Interview|ファンタスティック・ネグリート【前編】ブルース最前線の男が語る、ギターの可能性 Interview|ファンタスティック・ネグリート【前編】ブルース最前線の男が語る、ギターの可能性

Interview|ファンタスティック・ネグリート【前編】
ブルース最前線の男が語る、ギターの可能性

イグザヴィア名義でR&Bシンガーとして活動していた90年代、交通事故で瀕死の重傷を負い音楽から離れてしまう。しかし、2014年にファンタスティック・ネグリートとしてシーンにカムバック。ブルースをベースに自由な発想であらゆる音楽的な要素をミックスし、1st作、2nd作が連続でグラミー賞を獲得した。最新作『Have You Lost Your Mind Yet?』も、イグザヴィア時代からの盟友=マサ小浜が全編にわたってギターを弾いており、文句なしの傑作に仕上がっている。今回は新作のリリースに合わせインタビューを敢行。まず前編として、彼のブルース観やギターとの向き合い方、愛用機材について話を聞いた。

取材/翻訳=トミー・モーリー 質問作成=福崎敬太


ギターという楽器によって
僕の人生は大きく変わった。

本当は明後日には日本のフジロックで演奏していたはずでしたが、非常に残念です(取材は2020年8月19日)。楽しみにしていた日本のファンにメッセージをいただけますか?

コンニチワ、ニホンジン、トモダチだね! 僕は6つの大陸でプレイしてきたけど、君たちの食事は最高だ。いつでもプレイしに行きたいし、来年こそはお目にかかりたい。日本のオーディエンスはみんな誠実だよ!

ありがとうございます! さて、現在COVID-19の感染拡大により大変な状況になっていますが、あなたはどのように過ごしていますか?

ずっと家にいるけど、このパンデミックが始まってから「Chocolate Samurai」のビデオの製作を始めたんだ。世界中からビデオを送ってもらって、それをつなげてYouTubeにアップしたね。僕は最悪な状況でこそ何かにチャレンジして、アメイジングなものを生み出すということを常に目指している。このミュージック・ビデオはまさしくその一環だったんだよ。

今回初めてギター・マガジンに登場するので、まずあなたがギターを始めた経緯を教えてもらえますか?

5年くらい前に音楽活動を再開しようと決めて、最初は路上で演奏することを目指したんだ。その頃は数えるくらいしかコードが弾けなくて、しかもキーはEじゃないとプレイできなかった(笑)。ギターは持ち歩くこともできるし、時間や場所を問わずどこでもプレイできてしまう素晴らしい楽器だよね。この楽器によって僕の人生は大きく変わって、ブルースに根ざしたブラック・ルーツ音楽に本格的に取り組むようになったんだ。

ブルースとはさまざまな音楽ジャンルを吸収しながらこれまで生き続けてきましたが、あなたの最新作『Have You Lost Your Mind Yet?』(2020年)やこれまでの作品を聴くと、それを現代で体現しているような印象を受けます。

ブルースだってもっと遡っていくと、アフリカで何千年も前に生まれたものにルーツがあるわけで。例えばマリの現代音楽にだってそのニュアンスは残っている。30年代の黒人たちの魂の叫びがブルースの源として注目されがちだけど、もっと古い時代からずっと続いていきた歴史があるんだよ。

レコードがない古代の音楽からつながっているという認識なんですね。

そして、アメリカでは虐げられてきた人々の苦しみが込められた。つまりそれは、奴隷として生きてきた人たちの苦しみなんだ。人間としての尊厳を求める願いや歴史がブルースにはあって、ヒップホップやソウル、ロックンロール、ジャズ、これらすべての根幹にはブルースがある。そしてEDMやエレクトロニックといった現代の音楽にだってブルースは存在している。だから、ブルースにそれらの要素が入り込むことに、なんの違和感もないよね。それだけこの音楽は強い存在だということさ。12小節のコード進行だけで100年以上ずっとブルースが鳴り続けてきたのは、そこに無限の可能性が広がっているからなんだよ。

あなたのブルースにはゴスペルやソウル、ファンクなどクラシカルな要素に加え、ヒップホップやEDM的なニュアンスも巧みに織り込まれています。こういったさまざまな時代のインスピレーションはどのように得ているのでしょうか?

