Interview|ファンタスティック・ネグリート【後編】ブルース・ギターを先鋭的に響かせた新作を語る Interview|ファンタスティック・ネグリート【後編】ブルース・ギターを先鋭的に響かせた新作を語る

Interview|ファンタスティック・ネグリート【後編】
ブルース・ギターを先鋭的に響かせた新作を語る

前作、前々作と連続でグラミー賞を獲得したファンタスティック・ネグリート。最新作『Have You Lost Your Mind Yet?』も、ファンク、ソウル、ヒップホップなどをブルースに溶け込ませた、コンテンポラリーな仕上がりの傑作だ。インタビュー後編では、今作でも素晴らしい演奏で作品を彩った盟友=マサ小浜の話や、サウンドメイク、アンサンブルの考え方など、ざっくばらんに語ってもらった。

取材/翻訳=トミー・モーリー 質問作成=福崎敬太


僕は“エモーション”に飢えていて、
スライドはそれを表現してくれるんだ。

最新作『Have You Lost Your Mind Yet?』は、昨年末に録音されたそうですね。グラミーを獲得した前作、前々作はマサ小浜(g)さんは遠隔の宅録で参加することが多く、逆に今回はタイミングよく一緒のスタジオで録られたようですが、今回はなぜスタジオで集まってのレコーディングになったのですか?

僕はアーティストだけじゃなくプロデューサーでもあって、常に“同じことをくり返したくない”と思っているんだ。それに、あまりにもヒットしてしまった作品の次となると、そりゃ違う作り方をしたくなるものだろ? だからみんなに集まってもらったんだよ。それでマサにも来てもらったし、ベーシストのコーネリアス・ミムスも普段はリモートで録音してもらうけど、もちろん来てもらった。

同じスタジオに集まっての制作で、何か違いは生まれましたか?

単に前回と違う作り方をしたかっただけじゃなく、頭の中で明確に思い描いていた音には集まることが必要だったんだよ。僕らは高度に情報化された社会に生きている一方で、メンタルヘルスに問題を抱えて治療している人々もいる。それでいてアメリカでは今でも発砲事件で亡くなる人がいて、警察の暴力沙汰も話題になっている。マサたちに現場にいてもらいたかったのは、人間が作り出すフィーリングでこの状況を表現したかったからなんだ。それは生の楽器がその場にあってこそ生まれる。それに、マサがプレイしている隣で、僕も今までにないくらいギターをプレイしているんだけど、それはマサが“君のプレイも残すべきだ”と言ってくれたからなんだ。そうやって、みんなで話をしながら作ったことによって、このサウンドが生まれたんだよ。

先日マサ小浜さんにインタビューをした時、あなたの特徴的なスタイルのひとつである“ヒップホップ・ビートとアコギのスライド”という組み合わせは、“Me and This Japanese Guy”というユニットですでにできあがっていたと聞きました。

20年も前にやったこのプロジェクトで、僕はR&Bやさまざまな音楽をひたすらプレイしていた。スライド・ギターやブルースをモダンなビートに合わせるのは、この頃から好きだったんだよ。そして今、ファンタスティック・ネグリートではコンセプトを大事にしているけれど、それよりもまず曲が良いことを大切にしている。そこに対してハンドクラップなどで人間らしいヴァイブを加えているんだ。そして、モダンなサウンドがあふれる現代において、僕は特にエモーションに飢えていて、スライドはそれを表現してくれるアメイジングな方法なんだよ。

僕のハーモニーのギターには
“オニ”が住んでいるんだよ。

最新作収録の「Your Sex Is Overrated」は“20年前のマサ小浜”をフィーチャーしているそうですね(注:20年前のライブ音源のソロをミックスしている)。とてもエモーショナルかつ感動的なソロで、楽曲にすごく自然に溶け込んでいます。このアイディアはどのように生まれたんですか?

グレイトなものであれば、いつプレイしたかなんて関係ないということさ。当時からこのギター・ソロは、何か意味のあるものをたくさん伝えてくれていると感じていた。マサのプレイからは、異国で日本人として強烈なキャラクターを放っている空気がいつ聴いても感じ取れるんだよ。彼は“録音し直したい”と言ったけど、僕には信じられなかった。サウンド的には彼にとってベストじゃないかもしれないけど、そんなことは関係ない。生々しさがあって、魂がこもっている。ちなみに、この曲はブリタニー・ハワードとデュエットをしたかったから、あとになってヴァースを作り直しているんだ。

「Chocolate Samurai」のリフのような楽曲のイメージにつながる存在感の強いリフはどのように生まれるのですか?

スティーヴィー・ワンダーをたくさん聴いていたからじゃないかな(笑)。特にシンコペーションしているところとかね。この頃、スティーヴィー・ワンダーやスライ&ザ・ファミリー・ストーンをよく聴いていたから、アルバム全体がとてもファンキーになったんだ(笑)。で、この曲は僕が考えるブルースでありながらも、その枠組みをさらに超えたものを目指したんだよ。リフとしてはとてもヘンなプレイをしていて、アフリカンなリズムに基づいているから、かなり難しいんだ。でも、この曲をレコーディングした時、まだ誰もしっかりと曲を聴いていないにも関わらずワンテイクで録音したんだよ。素晴らしいミュージシャンシップの賜物さ!

この曲のソロはアコースティック・ギターのスライドを歪ませているのですか?

