前回は、Thorn Custom Guitarsを主宰するロン・ソーンのインタビューをお届けした。今回は、ロン・ソーンが手がけた最新のカスタム・モデルを紹介する。いずれも豊かな経験と実績を背景に、細部まで丹念に作り込まれた逸品だ。
解説文=山本彦太郎 写真=星野俊
Presented by Miyaji Guitars Kanda
*本記事は、ギター・マガジン2025年9月号の記事『世界のマスタービルダーを訪ねて 第5回 Thorn Custom Guitars/ロン・ソーン』の一部を抜粋し、再構成したものです。
Thorn Custom Guitars
FLORENTINE DeLUXE #006


モダンな演奏性を追求した王道スタイル
4バリエーションで展開する、現在のThorn Custom Guitarsの看板モデル。本器はその中でも王道と言えるDeLUXEの1本で、モデル名ともなっているフローレンタイン・タイプのシングル・カッタウェイを備えたトラディショナルな趣だ。
鮮やかなイースタン・カーリー・メイプルのトップに合わせたボディのマホガニーは、内部をくり抜いたセミ・ホロウ仕様。重量軽減というより、低域のダブつきを抑える音色チューニングの意図が感じられる仕様だ。
さらに特徴的なのは24.658インチという、一般的な同型モデルより約17ミリほど短いネック・スケール。これは50年代製のビンテージ・ギターを参考にした設計とのことだが、弦のテンション感がほど良くチョーキングなども行ないやすい。
一方で独自のダブテイル・ジョイントを用い、ヒール部をなめらかにラウンドさせるなど、モダンなプレイアビリティも追求している点が単なる懐古趣味に陥らない特色となっている。
ちなみにネック・グリップは’59カーブを採用し、ややガッシリとした太めの握り。フレット端をロールオフしてハンド・ポリッシュで仕上げるなど、ハンドメイドならではの丁寧な作業も光る。
ピックアップはフロント&リア共にロン・エリスのSignatureピックアップで、本器用にバー・マグネットをカスタムしたモデルを搭載。伝統的なハムバッカーを軸にしつつ、ミドルを抑えることでシングルコイル的なシャープさも表現でき、ボディ構造からくるサウンドの軽やかさや、単音の粒立ちの良さなどを的確にアウトプット。一方で、どこかブリティッシュ・サウンド的なマイルドさや煙ったニュアンスも感じられるのが本器の面白いところだ。
精緻なインレイ・ワークで知られるロン・ソーンとしてはシンプルな装飾の本モデルだが、ポジションごとに形状が異なる指板インレイやトラスロッド・カバーの象嵌など、通好みの繊細な仕事はさすがの一言だ。




Thorn Custom Guitars
FLORENTINE DeLUXE #006
【スペック】
●ボディ:イースタン・カーリー・メイプル(トップ)、1ピース・マホガニー(バック)
●ネック:マホガニー
●指板:マダガスカル・ローズウッド
●フレット数:22
●スケール:24.658インチ
●ペグ:クルーソンWaffleback
●ピックアップ:ロン・エリスSignature×2
●ブリッジ:フェイバーABR-1&ビグスビーB-7
●コントロール:ボリューム×2、マスター・トーン、3ウェイ・ピックアップ・セレクター
【価格】
オープン・プライス(市場実勢価格:1,790,000円/税込)
【問い合わせ】
Miyaji Guitars Kanda TEL:03-3255-2755 https://www.miyaji.co.jp/
Thorn Custom Guitars
GRANTURA MkⅢ #002


