達郎を支えたギタリスト、3人目は椎名和夫だ。椎名といえば、「BOMBER」や「SILENT SCREAMER」でのジェット・サウンドをかけたギター・ソロから「LOVELAND, ISLAND」などでの単音バッキングといった職人的なプレイまで、幅広い演奏で達郎を支えた。達郎作品における椎名の存在感を考察しよう。
文=小川真一
最強の達郎バンドの
一員として
椎名和夫といえば、あのジェット・フェイザーのかかった透明感に溢れるギター・ソロを思い浮かべる。79年の「BOMBER」でのプレイがその典型で、まるで青空に弧を描いていく飛行機雲のようなプレイだ。達郎サウンドの気持ち良さの何パーセントは、椎名和夫のギター・サウンドによってできているといってもいいかもしれない。
その効力は、89年のライブ盤『JOY』でも存分に発揮されていて、左右のチャンネルから、山下達郎と椎名和夫のギターが攻めまくってくる。その複雑なコンビネーションが実に痛快だ。中でも「メリー・ゴー・ラウンド」でのプレイはすさまじく、これほどまでメロディックで心を震わせるコード・カッティングがほかにあるだろうかと思わせるほどの熱演。1曲分コピーしたら、腕はしびれ腰が抜けてしまうだろう。
名編曲家としての
一面も!
1952年生まれで東京都出身。ムーンライダーズの前身となる、はちみつぱいに後期メンバーとして参加。そのままムーンライダーズの初代ギタリストになるが、早くからスティーリー・ダン的なサウンド・アプローチを見せていた。その後はスタジオ・ギタリスト、アレンジャーとして大活躍し、RCサクセション「雨あがりの夜空に」、甲斐バンド「破れたハートを売り物に」、中森明菜「DESIRE -情熱-」などの編曲に関わっている。スタジオ・ワークとしては、山下達郎が参加したアルバムでデビューしたラッキー・ガール=池田典代や、シティ・ポップの名盤として高評価を浴びる間宮貴子のアルバムなどで、小気味のいい演奏を聴かせている。この時期からは、デヴィッド・T.ウォーカーやマイケル・ランドウなどの奏法も身につけている。
プレイヤーとして最もアクティブに活動したのは、ドラムスの青山純、ベースの伊藤広規が在籍していた時代の山下達郎バンドになるだろう。80年の『RIDE ON TIME』収録の「DAYDREAM」にしても、達郎と椎名和夫のギターの配分が、実に綿密に計算されている。カッティングのアクセントやボイシングなど、実にデリケートなバランスで配置されているのがよくわかる。この濃厚なサウンドメイキングこそが、達郎サウンドを、さらに言えばシティ・ポップの基を築きあげていった。それを支えたのが、椎名和夫のギターであるのだ。
椎名和夫が参加したヤマタツ作品
『JOY』 山下達郎
ワーナー/WPCV-10024-5
『GO AHEAD!』 山下達郎
RCA/BVCR-17015
『FOR YOU』 山下達郎
RCA/BVCR-17018