2024年に最新作『Echoes and Other Songs』をリリースしたマイク・スターンが、2025年3月に丸の内COTTON CLUBと青山BLUE NOTE TOKYOで合計5日間の来日公演を行なった。来日のタイミングでマイク・スターンが使用した機材の撮影に成功し、本人から機材に対するこだわりを聞くことができた。本記事では、1997年から使い続けるYamahaのシグネチャー・モデル、Pacifica 1511MSをご紹介しよう。
文=小林弘昂 通訳=トミー・モリー 機材撮影=星野俊
Mike Stern’s Guitar
1997 Yamaha
Pacifica 1511MS
テレキャスターをもとにしたシグネチャー・モデル
1997年に完成した、マイク・スターンのシグネチャー・モデル。奥方のレニ・スターンからマイクにプレゼントされたテレキャスターをベースに製作が進められ、ニューヨーク在住のギター・ルシアー、マス・ヒノ(MAS HINO NYC Guitars & Basses)もデザインに関わっている。
ボディは2Pのスワンプ・アッシュで、トップ側のみバインディングが巻かれている。ネックは1Pメイプル。もとになったテレキャスターが重たいアッシュ・ボディだったことから、それに合わせて本モデルも重たく仕上げられていると教えてくれた。
クリーンなジャズだけでなく、ロックやファンクにも対応するために、ピックアップはSeymour Duncanのハムバッカー、’59 Model(フロント)とHot Rails(リア)が採用されている。ピックアップ・ポジションはフロントを基本にしており、リアはあまり使用しないとのこと。ちなみに市販品のフロント・ピックアップはゼブラ・カラーに変更されている。
マイクからの要望で、内部にはコンプレッサーが搭載されており、ボディ・バックにはコンプレッサー用の9V電池を格納するキャビティが開けられている。トーン・ノブをプルするとコンプレッサーがオンになるのだが、マイクは常時オフにしているとのこと。オフの状態でもわずかに音色の変化があるそうで、本人曰く“少し汚い音”がマッチしているそうだ。
使用弦はD’Addarioから提供してもらっているもので、.011-.013-.015-.026-.032-.038という特殊なゲージを張っている。
Picks

ピックはD’AddarioのClassic Celluloid 1.00mm。2016年の自動車事故により右手の力が弱まってしまったため、ピックが指から離れないようにテープを貼っている。
Interview
この重量と密度によって
音が少し太くなっているようだね。
今回も1997年から使っているシグネチャー・モデルのみを持ち込んでいるんですね。製作の話が持ち上がった時のことを覚えていますか?
ずいぶん前のことだからあんまり覚えていないんだけど、君たちがそう言うのなら97年だったんだろうね。ただハッキリ言えるのは、このギターが大好きだっていうことだ。僕とYamahaがこのギターの製作に取りかかっていた時、試作品を送ってもらってはフィードバックと一緒に送り返すということを何度かやっていてね。そのコミュニケーションを助けてくれたのが、トランペット奏者の日野皓正だった。
日野さんだったんですか!?
そう。彼の息子(マス・ヒノ)はギター・ビルダーで、このギターのデザインに関して協力してくれたんだ。僕は昔テレキャスターを使っていたんだけど、それはあちこちに手が加わっていてね。Yamahaはそのテレキャスターのスペックを踏襲しながら、独自にデザインしてくれたよ。
その土台となったテレキャスターは、バンド・メンバーでもある奥様のレニさんからもらったものですか?
そのとおり。それ以前はロイ・ブキャナンとダニー・ガットンが所有していたというグレイトなテレキャスターを持っていたんだけど、盗まれてしまったんだ。それで妻がテレキャスターをプレゼントしてくれたんだよ。Yamahaが僕のシグネチャー・ギターを作ってくれてからは、ずっと同じものを使っているんだ。
このギターのサウンドの印象は?
ボディがヘヴィなアッシュだから少しブライトな傾向があるんだけど、暖かみもあって、とても気に入っているよ。このギターはけっこうな重さがあって、暖かい音は重量が起因しているんじゃないかと思う。
重たいアッシュ材も特徴の1つなんですね。
昔使っていたテレキャスターも重たいアッシュだったから、Yamahaが同じような重さにしてくれたんだ。この重量と密度によって音が少し太くなっているようだね。軽いものも試したことがあって、それも良かったんだけど、これとは違う音だったよ。
なぜ重たいボディのサウンドのほうが好きなんですか?
ビ・バップ……特に管楽器によるビ・バップ・ラインをたくさん弾くのが僕のギター・スタイルで、それにピッタリなサウンドを求めたんだ。それにジャズだけじゃなくてロックやファンクもプレイするから、全部にバッチリくる感じにしたかったんだよね。ビ・バップに最適なウォームなサウンドはもちろん、ロックっぽいグッドな音も出せるよ。
オールマイティに使えるサウンドを狙ったんですね。
それと僕の音作りも特徴的で、YamahaのSPX90という古いラック機材を使っているんだ。しかも23番のパッチ(PITCH CHANGE C)しか使っていなくて、これで常に音を揺らしている。かなり気に入っていて、長年愛用しているよ。このシグネチャー・モデルやSPX90のように、問題なく使えていれば機材を変えることはないんだ。
このギターを初めて弾いた時のことを覚えていますか?
これを手にするまでに3〜4本別のギターを試したけど、これは弾いてすぐに“使える!”と思ったね。そしてさらにのめり込んでいったんだ。
市販品のフロント・ピックアップにはゼブラ・カラーのSeymour Duncan ’59 Modelが搭載されていますが、あなたのギターには黒いハムバッカーが搭載されています。何か違いがあるのでしょうか?
いや、基本的には同じだよ。Yamahaが市販品をゼブラ・カラーに変えたんだ。それと市販品にはもう少し軽い個体もあるみたいだね。ほとんどの人はこんなに重たいギターを弾きたがらないから、軽い木材を使っているみたいだよ。それでも、僕が持っているギターと近い素晴らしいサウンドだった。実際、僕が市販品を使っても、君たちが違いを言い当てることは無理だと思う。トーン・コントロールを少し調整するだけで、基本的には同じサウンドになるはずだよ(笑)。
通常、フロント・ピックアップはアジャスタブル・ポールピースのボビンがネック側にくるように搭載されるものですが、あなたのギターはフロントもリアも反対になっていますね。
このギターを受け取った時点では普通の向きに搭載されていたんだけど、自分で逆向きにしてみた時に、“このほうがグッドなサウンドだ”と思ったんだ。だからそのままにしているよ。こっちのほうがウォームな気がするね。ちなみに、なぜそうしたのかは忘れたけど、昔持っていたテレキャスターのフロント・ピックアップも逆向きにしていたんだ。

