現在、ワンマンツアー“HITORI-ESCAPE TOUR 2026”を開催中のヒトリエ。7thアルバム『Friend Chord』について、シノダ(vo,g)にレコーディングの手法や使用した機材を聞いた。曰く、“本作は音像におけるギターの面積がこれまでで一番多い”という。そのアレンジを生み出した背景や、本作で見えた新たな“ギターのビジョン”など、余すところなく語ってもらった。
取材・文=編集部

“波形を正しく録る”っていうことが
大切ですね。
まずは『Friend Chord』のサウンドメイクについて詳しく聞かせて下さい。シノダさんは『REAMP』(2021年)のレコーディングでリアンプを導入していましたが、本作でもリアンプを活用したんですか?
曲によりますね。日によってはスタジオでアンプを使って弾いたり、最終的にリアンプで音色を作り直したりしたこともありました。「ブルースプリングパンク」のギターは、全部その日のうちにスタジオで録ったんですよ。なのでこの曲はアンプの音を採用しているんですけど、1回リアンプしてみて、もとの音と比べたりもしましたね。“やっぱり最初にアンプで録った音のほうが良いね”みたいなケースもよくあります。
リアンプでギターの生感や荒々しさを出すために工夫したことはありますか?
デモを作る時にはAmpliTube(ギター・プラグイン)とかを使うんですけど、その時に大体のイメージを掴んでおくんです。“実際の現場でこのペダルとこれを組み合わせたら、こういう感じになるな”みたいなことを考えながら音色を作っていきますね。「ネバーアンダースタンド」とかは、けっこうその考えがあったかもしれないです。
「おやすみなさい」の逆再生フレーズとかは、もう完全にリアンプありきでフレーズを作っていて。あれは波形を完全に作り込んだうえでリアンプ……アンプリファイドするっていう。清書というか。
リアンプのもとになるラインの音を録る際に、バッファーなどの機材をつないだりはしましたか?
何も使ってないですね。ラインの音は素直に録れたほうが良いなと思っているんです。気をつけているのは、“波形として適正な音量で録れているかどうか”、という部分。音色を変えたければ、その先のリアンプの段階でやればいいなと思っています。なのでまずは、“波形を正しく録る”っていうことが大切ですね。
DAW上で編集したり、逆再生にしたり、そういうことはやったりはしますけど、ラインの音に対して何かをかけようとかは怖くてできないというか(笑)。そこから先はエンジニアさんに任せればいいなっていう段階だと思うんで。
AmpliTubeでは、シノダさんが普段使っている実機のアンプやエフェクターに寄せたプラグインを選んだりも?
そこもあんまり考えてないですね。ギターが気持ちよく弾ける状態にしておいて、良い感じに弾けたら、そのニュアンスをちゃんと再現できるようにリアンプで音を作るみたいな発想です。
『REAMP』以降、そのやり方に試行錯誤はあったのでしょうか?
試行錯誤というか、単純に慣れましたね。僕はスタジオでのギター録りの時、テイクの良し悪しとか、納得いかないことが多かったりとかで、時間がかかっちゃうタイプなんですよ。それでエンジニアさんから、“あなたはスタジオでハマりやすいタイプだから、絶対家で弾いてきたほうが良くなるよ”みたいに提案されたんですよね。たぶんもう付き合いきれなくなったんだなと(笑)。そこから始めました。
でも最初は、リアンプの音を作る段階でもめちゃめちゃ時間がかかっちゃって。“ワシの作業が倍になっただけやないか! 騙された!”と思ったんですけど、慣れてきたら絶対こっちのほうが良いと思いました(笑)。まあ、曲によりますけどね。「ブルースプリングパンク」とかの荒々しいストロークとかはスタジオで録って良かったなと思います。
めちゃめちゃシビアな設定なので、
ライブで絶対再現できないんですよ。
本作のギターはファジィな音色も多いですが、一番活躍したファズ・ペダルは?
Prescription ElectronicsのExperienceですね。大体こいつでカタがつくようになってきています。
「おやすみなさい」などはシューゲイザー的な音の広がりが気持ちいいです。何のエフェクターを使ったんですか?
これはディレイとかをかけていますね。ディレイの残響音が、クリップの濁る感じを出せたなと思います。
そのディレイは、シノダさんのボードに入っているBOSSのDD-20ですか?
違うんです。Line 6のEcho Parkっていうペダルですね。今日、持ってくればよかったな。
カートリッジ式のシリーズですね。
そうそう。あのTAPEモードがとにかく良いんですよ。モジュレーションをいじれるMODツマミがあって、それをMAXにしてTAPEモードにすると、“死にかけのテープ”みたいな音になるんですよね。だから、たまに“グニャン”みたいな変な音が入ってくれる。「Quadrilateral Vase」、「おやすみなさい」、「耽美歌」あたりはその音が入ってるんじゃないかな。
とにかくもう、Echo Parkはその音欲しさに使うことが多いですね。特に「おやすみなさい」はEcho Park祭りです。左側のギターは、たぶんEcho Parkをリバース・ディレイにして、MODをMAXにして、みたいな。これを作るのに死ぬほど時間がかかりました。めちゃめちゃシビアな設定なので、ライブで絶対再現できないんですよ(笑)。

