マンドリン&エレキの二刀流!カーヴィン #1-MS|週刊ビザール・ギター マンドリン&エレキの二刀流!カーヴィン #1-MS|週刊ビザール・ギター

マンドリン&エレキの二刀流!
カーヴィン #1-MS|週刊ビザール・ギター

個性的な魅力で多くのギタリストたちを虜にする“ビザール・ギター”を、週イチで1本ずつ紹介していく連載、“週刊ビザール”。今週紹介したいのは、オーディオ機器やアンプで有名なカーヴィンが1950年代末に発表した、マンドリン&ギターのダブルネック・モデル=#1-MS。西海岸の老舗ブランドが歩んだ歴史とともに、この攻めた1本について深堀していこう。

文=編集部 撮影=三島タカユキ 協力/ギター提供=伊藤あしゅら紅丸 デザイン=久米康大

Carvin #1-MS

Carvin/#1-MS

有名オーディオ機器メーカーの第一歩。

現在はアンプやオーディオ機器メーカーとして知られるカーヴィン(Carvin)だが、もとはキーゼル(Kiesel)・ブランドと同じ会社でギターも手がけていた。というのも、カーヴィンの創業者の名前はローウェル・C・キーゼル───キーゼル・ギターの生みの親でもある。そしてカーヴィンという名前は彼の息子であるカーソンとギャヴィンの名前を合わせたものだ。ちなみに、現在のキーゼル・ギターは、カーヴィンのギター&ベース部門が独立した事業で、数年前までは両方のブランドでギター&ベースをリリースしていた。

まずはブランドの歴史だが、始まりは1946年。ローウェルはL.C.キーゼル社を立ち上げ、古いミシンをコイルワインディング・マシーンに改造し、オリジナルのピックアップの製造からスタートした。AC6と呼ばれるこのピックアップは、音質もよく評判が高かった。ハワイアン・ギターの演奏家でもあった彼はすぐに、ベークライト製のラップスティールとアンプを製作し、ラインナップに加えるが、これらには“Kiesel”のブランド名が付けられていた。

1947年になると拠点をカリフォルニア州サンディエゴから同州コビナに移しメール・オーダー式の通信販売に乗り出すが、流通上の問題があったため1949年にブランド名を“Carvin”と改めることになる。

カーヴィンは他社へのピックアップの供給を行なうほかに、1954年から自社でギターを販売を開始する。それはハーモニーやケイの製品に自社製ピックアップを取り付けて販売したもので、エレクトリック・アップライト・ベースやエレクトリック・バイオリンもあった。そして、1955年からはローウィン自身が設計したオリジナル・モデルがラインナップに加わっていく。初期には、ダブルネックでお馴染みの超絶カントリー・ギタリスト、ジョー・メイフィスや、ジョーとの共演でも知られるコリンズ・キッズのラリー・コリンズなどとエンドース契約を交わした。彼らはのちにモズライトのギターを弾くことになるが、それらに搭載されていたのもカーヴィン製ピックアップだった。

1950年代の初頭にポール・ビグスビーがグラディ・マーティンのために製作したのがマンドリンとギターのダブルネック。当時はウエスタン・スウィングのバンドなどでエレキ・マンドリンの需要が高く、リード・ギタリストが掛け持ちするために生み出されたものだが、そのルックスが(見栄えの派手さもあって)テレビ放送などで広く知られたこともあって、各メーカーがこぞってダブルネックを発表する。ジミー・ブライアントの愛用で知られるStratosphireやギブソンのEMS-1235(EDS-1275の原型)。ジョー・メイフィスのモズライトDoubleneckやColin Kids modelなどだ。

今回紹介する#1-MSも、そんな流れの中で発表されたマンドリンとギターのダブルネックで、カタログに掲載されたのは1959年のこと。当時の価格は229.90ドル。モデル名のMSはM=マンドリン、S=スパニッシュという組み合わせを示しており、同時に#4-BSというB=ベース&S=スパニッシュのダブルネックもリリースされたが、受注生産に近いものだったようで、生産台数は少ない。

カーヴィンのSGBモデルをベースにしたメイプル・ボディは、他社のダブルネックに比べ、ボディが非常にコンパクトにデザインされており、軽量なこととあわせてプレイアビリティに優れている(もちろん持ち運びもラク)。マンドリン・サイドは下側だけが逆Rのバイオリン・シェイプになっており、このあたりはビグスビーのGrady Martin Modelを彷彿させる。

ピックアップはP-90スタイルのオリジナル・ピックアップ(AC-6)がギター側に2基、マンドリン側に1基搭載されている。多くのダブルネック・ギターが、弾くネックによって出力を切り替えるスイッチとピックアップ・セレクターが分かれているが、本モデルは1つのピックアップ・セレクターでギター側のリア/フロント/マンドリン側、と選択するシンプルな仕様が特徴。音は同じピックアップを使っているジョー・メイフィスのやコリン・キッズの初期の録音で聞かれるものと同様の、トワンギーでありながら甘く太い一面も持ち合わせていて、使い勝手がよさそうだ。

写真の個体はナチュラル・フィニッシュの3ノブ仕様のため、1959〜1961年製の貴重な初期型。コントロールの構成はネック側からボリューム、トレブル、ベースで、1961年のカタログ掲載モデルからは、各ネックに対応するボリューム×2、トーン×2という内容に変更される。

コントロール・パネル
初期型のみに見られる3ノブ仕様。

ちなみにその後の仕様変遷を簡単にまとめると、1963年からはマスター・ボリューム&トーンと各ピックアップのオン/オフ・スイッチが付き、全ピックアップが同時使用可能に。1966年にはサンバースト・フィニッシュが標準仕様となり、1968年になるとアーチトップ・モデルを流用したであろうボディに変更され、ほぼ並行だった2つのネックに角度がつく。その後、1972年のカタログから、マンドリンを有するダブルネックは姿を消すことになった。

ピックアップ・メーカーから始まったカーヴィンらしく、発売当初からピックアップのポールピースが調整可能なものとそうでないモデルがグレード違いでラインナップされていたのは興味深い。

この#1-MSは、数多くのビザールなモデルの中ではわりと息の長いモデル。だが、そのほとんどが通信販売で、かつマンドリン&ギターという特殊なモデルのため、かなり生産数/現存数は限られている。市場で見られるだけでもラッキーなので、そんな機会があれば試奏のチャンスを逃さないように。