リア・ピックアップの印象は?
かなり強めでトレブリー、そしてグッと抜けてくる。でも、あんまり使ってないかな。
ハムバッカーを2つ搭載するのがあなたの好みなんですね。
フィードバックやノイズの問題もないから気に入っているよ。僕は曲と曲の合間に1人でソロ・ギターを弾くこともあるし、ドラムと僕だけでプレイすることもあるから、ノイズをなくしたかったんだ。それにハムバッカーが2つだとサウンドのバランスも良いしね。
昔エリック・ジョンソンと一緒に演奏した時、彼はシングルコイルのギターを使ってたんだけど、ノイズを取り除く方法がなくて、彼は“こういうものとしてやるしかない”と腹を括っていたよ。ノイズ自体はそこまで大きくなかったし、彼は本当に大きい音で弾くから、バラード以外ではあまり気にならなかったけどね。
順反りにすることで、
ウォームで太く、強いサウンドになるんだ。
スペックに関して、ほかに要望した部分はありますか?
このギターにはOrange Squeezerのようなコンプレッサーを内蔵していて、電池を入れるキャビティをリクエストしたんだ。いつも電池は入れているんだけど、コンプレッサーはオフにしているよ。

コンプレッサーを内蔵しているのに、常にオフなんですね。
オンにすると音が持ち上がるんだけど、オフの状態だと僕が求める音になるんだ。このコンプレッサーのグレイトなところは、オフの状態でもピックアップに何らかの影響を及ぼすところでね。というのも、本当にわずかなんだけど、電池を使い切った時に音が少しクリアになるのがわかるんだ。だから普段はちょっと汚い音かもしれないけど、とても重要だよ。

ネックは少し順反りするようにセッティングされています。
これはロイ・ブキャナンやダニー・ガットンがよくやっていたセットアップでね。順反りにすることで、ウォームで太く、強いサウンドになるんだ。それと僕は1弦に.011を使っていること以外、ジミ・ヘンドリックスと同じゲージの弦を使っているよ。ジミの弦は.010-.013-.015-.026-.032-.038だったんだ。
太いギター・サウンドを得るためには、太い弦が必要だと誤解していました。
もちろん、それでも出せるだろう。太い弦を使うのはわかりやすくグッドなやり方だよ。僕は1弦に.011を張っているから、ライトな感じは出せない。でも2弦は.013、3弦は.015で、これは現代では比較的ライトだよね。
僕が若かった頃はジミ・ヘンドリックスが使っていたということもあって、これがフェンダーのレギュラー・ゲージだったんだ。Fender Rock N’ Roll 150という名前で売られていて、小さな頃からずっと使い続けてきたよ。いつからか1弦を.011に変更したけどね。1弦をもっと太い.012や.013なんかにトライしたこともあったけど、やっぱり.011が好きだったな。ひょっとしたら、低音弦側にはもっと太い弦を張ったほうがいいかもしれないと思っているよ。
弦高を若干高めにしているのは、あなたの握力が強いからでしょうか?
それはあると思う。怪我をしてからは(※2016年に自動車事故で両腕を骨折)、テープを使ってピックを指に接着しなくてはいけなくなってしまった。だから右手の力はそこまで強くないんだけど、左手はまだ十分強くて、このセッティングが気に入っているよ。それに弦高を上げると弦がビビらないし、この状態のサウンドが好きなんだ。あとはフレットが大きいから、ある程度の弦高やネックの反りが必要でね。
ピックは厚さが1.00mmです。
ヘヴィなピックを使っているよ。D’Addarioのもので、弦も提供してもらっているんだ。ピックに貼ってあるテープがなくても一応プレイはできるんだけど、10秒くらいするとズレてしまうから、こうしておかないといけないんだよね。