セミアコの魅力を新たな解釈で再定義
2014年からリリースがスタートしたダブル・カッタウェイのセミ・アコースティック・ギターGRANTURAの第3世代モデル。一般的なセミアコ・ギターよりやや小さめの14.75インチ幅のボディが特徴で、抱えやすさとボディ・バランスの良さを実現している。
ボディ材はラミネートのイースタン・カーリー・メイプルをトップに、バックにはロン・ソーンのお気に入りの材だというブラック・リンバ(コリー
ナ)をセミ・ホロウ加工して採用。このボディ構造が初期GRANTURAとの大きな違いで、トップ材のサウンド・キャラクターを活かしつつ、バック材で音色にチューニングを施していくという進化の跡が見て取れる。結果、カラッとしつつも中域が主張するロック向きのサウンド志向となっているのが本器の特徴だ。
なお、ボディ・バック面にはキャビティ用のザグりはなく、アッセンブリはすべて前面から設置している。バック材の質量をスポイルせず、鳴りを最大限に活かすための丁寧な仕事だ。
ネックもブラック・リンバを採用し、独自のダブテイル・ジョイントでボディとセット・ネック接合。ボディ構造もあって接合はかなり強固で、これが鋭い音の立ち上がりにも影響しているかと思う。ちなみにネック・スケールは24.75インチで、グリップはフルCカーブ。やや厚めのラウンド形状となっている。
ピックアップはロン・エリスで、フロントにはビル・フリゼールのシグネチャー・モデルであるFrisell、リアにはSignatureを搭載。Frisellは低出力でマイルドさの中にも音の芯が主張するピックアップであり、ピッキングのニュアンスなども的確に表現してくれる。フュージョンやブルース、ソウルなどでも大いに活躍してくれそうなサウンドだ。
とはいえ、上述したロック的なサウンドも大きな魅力で、改めてこのタイプのセミアコ・ギターの汎用性の高さを示しつつ、それを高い次元で実現したギターだと言えるだろう。




Thorn Custom Guitars
GRANTURA MkⅢ #002
【スペック】
●ボディ:ラミネート・イースタン・カーリー・メイプル(トップ)、ブラック・リンバ(バック)
●ネック:ブラック・リンバ
●指板:マダガスカル・ローズウッド
●フレット数:22
●スケール:24.75インチ
●ペグ:クルーソンWaffleback
●ピックアップ:ロン・エリスFrisell(フロント)、Signature(リア)
●ブリッジ:フェイバーABR-1&ストップ・テイルピース
●コントロール:ボリューム×2、マスター・トーン、3ウェイ・ピックアップ・セレクター
【価格】
オープン・プライス(市場実勢価格:1,790,000円/税込)
【問い合わせ】
Miyaji Guitars Kanda TEL:03-3255-2755 https://www.miyaji.co.jp/
Thorn Custom Guitars
SO CAL C/S


経験に裏打ちされた革新性と伝統の融合
拠点を構えるSouthern Californiaの略称を冠した、オフセット・ボディ・デザインのダブル・カッタウェイ・ソリッド・ギター。特徴は、ミドル・ポジションが大幅にリア寄りに設置されたピックアップ・レイアウトで、想像どおりミドルはかなりトレブリーでタイト、ネック&ミドルのミックス・ポジションはマイルドさの中にバイト感が生まれるというユニークなサウンドとなっている。
またセレクターの一番ブリッジ寄りのポジションはリア&ミドルのシリーズ接続、その次が同パラレル接続となり、それぞれでボリューム・ポットの抵抗値が切り替わるという、かなり凝った仕掛けも施されている。
アーム操作時の摩擦を最小限に抑えるBrass-Knuckle 2サドルと、独自機構のTail-Slideビブラート・ユニットなどオリジナル・パーツも注目点。
Tail-Slideビブラート・ユニットはシンクロナイズド・トレモロなどと同じくボディ裏のスプリングの張力で駆動する仕組みだが、回転の支点部にCNC加工で溝を切るなど、摩擦を大きく減らす工夫がなされている。そのアーム操作感は非常に軽く、指1本でも楽々と動かせるほどだ。既存の概念に縛られず、独自開発にも挑む姿勢には敬服させられる。




Thorn Custom Guitars
SO CAL C/S
【スペック】
●ボディ:アルダー
●ネック:カーリー・メイプル
●指板:イースト・インディアン・ローズウッド
●フレット数:22
●スケール:25.5インチ
●ペグ:Locking staggered
●ピックアップ:ソーンVC-50 single coils×3
●ブリッジ:Brass-Knuckle 2&Tail-Slide Vibrato
●コントロール:マスター・ボリューム、マスター・トーン、5ウェイ・ピックアップ・セレクター
【価格】
オープン・プライス(市場実勢価格:1,420,000円/税込)
【問い合わせ】
Miyaji Guitars Kanda TEL:03-3255-2755 https://www.miyaji.co.jp/
