Interview|マーク・リーボウ鬼才の音楽脳を知る。 Interview|マーク・リーボウ鬼才の音楽脳を知る。

Interview|マーク・リーボウ
鬼才の音楽脳を知る。

僕は“知ることの大切さ”を信じているよ。

「The Long Goodbye」や「Maple Leaf Rage」のソロのように、あなたが弾く感情的なサウンドはとても鋭く耳に刺さります。インプロヴィゼーションで弾いていると思いますが、メンタル面や奏法面など、どれくらいまでイメージを固めて弾き始めるのでしょうか? 

 僕はそういった質問をされるのが大好きでね。こういうのってどの音をプレイするかが問題ではないんだ。僕はロックの伝統的な手法、すなわちリックをプレイするというやり方と、アルバート・アイラーがやってきたようなことをミックスさせている。アフリカ系の人たちがやってきたブラック・ミュージックの重要な本質って、単に最終的なサウンドじゃなくて、“そのサウンドが作られていったプロセスでどんな意図がなされたのか”というところにある。それはすなわち、自由にインプロヴァイズする境地が重要だってことなんだ。君が指摘してくれたパートっていうのはそれぞれ別のものではあるけど、インプロヴァイズするための大きなスペースが与えられていた。特に「The Long Goodbye」の長いインプロヴァイズのセクションは、僕がエモーショナルな領域に入り込んでフリーにプレイすることを求め、その結果ハーモニックな観点でも自由にプレイできているんだ。

「Bertha The Cool」でのジャジィなアプローチも印象的です。

 僕は60年代のファンキーなジャズに対して憧れがあるんだよ。僕がニュージャージー州ニューアークの近くで育ったっていうのもあるだろう。ラジオからはグラント・グリーン、ウェス・モンゴメリー、もうちょっとあとになってからジョージ・ベンソンといった人たちが常に聴こえていて、そういった人たちに対する憧れがあったんだ。

ケニー・バレルのようなブルージィさとのバランス感も感じましたが、あなた特有のドライブ感がとてもクールです。この曲はキーAとEのアプローチですが、インプロヴィゼーション時はどのようなことを考えているのでしょうか?

 むしろ何も考えないように気をつけていたかな。もちろん僕はどんなキーでプレイしているのかを常に把握している。そもそも僕はブルースをベースとしたプレイヤーで、そこから始まっているからね。それに時には違うキーでプレイすることでテンションを作り出している。それはずっと同じキーでプレイし続けると飽きてしまうからということもあるね。

あなたのギター・スタイルの中でトラディショナルなジャズやブルースというのはどのような存在ですか?

 インプロヴァイズする時というのは、記憶に刻み込まれてないものをプレイすることはないと思うんだ。例えば生ゴミをゴミ箱に放り込んでおいて何日かあとに見てみたら、最初に放り込んだ時と状態は変わっているものだろう? 僕にとってもインプロヴァイズするっていうのはそういったところに近いものがあって、頭の中に捨ててあった生ゴミを拾ってみるんだ。時にはそれが僕の記憶としてはかなり古いものだったりして、当時インプットされた時とは違う形になって引き出されたりする。

様々なジャンルのアーティストと共演し、バックグラウンドが幅広いあなたは、その記憶の引き出しの数がものすごく多いのだと感じます。ギタリストにとって、幅広いインプットを持つことの重要性についてはどのように考えますか?

 卓越したギタリストになる方法は1つだけではないと思うんだ。著名なプレイヤーたちの多くはバンドでプレイして有名になり、その結果卓越したプレイヤーになっている。だから多くのギタリストが実は1つのことをうまくやっている気がするよ。たまたま僕は多くのことに興味があって、それらすべてのエキスパートでもないけれど、特定の雰囲気を作るためにどうやってジェスチャーを作り出せばいいのかはわかっている。それができるようになるために、僕はたくさんの音楽を聴いて様々な音楽をプレイしてきた。現在の音楽産業においては、どうしたら卓越したプレイヤーになれるのかわからないけれど、僕としては常に音楽的に精通していることは重要だと思っているよ。

具体的にどういったことを知る必要があると思いますか?

