ビル・フリゼールが2025年10月のBLUE NOTE TOKYO公演で使用したJ.W. Black GuitarsのTLタイプを本人が解説! ビル・フリゼールが2025年10月のBLUE NOTE TOKYO公演で使用したJ.W. Black GuitarsのTLタイプを本人が解説!

ビル・フリゼールが2025年10月のBLUE NOTE TOKYO公演で使用したJ.W. Black GuitarsのTLタイプを本人が解説!

ルディ・ロイストン(d)とトーマス・モーガン(b)とのトリオ編成で、10月にBLUE NOTE TOKYOで6年ぶりの来日公演を行なったビル・フリゼール。今回のライブでビル・フリゼールが使用したJ.W. Black Guitarsのギターを、本人の解説と共にご紹介しよう。

取材・文=小林弘昂 通訳=トミー・モリー 機材撮影=星野俊

Bill Frisell’s Guitar

J.W. Black Guitars
TL Type

J.W.ブラックがビル・フリゼールのために製作した1本

今回の来日公演でビル・フリゼールが持ち込んだギターは、J.W. Black GuitarsのTLタイプのみ。ツアーでの飛行機移動やメンテナンスを考え、丈夫なTLタイプをセレクトしているという。

本器は2020年にJ.W.ブラックがビルのために製作したもの。もともとピックガードはオーソドックスなホワイトのものが取り付けられていたが、本器を入手後、ビルはTK Smithに現在のピックガードをオーダー。ピックガードのデザインは“古いギターからアイディアを拝借した”と語っている。

ピックアップはCallahan Pickupsのジェフ・キャラハンがハンドメイドで製作したものを搭載。フロントはハムバッカー、リアはミニ・ハムバッカーという組み合わせで、おもにビルはフロントを使用している。フロントのハムバッカーはP-90のようなサウンドが出せるようにカスタマイズしてもらっているとのこと。

ブリッジはMasteryのM1で、ビグスビーB5が採用されている。

弦はD’AddarioのECG24 XL Chromes Flat Wound Jazz Light(.011〜.050)というフラットワウンドを使用。

Pick

ピックはApollo PicksのThe Bill Frisell Picks。厚さは1mm。ピックに彫られた絵はビルが描いたもの。

Interview

落としてしまったけど、
チューニングは全然狂っていなかったよ。

今回持ち込んだJ.W. Black GuitarsのTLタイプは、いつ手に入れたものですか?

彼のギターを何本か持っているよ。東京でJ.W. Black Guitarsが売られていた時期があって、名前は忘れちゃったけど、前回来日した時に楽器店に行ったこともあった。

G-CLUB SHIBUYAではないでしょうか?

そうだ! 僕がニューヨークに引っ越したばかりの頃、ロジャー・サドウスキーにギターをリペアしてもらったことがあってね。80年代のことだから、もう40年くらい前になるのかな? その時、J.W.ブラックはSadowsky Guitarsで働いていて、彼が作ったSadowskyのギターを使うことになったんだ。でも、その時には会っていなくてね。

そうなんですか。

その後、何年も経って僕がシアトルに引っ越した時、J.W.ブラックはSadowsky Guitarsを辞めてフェンダーカスタムショップで働いていた。そしてついにそこで友達になったんだけど、危険だったね(笑)。彼はギターのアイディアを思いつくと、“試してみる?”と声をかけてくれたんだ。

それは危険すぎます(笑)。

だから彼が作ったり改造してくれたギターが5~7本くらいある。このギターもそのうちの1つで、コロナのパンデミックが始まったばかりの頃に作って送ってくれたんだ。普通のテレキャスターとはピックアップやブリッジも違うし、ビグスビーも搭載している。

今回はなぜこのギターを持ち込んだのでしょう?

僕の難しいところは、その時の気分でギターを頻繁に変えてしまうことなんだ(笑)。このギターをよく弾いているけど、普通のテレキャスターをプレイすることもあるし、Collingsのギターもすごく気に入っているよ。でも、Collingsはホロウ・ボディで壊れやすいから、旅に持っていくのがちょっと怖くてね。それに比べてこのJ.W. Black Guitarsは、とても素晴らしいギターだ。先日、落としてしまって“やってしまった!”と思ったけど、チューニングは全然狂っていなかったよ。かなり実用的で、弾き心地やサウンドも気に入っている。

リアにはミニ・ハムバッカーが、フロントにはゴールドフォイルのようなピックアップが搭載されていますね。

実はフロント・ピックアップはハムバッカーなんだ。ジェフ・キャラハンという人が作ったものでね。ハムバッカーなんだけど、P-90のようなサウンドにしてもらっているよ。ジェフは今はもうピックアップを作ってないと思うけど、僕は彼のピックアップが大好きなんだ。そしてジェフはこのハムバッカーの裏に“NY”と書いてくれたんだよね。

それはニューヨークという意味でしょうか?

最初は僕もそう思ったけど、彼はニール・ヤングを意識していたんだと思う。このギターは黒くて、リアにファイアーバードみたいなミニ・ハムバッカーも搭載しているからね。実はリア・ピックアップもジェフが作ったものなんだ。

先ほど気づいたのですが、ペグのポストが6弦から1弦にかけてだんだん短くなるように設計されていました。これは弦のテンションを強くするためにあなたがリクエストしたものですか?

