・カペタン

JAPAN TOUR 2024

フライヤー
  • 【日程】
    11月19日(火)大阪 UMEDA CLUB QUATTRO
    11月21日(木)東京 KANDA SQUARE HALL
  • 【時間】
    OPEN 18:30/START 19:30
  • 【チケット】
    スタンディング 前売り:¥7,500(ドリンク代別)
  • 【問い合わせ】
    SMASH:https://smash-jpn.com/live/?id=4236

作品データ

『Where we’ve been, Where we go from here』
フリコ

ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
ATO0666CDJX
2024年6月5日リリース

―Track List―

01.Where We’ve Been
02.Crimson To Chrome
03.Crashing Through
04.For Ella
05.Chemical
06.Statues
07.Until I’m With You Again
08.Get Numb To It!
09.Cardinal

―Guitarist―

ニコ・カペタン