文=山本彦太郎
対峙し融合する
メタルとオーケストラ
1999年発表の『S&M』の再来となる、サンフランシスコ交響楽団との共演ライブ。昨年9月に行なわれた公演を収録した2枚組だが、前作から20周年という節目、サンフランシスコに新たに建設されたアリーナ=チェイス・センターのこけら落としという発端以上に、ライブ活動が軒並み中止されている現在、ファンにとってもうれしいプレゼントとなった。
やはり気になるのは初出の曲だが、DISC2の⑥が『セイント・アンガー』、DISC1の④とDISC2の⑤が『デス・マグネティック』、DISC1の⑥⑦⑩が『ハードワイアード…トゥ・セルフディストラクト』からとなっている。
中でも印象的だったのは『ハードワイアード〜』収録の3曲で、その80年代的、クラシック・メタル的なストレートな作風とオーケストラとのマッチングの良さは抜群。メタリカの美意識のルーツは、やはりヨーロッパのロックにあるのだなあと改めて感じた次第だ。
もうひとつファンにはうれしい選曲となったのが、デビュー・アルバム『キル・エム・オール』収録曲であるDISC2の⑦。原曲ではクリフ・バートンの強烈なベース・ソロが刺激的だったが、本作ではサンフランシスコ交響楽団のコントラバス奏者であるスコット・ピンゲルが、エフェクターも駆使して、それに匹敵するパフォーマンスを披露している。この擦弦楽器ならではのヒステリックな音色と表現、重厚な低音、滑らかなアルペジオは、原曲へのリスペクトと異種格闘という本作の主題を見事に表しており、本作のハイライトと言えるだろう。
前作との比較という点で言えば、そもそもの発端である指揮者マイケル・ケイメンが亡くなったため、同交響楽団の指揮者であるエドウィン・アウトウォーター、同音楽監督マイケル・ティルソン・トーマスが中心となった新解釈もポイントとなる。
前作収録曲でも、DISC2の⑨⑩⑪などのアプローチの違いは顕著で、特に前作ではジェイムズ・ヘットフィールドのアコギ弾き語り色を押し出した⑪の、本作での彩りの違いなどは興味深い。メタリカ楽曲にどうオーケストラを乗せるかを志向したケイメンと、オーケストラでどう彩るかを志向した本作との違いという感じだろうか。
また、DISC2の②④はクラシック楽曲からの選曲だが、打楽器が主張する②、カーク・ハメットのワウ・リフもハマった④など、なんともメタリカ的。クラシック界からのメタルへの返答として非常に興味深い演奏であり、本作の意義を一段高めていると思う。
作品データ
『S&M2』
メタリカ&サンフランシスコ交響楽団
ユニバーサル/UICY-15877〜8/2020年8月28日リリース
―Track List―
【DISC1】
①ジ・エクスタシー・オブ・ゴールド
②ザ・コール·オブ・クトゥルー
③フォー・フーム・ザ・ベル・トールズ
④ザ・デイ・ザット・ネヴァー・カムズ
⑤ザ・メモリー・リメインズ
⑥コンフュージョン
⑦モス・イントゥ・フレーム
⑧ザ・アウトロー・トーン
⑨ノー・リーフ・クローヴァー
⑩ヘイロー・オン・ファイアー
【DISC2】
①曲紹介「スキタイ組曲」
②スキタイ組曲(アラとロリー)作品20 第2曲:邪教の神、悪の精霊の踊り
③曲紹介「鉄工場」
④鉄工場 作品19
⑤ジ・アンフォーギヴン Ⅲ
⑥ジオール・ウィズイン・マイ・ハンズ
⑦(アネシージア)-プリング・ティース
⑧ホェアエヴァー・アイ・メイ・ローム
⑨ワン
⑩メタル・マスター
⑪ナッシング・エルス・マターズ
⑫エンター・サンドマン
―Guitarists―
ジェイムズ・ヘットフィールド、カーク・ハメット