左からギブソンES-Les Paul、ハーモニーH1215、エピフォンJ-45。(本人提供)

そう、マサによる秀逸なソロだよね。これはハーモニーの古いギターで弾いているんだ(写真中央/Harmony H1215)。僕はこの美しいギターをとても気に入っていて、どことなく僕と似たようなものを感じているんだ。僕は昔レコード会社から突然“用済みだ!”と切られてしまったし、事故によって手が不自由になってしまってかつてと同じように楽器をプレイできなくなってしまった。このギターは楽器屋でジャンク品として積まれ、処分されるのを待っていたんだ。それを目にした時に僕の状況と似たようなものを感じて、“このギターを売ってもらえないか?”と店員に相談してみた。すると“私はあなたの音楽のファンだし、むしろタダであげますよ”と言ってくれてね(笑)。そして、このギターを直して弾いてみたら、とても美しいマジックが潜んでいた。そう、これはヴードゥーの力、まさしく“オニ”が住んでいるんだよ。

日本の“鬼”ですか?

そのとおり、鬼だよ! マサにも、“このギターにはマジックが潜んでいるから、これでスライドをプレイしなきゃダメだ!”と伝えたんだ。このアルバムで聴けるスライド・ギターのほとんどがこのギターによるものだよ。ほかにも、「King Frustration」ではグロッケンシュピールみたいなサウンドがあるけど、実はこのギターでプレイしている。それだけこのギターにはマジックがあるってことだね。

スライド・ギターのどのようなところが好きなんですか?

無限の音が詰まっていて、クリエイティブになんでもプレイできてしまうところだね。愛を表現するにはもってこいのスタイルだ。それでいてとても破壊的にもなれるし、これってまさしくエネルギーに溢れたサウンドてことなんだよ。

生々しいものにこそ、
真実が宿っている。

手にしているのはチャップマン・ギターズ製のオリジナル・モデル。(Photo by Ian Gavan/Getty Images)

あなたの楽曲はアレンジが非常に複雑ですが、アンサンブルについてはどのような流れで考えていますか?

何事にもルールがあるものだけど、可能な限りそれらを壊して最高なサウンドを目指したいと思っている。答えになっているかどうかわからないけど、どうしたら革新的でおもしろいことができるのかを常に考えているんだ。それが僕の自由なプロダクションにつながっているんだと思う。そういう意味で、70年代はまさしく革新的な時代だったから、その頃の音楽が大好きなんだ。デジタルになって以降、みんな同じようなビートばかりでとてもつまらないよね。フィーリングが溢れるものにしたいと思ってきたし、次のアルバムなんてもっとフィーリングをプッシュしたものになるはずだよ。

音楽の中でギターを活かすためには、どのようなことに注意すれば良いのでしょう?

大切なのは真実に目を向けることだ。どんなテクノロジーやトリックで加工しようとも変わらないことがある。それが真実なんだよ。例えば、「Your Sex Is Overrated」のギター・ソロがアメイジングなのは、もともとプレイされたものが素晴らしいテイクだったからだ。寿司くらいに生々しいものにこそ、真実が宿っている。本物であることを常に大切にしておけば、自由でオープンで、こんなにも素晴らしいものにもなれるということを忘れてはならないね。そして、今から弾こうとする音が君の人生最後の音かもしれないという気持ちでプレイするんだ。そうすれば、自然と意味のある音が出てくるんじゃないかな。

前作など、マサ小浜さんが自宅で録音した音源から、あなたが音色などをエディットしてから作品になったものも多いそうですね。ギターの音色を作る際、どのようなことを考えていますか?

最初の2枚のアルバムはマサをひどく怒らせたかもしれない。あまりにも加工しまくったからね(笑)。僕がサウンド面で常に考えているのは、“最短距離で感動を作り出すこと”さ。何かを必要以上に詰め込んだり、無駄に装飾しすぎるというのは、結局台なしにすることでもある。つまり、“More is less”ということだね。

機材面ではどうですか?

アンプはオレンジのトレムロードを使っていて、エフェクト・ペダルはまったく使わずにプレイしている。使ってもスプリング・リバーブを、胡椒を一振りくらいの加減でしか使っていないんだ。マサの場合スプリング・リバーブも使うこともあるし、プラグインのプリアンプをフェンダーのスプリング・リバーブの設定にして少しツマミをいじったりもしている。ただ、ハーモニーのギターはあまりにも生々しい本物のサウンドだから、録音時はプラグインを一切加えないね。強烈な音にさせるために何本も重ねたりしていて、同じ音程でも押さえるポジションを変えたりしているよ。

最後に、最新作のギター的な魅力について、読者にメッセージをいただけますか?

「How Long?」では僕がハーモニーのギターを使ってパッシング・ノートを絡めたプレイをしていて、そこには胸を突くようなフィーリングがある。あと「Chocolate Samurai」のリフをしっかりとプレイできるギタリストがどれくらいいるのか、興味があるね(笑)。本当に小さなことだけど奇妙なフィーリングがあって、これはなかなか再現できるものじゃないと思う。もしこの曲のリフをしっかりとしたフィーリングでコピー出来る人がいたら10ドルくれてやるね!

マサ小浜 特別インタビュー/近日公開予定!

最新作

『Have You Lost Your Mind Yet?』
Fantastic Negrito

BigNothing/Ultra-Vybe/OTCD-6816/2020年8月14日リリース

―Track List―

01.Chocolate Samurai
02.I’m So Happy I Cry (feat. Tank)
03.How Long?
04.Shigamabu Blues
05.Searching For Captain Save A Hoe (feat. E-40)
06.Your Sex Is Overrated (feat. Masa Kohama)
07.These Are My Friends
08.All Up In My Space
09.Justice In America
10.King Frustration
11.Platypus Dipster

―Guitarists―

ファンタスティック・ネグリート、マサ小浜