ストレイ・キャッツ『ロックド・ディス・タウン:フロム・LA・トゥ・ロンドン』 ストレイ・キャッツ『ロックド・ディス・タウン:フロム・LA・トゥ・ロンドン』

ストレイ・キャッツ
『ロックド・ディス・タウン:フロム・LA・トゥ・ロンドン』

文=山口智男

デビュー40周年を記念する最新ライブ・アルバム。
ロカビリー・ギターの神髄がここに

絶対、日本にも来てくれると思って、気合を入れて待っていたのに、なぜストレイ・キャッツは来てくれなかった? デビュー40周年というだけではなく、それを記念して26年ぶりとなるまさかの新録アルバム『40』もリリースしたんだから、アメリカやイギリス~ヨーロッパは当然だとしても、そちらと比べても負けないくらい人気がある日本にだって足を延ばしてしかるべきだろう。

もしかしてコロナ禍さえなかったら、オセアニアから回って、今年、どこかのタイミングで来日公演が実現していたんじゃないか。そんなふうにいつまでもあきらめきれない気持ちを持て余していたところに最新ツアーから全23曲を収録したライブ・アルバムが届けられたんだから、これが快哉を叫ばずにいられようか。

タイトルどおり、18年10月から19年7月まで、『40』をひっさげアメリカ~イギリス~ヨーロッパを回ったツアーから、ベスト・パフォーマンスを厳選した上で熱狂のステージを見事再現している。

②⑥⑧⑭⑲⑳といった人気曲も含め、新旧のレパートリーがまんべんなく選曲されているが、もちろん『40』からも①ほか計5曲を収録。そんなセットリストからは40周年を踏まえ、これまでのキャリアを振り返りつつ、現在の3人の雄姿をしっかり焼き付けようという意図もうかがえるが、キャリアにふさわしい成熟の中に、かつてパンクの延長でオールディーズと見なされていたロカビリーを蘇らせた向こう意気が入り混じる熱演からはツアーの充実ぶりが感じられる。

それだけに、そのライブを体験できなかったことがよけいに悔しいのだが、それはさておきトリオの演奏をリードするのは、もちろんブライアン・セッツァーのギターだ。リー・ロッカー(Ba)、スリム・ジム・ファントム(Dr)という信頼できる相棒たちを相手に大胆にアドリブを加えながら(それはソロだけに止まらない)お馴染みの曲をエネルギッシュに、そしてスリリングに演奏している。

そんなプレイの核にあるのはマール・トラヴィス、スコテッィ・ムーア、ジェームズ・バートン、クリフ・ギャラップら、先人たちから受け継いだカントリー~ロカビリー・ギター――というところはデビューした時から変わらないが、このライブ盤を聴いていると、キャリアを重ねるごとに先人たちの教えに、より忠実にという意識に変わってきたようにも感じられる。

中盤のインスト・コーナーではマール・トラヴィスでお馴染みの⑪に加え、ディック・デイルの定番サーフ・ギター・ナンバー⑫も披露。ブライアンのヒーローであるジーン・ヴィンセントとエディ・コクランに捧げた⑧の有名ギター・フレーズのコラージュは、遊び心の発露とも考えられるが、ロカビリー・ギターの求道者の面目躍如と受け止めたい。

その姿勢を持ち続けているからこその40周年。80分間、鳴り続けるギターを存分に味わいたい。

作品データ

『ロックド・ディス・タウン:フロム・LA・トゥ・ロンドン』
ストレイ・キャッツ

ビクター/VICP-65569/2020年9月9日リリース

―Track List―

01.キャット・ファイト(オーヴァー・ア・ドッグ・ライク・ミー)
02.ラナウェイ・ボーイズ
03.トゥー・ヒップ、ガッタ・ゴー
04.ダブル・トーキン・ベイビー
05.スリー・タイムス・ア・チャーム
06.ストレイ・キャット・ストラット
07.ミーン・ピッキン・ママ
08.ジーン&エディ
09.クライ・ベイビー
10.アイ・ウォント・スタンド・イン・ユア・ウェイ
11.キャノンボール・ラグ
12.ミザルー
13.ホエン・ナッシングス・ゴーイング・ライト
14.(シーズ)セクシー+17
15.ブリング・イット・バック・アゲイン
16.マイ・ワン・デザイア
17.ブラスト・オフ
18.ラスト・アンド・ラヴ
19.フィッシュネット・ストッキングス
20.ロック・ディス・タウン
21.ロック・イット・オフ
22.ビルト・フォー・スピード
23.ランブル・イン・ブライトン

―Guitarists―

ブライアン・セッツァー