そう、そのためのものなんだ。1、2弦にはストリング・ガイドが付いているけど、それも通常より低めになっていて、ナットにかかるテンションが強くなっている。君たちは何でも気づくんだね(笑)。

撮影:小林弘昂

ピックガードの形状は、ウェイロン・ジェニングスのテレキャスターやビンテージのBigsbyのギターを彷彿とさせますね。

以前は普通のテレキャスターみたいな見た目だったけど、ピックガードを交換したんだ。TK Smithを知っているかな? 彼とは友達でね。昔のギターからアイディアを拝借して、クールなものを作ってもらったよ。

弦はD’Addarioのフラットワウンドですか?

うん。ゲージは.011〜.050だったかな? クロームなんとかって呼ばれているやつだ(ECG24 XL Chromes Flat Wound Jazz Light)。

あなたは本器以外にもフェンダーのテレキャスターを愛用しています。TLタイプのどんなところが好きですか?

このギターは本当の意味でのテレキャスターじゃないけど、とにかく全部がシンプルなんだ。ほかのギターから楽に持ち替えられるし、弾き心地もすごく快適で手に馴染んでくる。

僕が初めてエレキ・ギターを手にしたのは14歳くらいで、最初はフェンダーのムスタングを買ったんだ。そのあと当時70ドルで1958年製のエスクワイアを手に入れたんだけど、ずっと持っておくべきだったと後悔しているよ。テレキャスターはとにかくシンプルで、ホームっていうくらい落ち着くね。

ジャズとテレキャスターの相性の良さは感じますか?

もちろん。僕はホロウ・ボディやアーチトップのギターを弾くのが大好きだけど、ツアーでテレキャスターを使っている理由の1つに“実用性”がある。ツアーは飛行機移動があるし、僕にはローディーや荷物を運んでくれるスタッフもいないから、全部自分で持ち運ばなくてはならないんだ。だからギターは1本だけしか持って行けない。もし壊れてもテレキャスターなら簡単に直せるし、ネジを締め直せばいい。これがL-5とかだったら、もしもの時にどうすればいいのかわからないよ。

自分の好きなことに
正直でいるべきだよ。

Kleinのギターは今でも持っていますか?

あれはもうないね。長い間プレイしていたけど、ある時、修理が必要になった。でもスティーヴ・クラインはすでに会社を譲渡していて、別の人に修理をお願いせざるを得なかったんだ。ギターは1年以上預けたままになり、僕はその間にギブソンやテレキャスターみたいなギターを弾き始めてね。Kleinのギターが返ってきた頃にはもう気持ちが冷めてしまって、感覚的にも変でしっくりこなくなっていたんだ。ちょうどその頃が僕がテレキャスターに戻った時期で、たぶん90年代後半のことだったと思う。

話は変わりますが、ギター・マガジンのメインの読者層はロック・ギタリストです。ジャズを始めてみたいという人も多いのですが、最初は何から初めていいかわからないと思うんです。あなたがジャズを始めた頃はどのような練習をしていましたか?

振り返ると、僕には大きな瞬間があった。今でも1日中ずっとウェス・モンゴメリーを聴いている日があるけど、初めて彼の音楽を聴いた時は本当に大きな衝撃だったよ。高校生の頃はブルースやR&Bにハマっていてね。でもある時、ウェス・モンゴメリーを聴いたら頭がブッ飛んでしまった。何が起こっているのかよくわからなくて、あの瞬間に“自分には先生が必要だ”って気づいたんだ。

先生ですか。

“何から始めればいいか?”という質問は、先生がいなかった僕からすると理解できる。それまでの僕は全部自己流でギターを弾いていて、レコードに合わせて弾くか、友達と演奏するしかなかった。でも、“本当に先生を見つけて学ばなきゃ”って思ったんだ。

昔は僕の知らない秘密の情報みたいなものがある気がしたけど、今はネットで何でも調べられるし、何かしらの答えにたどり着けるよね。でも逆に、現代は情報が多すぎるくらいだ。大事なのは、“本当に自分がやりたいことは何なのか”をしっかりと持つことだと思う。あまり手を広げすぎず、まわりにどう思われるかを気にせず、自分が本当に好きなことに忠実でいることが大切じゃないかな。

なりたい自分を見つけることですね。

あとは学んで何かを見つけることだ。僕だってInstagramを見ていると、“この人はこれをやっている。あの人もこんなことをやっている!”と思うよ。そうやって色んなことを追いかけては、“あの人と同じことができない僕はダメなんだ……”って思ったり、“あれができないならこれをやろう”と諦めてしまいたくなるよね。でも、それは危険なことだと思う。人と関わり合うことも大事だけど、もう少し自分だけの時間を持つべきだし、それでいて自分の好きなことに正直でいるべきだよ。

先生といえば、あなたはジム・ホールに師事していました。

ジムとは僕がバークリーに入学する前から面識があって、デンバーでの先生だったデイル・ブルーニングが紹介してくれたんだ。僕はバークリーに通ったけど、バークリーを離れたあとにジムのレッスンを受けに行ったんだよ。ウェス・モンゴメリーと同じように、彼は僕とって大きなヒーローの1人だった。彼は1人で美しいプレイをするだけじゃなく、グループで演奏する時も凄まじかったね。バンドのみんなが何をやっているかをよく聴き、絶妙な瞬間に然るべき音を入れるんだ。本当に信じられなかったよ。