本作が一番
“ギターがギターしてるアルバム”のはずなんです。
本作では、以前よりもメンバーのアイディアを多く取り入れたそうですね。制作前からそのようなコンセプトがあったのでしょうか?
「ジャガーノート」を作ったあたりから、バンドがそういうモードに変わり始めたんです。いろんなバンドや若い子たちが作曲をどんどんDTMに移してきたなと感じてきていたので、逆に僕らは“もうやめようかな、そういうの”みたいな反骨の気持ちもありました(笑)。
オレらは今のうちに、もうちょい自分たちの音や匂い、ムードみたいなものを固めていこうかなという気持ちで「ジャガーノート」を作ったんですよね。そしたら思いのほか良い感じのものができて、そこで“この路線はアリかもしれない”って思ったんです。
シノダさんのギター・フレーズで言うと、ハイ・ポジションでの目立つフレーズが少なくなり、ギターのサウンドを生かしたフレーズが増えたと感じました。特にコード・ストロークなどにすごくこだわりを感じるんです。
そうですね。そういう風潮に対する反発です(笑)。でも、単純に僕が童心に返っただけなのかもしれない。
これまでヒトリエで弾いてきたリード・プレイや考えてきたフレーズっていうのは、言ったらwowaka(vo,g)と一緒に作ってきたものだったり、そういう部分が特に多かったんですね。でも最近は、そのプレイとはまた違ったギター・ビジョンが自分の中に見えてきたんです。“そういえば自分はこういうフレーズを弾くやつだったな”みたいな。そういうところに今一度回帰してみようという気持ちがあったかもしれないですね。
なるほど。個人的には「耽美歌」で、そのシノダさんの意識を感じました。サビでもリードが増えない硬派なアレンジですが、そこは意図的なものでしたか?
それはマジでありますね、実は細かいハイ・ポジションのフレーズもけっこう弾いているんですけど、そういった“いわゆる”な感じで聴こえないアプローチにしてるというか。だから今回のアルバムを聴いた人からは、“ギターの面積が減ったんじゃないか?”みたいな意見や感想がけっこうあったりするんですよ。でも実は、これまでで一番多いんじゃないかっていうくらいギターのフレーズを入れているんです。面積的にも、フェーダー的にも。なので、本作が一番“ギターがギターしてるアルバム”のはずなんです。そこを意識して聴いてみてほしいですね。
作品データ

『Friend Chord』
ヒトリエ
ソニー
AICL-4682
2025年1月22日リリース
―Track List―
1. 耽美歌
2. ジャガーノート
3. Quadrilateral Vase
4. ネバーアンダースタンド
5. 月をみるたび想い人
6. Shadowpray
7. NOTOK(Album version)
8. オン・ザ・フロントライン
9. おやすみなさい
10. ブルースプリングパンク
―Guitarist―
シノダ