良い音楽が“いつの時代の音楽か”なんて考えたことがないね。人間は誰しも生きていれば何かを感じるもので、“ただ存在しているだけ”なんて難しいんだ。つまり、僕らはインスピレーション溢れるものに、常に囲まれている。特にアメリカで生きていたらインスパイアされないことなんてないよ。例えば、現代のアーティストならケンドリック・ラマーを聴いてごらんよ。いつの時代であるかなんて無関係に素晴らしい。1枚しかアルバムを作らなかったレヴェランド・ユタ・スミス(Reverend Utah Smith)というほぼ無名のギタリストは本当にすさまじいプレイヤーで、彼のサウンドには人間の尊厳を感じる。それに、ライトニング・ホプキンスやマディー・ウォーターズなんて今聴いても心を動かされるだろう? 彼らが経験してきた苦しみやそこから抱く希望といったもの、それらがしっかりと見える音楽は本物だし、常に僕の音楽を作る原動力となっているよ。

ギターでクリエイティブのものができている。
うれしくてしょうがないよ。

さて、あなたのエピフォンMasterbuilt AJ-45MEがロックンロールの殿堂に展示されたそうですね。

エピフォンのMasterbuilt AJ-45ME。ロックンロールの殿堂で、トム・モレロのシャツと並べて展示されている。(本人提供)

こういった賞をもらえるっていうのはうれしいことでもあるけど、すぐ忘れちゃうんだ。グラミー賞も受賞してトロフィーをもらったけど、そんなの箱に入れてしまって存在は忘れちゃっていたりする。ロックの殿堂も素晴らしいことだけど、クリエイティブで革新的なことをし続けることのほうが重要だ。ただ今回の展示について光栄なことといえば、“人権を得るための戦いが称された”ということかな。僕は家族や友人が10代の頃に何人も殺されてしまった。そういった悲しみの体験を表現し続けたことがようやくみんなに届いたってことだよね。僕の音楽活動が人々のためになったということはうれしく思うし、これからも人々を支えるような音楽活動していきたいと思っている。

あなたが持っているギターについても聞かせて下さい。まず、ギブソンのES-Les Paul Goldtopを使っていますよね?

このギターは何年か前に手に入れたもので、『Please Don’t Be Dead』(2018)のレコーディングとツアーで使った。エレキ・ギターなのにアコースティックな響きがするし、それでいてエッジが効いていて歪まなくてもアグレッシブなサウンドなんだ。ホロウ・ボディであることがとてもポイントとなっているね。僕自身のエモーションを最短距離で表現できるんだ。最新作のレコーディングでも、マサ(小浜/g)と僕はこのギターを使ってプレイしたよ。

Chapman Guitarsはオリジナル・モデルですか? fホールにリバース・ヘッド、P-90など、おもしろい仕様ですね。

イギリスのギタリスト、ロブ・チャップマンが設立したチャップマン・ギターズ。本器はファンタスティック・ネグリートのオリジナル・モデル。(本人提供)

ルックスだけじゃなくてサウンドも申し分ないよ。僕はとってもヘンなアーティストだから、ロブ・チャップマン(Chapman Guitars創設者)に“誰も見たことがないようなギターにしてほしい”とお願いしたんだ。使っている木材やピックアップのメーカーなんて細かいところはまったく気にしてないけどね。そもそもわからないし(笑)。去年はほぼこの一本だけでツアーをプレイして周ったよ。で、これをマサにもプレイしてもらいたかったから、彼には“レコーディングにはギターもペダルも持って来ちゃダメだ”と伝えていた。彼ならどんなギターであれ、何でもプレイできるのはそもそもわかっていたからね。

あなたがギターや機材を選ぶ時、どのようなことを考えて選んでいますか?

ギターやアンプからは“キャラクターとヴァイブ”を求めていて、今回から導入したオレンジのアンプ(TremLord 30)は優れたキャラクターを持っている。昔のブルースマンたちはみんなペダルを使わず、ギターを直接アンプにつないでいただろう? 僕にとっては今でもそれらが最高なサウンドで、真似したいと常に思っているんだ。

なぜあなたはギターを弾くのでしょうか?

かつて僕は3週間昏睡するような大怪我をしたことがあって右手はほとんど使えない。でも、この困難な状況から美しいものを作り出すことに興味があって、だからこそ僕はギターを弾き続けているんだ。右手でしっかり握ることができないし、手首もあまり曲がらないからピックは使わないけど、右手で直接弦を触るようなプレイがしたいから別にそれでも問題ない。右手は3割ぐらいしか機能していないけど、ギターを使って十分クリエイティブのものができているから、うれしくてしょうがないよ。

インタビュー後編>ブルース・ギターを先鋭的に響かせた新作を語る

最新作

『Have You Lost Your Mind Yet?』
Fantastic Negrito

BigNothing/Ultra-Vybe/OTCD-6816/2020年8月14日リリース

―Track List―

01.Chocolate Samurai
02.I’m So Happy I Cry (feat. Tank)
03.How Long?
04.Shigamabu Blues
05.Searching For Captain Save A Hoe (feat. E-40)
06.Your Sex Is Overrated (feat. Masa Kohama)
07.These Are My Friends
08.All Up In My Space
09.Justice In America
10.King Frustration
11.Platypus Dipster

―Guitarists―

ファンタスティック・ネグリート、マサ小浜