 僕がニューヨークでキャリアを始めた時は、自分のことをギタリストだと言えるようになるためにはチャック・ベリーの音楽をよく知らないとダメだろうと思ったし、今ならそこにシスター・ロゼッタ・サープも加えておきたいところだ。あとは、ギタリストに限らず、ジャズに興味を持つ中でたくさんのサックス・プレイヤーたちにも注目してきた。それに自らをギタリストと呼ぶのならばデレク・ベイリーやフレッド・フリスが誰なのかを知るべきだ。アート・リンゼイやアイク・ターナーはもちろん、ヒューバート・サムリン、B.B.キングといった人たちもいて、ギターという幅広い言語が作られてきたわけで、少なくともそれらを知って然るべきだよね。もし嫌なら無理してやる必要はないけれど、僕は“知ることの大切さ”を信じているよ。

アメリカにいると西海岸と東海岸で違いを感じることがあるんだ。

「They Met In The Middle」はフリージャズ的なアプローチですが、すごくヒップホップ的でもあります。ヒップホップとあなたのギターはすごく相性が良いと感じるのですが、ご自身としてはどうでしょう?

 僕はヒップホップが大好きだし、現代の最もグレイトでポピュラーなブラック・ミュージックの王道のフォーマットだ。もはやこれは1つの伝統だと思って聴いているところもあるし、僕はこれからもヒップホップのレコードでもっとプレイしてみたいと思うよ。ヒップホップのレコードのプロデューサーがこのインタビューを読んでいたら、ぜひ僕に電話してほしいね(笑)。

それはとても楽しみです(笑)。ギタリストとしてはサウンドメイクや音運びで注目されることも多いですが、「They Met In The Middle」でのゆったりしたギターは、早めのBPMとのコントラストもあり、全体のグルーヴ感をタイトにしていると感じます。アンサンブル全体のグルーヴ感において、ギタリストがリズム面で意識すべきことは何だと思いますか?

 どの音をプレイするかということよりも、グルーヴは最も大切なことだ。グルーヴを掴むことって本当に難しくて、僕はまったく完璧からは程遠いプレイをしているけれど、常にトライはしている。あとグルーヴってメトロノームのように完璧にプレイしさえすれば良いというものではなくて、一緒にプレイするドラマーやベーシストと“8分音符をプレイする感覚をマッチさせること”が重要だ。だから僕は何よりもリズムを大切にしているよ。あと、アメリカにいると西海岸と東海岸で違いを感じることがあるんだ。

その違いは気になります。

 西海岸の人たちってスタジオワークが多くて、スタジオではリズム的にパーフェクトなものをプレイすることを重要視することがある。だからジェイ・ベルローズのような西海岸のドラマーと仕事をする時は、“天才ってこういう人のことを言うんだな”と思わされるよ。その一方で東海岸のプレイヤーたちはハーモニックなことや、何か発明的なアイディアといったものを重視する傾向がある。それに加えて僕の場合、“どれだけロックしているか”ということも重要になるんだ。

なるほど、興味深いです。さて、前作『YRU Still Here?』がリリースした際には日本にも演奏しにきてくれましたね。今はそれが簡単には願えない状況になってしまい残念です。『HOPE』の演奏を目の前で観ることを楽しみにしている日本のギター・ファンにメッセージをお願いできますか?

 「Hold On, I’m Comin’」(待ってて、行くからね)ってことだね(笑)。この曲を君は知っているかな?

ソウル、R&Bの名曲ですね。

 サム&デイヴの曲名だよ。僕は必ずそっちに行くから、どこにも行かないでくれ。行けるとなったらすぐにでも行くつもりだからさ。

作品データ

『HOPE』
マーク・リーボウのセラミック・ドッグ

P-VINE/PCD-25327/2021年6月25日リリース

―Track List―

01. B-Flat Ontology
02. Nickelodeon
03. Wanna
04. The Activist
05. Bertha The Cool
06. They Met In The Middle
07. The Long Goodbye
08. Maple Leaf Rage
09. Wear Your Love Like Heaven

―Guitarist―

マーク・リーボウ