ジェフ・ベックと黒人音楽の“密なカンケイ”。 ジェフ・ベックと黒人音楽の“密なカンケイ”。

ジェフ・ベックと黒人音楽の“密なカンケイ”。

第2期ジェフ・ベック・グループでソウル/ファンク路線に乗り出し、その後すぐにスティーヴィー・ワンダーの『Talking Book』に参加するなど、急速に黒人音楽との距離を詰めていったジェフ・ベック。ここでは、彼が影響を受けた楽曲をまとめたプレイリストを聴きながら、ベックとブラック・ミュージックとの関係性について探っていこう。

文/選曲=久保木靖

ジェフ・ベックを魅了したブラック・ミュージック
〜ルーツ・オブ・第2期JBG〜

きっかけはブッカー・T&ザ・MG’sの「Green Onions」

1960年代に登場してきたほかの多くのイギリス人ミュージシャン同様、ジェフ・ベックもアメリカのロックンロールやブルースにノックアウトされたクチ。さらにベックの場合は、レス・ポールやチェット・アトキンスといった白人カントリー・プレイヤーも熱心に研究していた。このようにギターが主役級を張る音楽に夢中になっていたベックに、ボーカル中心のソウル/ファンクへの興味を抱かせるきっかけは何だったのか。

時は1962年に遡る。ブッカー・T&ザ・MG’sのヒット曲「Green Onions」を耳にしたベック。当初はギターのスティーヴ・クロッパーが目当てだったかもしれないが、そのシンプルな構成ながらも独特のブラック・フィーリングに魅了され(クロッパーは白人だが)、やがて彼らがハウス・バンドを務めるスタックス系のソウル・シンガー、オーティス・レディングやウィルソン・ピケット、エディ・フロイドなどを愛聴していく。モータウンからヒットを飛ばしていたスティーヴィー・ワンダーに夢中になっていくのも時間の問題だった。こうして彼の頭の中には、ソウル・ミュージックの持つ親しみやすさと自身のギターの融合という企みが芽生えた。

それが最初に実現したのは、第1期ジェフ・ベック・グループ(以下JBG)の結成当初。ヤードバーズ時代の曲ばかりがリクエストされる中、彼らはそれを無視して自分たちの解釈によるシカゴ・ブルースを中心としたセットを組んだ。加えて、ロッド・スチュワートの機嫌を取るために最新のモータウン・ヒット曲を演奏していったという。特にロッドのお気に入りであるテンプテーションズの「(I Know) I’m Losing You」は重要なレパートリーだった。すでにインプレッションズの「People Get Ready」も演奏していたかもしれない(ベック・ボガート & アピス期にはインプレッションズの「I’m So Proud」もカバー)。ともあれ、第1期JBGのアルバムは当時最先端であったブルース・ロック〜ハード・ロック路線だったものの、ベックはこのソウル・オリエンテッドな試みへの自信を深めていく。

ソウル/ファンクのグルーヴ、
そしてボーカルを凌駕する表現力へ

その後、第2期JBG結成の直前、ベックはコージー・パウエル(d)を連れてデトロイトのモータウン・スタジオへ入っている。この時のベックの構想は“モータウンのヒット曲をギター・インストで演奏する”ということ。1970年6月に、モータウンの看板ベーシストであるジェームス・ジェマーソンを迎えて、フォー・トップスの「Reach Out I’ll Be There」やテンプテーションズの「(I Know) I’m Losing You」、リタ・ライトの「I Can’t Give Back The Love I Feel For You」などが収録された。諸々の準備不足、レコーディングに対するベック側とモータウン側の姿勢の違いなどにより、散々な結果だったらしいが……。

残念ながらこの時の音源は未だ発表されていないものの、『Jeff Beck Group』でカバーされた「I Can’t Give Back〜」でその一端を想像することは可能だ。スライドでメロディを叙情的かつ大胆に“歌い”、後半ではそれが見事なハーモニーを奏でるこのテイクは同作のベスト・トラックと言ってもいいのではないだろうか。ソウルやR&Bチューンをギター・インストで演奏する”という試みはすでにデイヴィッド・T・ウォーカーやフィル・アップチャーチらが行なっていたが、そちらがよりジャズ的なアプローチだったのとは大きな違いだった。

その『Jeff Beck Group』には、スティーヴィー・ワンダーの「I Got To Have A Song」の巧みなカバーもある。ちなみに、第2期JBG解散間際のライブ・ブートレッグをチェックすると、スティーヴィーからもらったばかりの「Superstition」や、ビル・ウィザースによる当時の最新ヒット「Ain’t No Sunshine」なども演奏されている。筆者個人的には、この2曲は第2期JBGの方向性に合致するため、ぜひとも正規のスタジオ録音で聴きたかったと思ってしまうことしきり。同時期にベックはスティーヴィーの『Talking Book』(1972年)収録の「Lookin For Another Pure Love」にゲスト参加しており、先述した「Superstition」や『Blow By Blow』収録の「Cause We’ve Ended As Lovers」にまつわる有名なエピソードへとつながっていく。

『Rough And Ready』リリースの前年にファンク界の革命的チューン、ジェームス・ブラウンの「(Get Up I Feel Like Being A) Sex Machine」(1970年)がヒットしていたことも重要だ。そこでのキャットフィッシュ・コリンズのプレイにインスピレーションを得たベックは、ファンキーな16ビート・カッティングをやはり『Blow By Blow』収録の「You Know What I Mean」で披露する。

こうして見てくると、当初は“ソウル・ミュージックと自身のギターの融合”を目指していたベックは、やがてソウル・シンガーの誇る絶妙な歌唱法を自身のギターに置き換えてみたくなったのだと思う。インスト路線に向かった理由をこう考えてみることになんの支障もないはずだ。ベックのギターの表現力が時としてボーカルを凌駕するということに、誰も異論はないであろう。