第3回目はスーサイダル・テンデンシーズとそのファミリー、アメリカ西海岸勢のバンドのアルバムを中心に紹介します。
選盤・文=川嶋未来
Vio-lence
『Eternal Nightmare』
●リリース:1988年
●ギタリスト:Robb Flynn、Phil Demmel
Machine Headの原点
Machine Headのロブ・フリン、フィル・デンメルを輩出したことでも知られるVio-lenceの1st。ロブ自身はVio-lenceを“Slayer、Exodusから影響を受けたスラッシュ・メタル・バンド”だと位置づけつつも、D.R.I.、Attitude Adjustment、Dead Kennedys、Dischargeなどが持っていたヴァイブからもインスピレーションを得ていたことを認めている。
Attitude Adjustment
『American Paranoia』
●リリース:1986年
●ギタリスト:Eric McIntire、Chris Scaparro
ベイエリアの伝説
サンフランシスコの伝説的クロスオーバー・バンドの名盤デビュー作。ベイエリア・スラッシュの面々とも一緒にステージに立ち、お互いに影響を与えあっていた重要な存在だ。本作リリース直前に解散するなどのゴタゴタがなければ、もっとビッグになっていたのでは。2016年には来日も果たし、圧倒的パフォーマンスを見せた。
Suicidal Tendencies
『Suicidal Tendencies』
●リリース:1983年
●ギタリスト:Grant Estes
原点にして最高傑作
スーサイダルの超名盤1st。クロスオーバーが盛り上がるずっと前の83年にリリース。音的には純粋なハードコアと言えなくもないが、Anthraxを筆頭に多くのスラッシュ・メタル・バンドがフェイバリットに挙げたため、メタル・ファンにも絶大なる人気を博した。87年のセカンド『Join the Army』では一気にメタル化。その後はファンクも取り入れたスタイルに。
V.A.
『Welcome to Venice』
●リリース:1985年
●ギタリスト:Adam Siegel、Mike Clark、他
ヴェニスの伝説的コンピ
Excel、Beowulf、No Mercy、Los Cycosとスーサイダル・ファミリーが総集結した名コンピ。後にリリースされたこれらのバンドのフル・アルバム群よりも音質や演奏が荒々しいぶん、クロスオーバー本来のエネルギーが感じられる名盤だ。デンジャラスなヴェニス・ビーチ・シーンの貴重なドキュメント。『Farewell to Venice』、『Welcome 2 Venice』という続編もあり。
No Mercy
『Widespread Bloodshed Love Runs Red』
●リリース:1987年
●ギタリスト:Mike Clark
ほぼスーサイダルそのもの
スーサイダルのメンバーによるサイド・プロジェクト、No Mercyによる唯一のフル・アルバム。ボーカルがマイク・ミューアだし、ギターもその後スーサイダルに加入するマイク・クラークと、ほぼスーサイダルそのものだ。本作収録曲の半分は、のちに本家でリ・レコーディングされているほど。初期スーサイダルが好きなら必聴。
Excel
『The Joke’s on You』
●リリース:1989年
●ギタリスト:Adam Siegel
Metallicaの元ネタ?
パンク・バンドとして結成され、その後メタル色を強めていったExcelの2nd。メジャーからのリリースということからも、当時のスーサイダル・ファミリーの勢いがわかる。本作収録の「Tapping into the Emotional Void」のリフがMetallicaの「Enter Sandman」に酷似していることは有名で、デイヴ・ムステインも“Metallica最大のヒット曲は盗作”と発言している。
Beowülf
『Beowülf』
●リリース:1986年
●ギタリスト:Mike Jensen
Motörhead風クロスオーバー
81年結成、スーサイダル・ファミリー、ヴェニス・シーンの古参バンド。コンピ盤『Welcome to Venice』に参加後のデビュー作がこれ。スーサイダルとMotörheadのミックスと言われることも多かった。ボーカリストの声質がレミーに近いこともあり、パンク寄りのMotörheadと言うのが適切か。Excel同様、彼らも次作でメジャー・デビューを果たす。
Cryptic Slaughter
『Convicted』
●リリース:1986年
●ギタリスト:Les Evans
86年当時最高速
サンタモニカのクロスオーバー・バンドによるデビュー作。86年当時、最もテンポが速いアルバムの1つであり、荒々しすぎる演奏は、メタル・ファンにとって大きな衝撃であった。Napalm Deathなど、グラインド・コアへの影響も大きく、エクストリーム・メタルのスピード・アップに大きく貢献したバンドだ。セカンド・アルバム『Money Talks』も必聴。
Wehrmacht
『Shark Attack』
●リリース:1987年
●ギタリスト:Marco Zorich、John Duffy
こちらも87年当時最高速
80年代当時最高速のバンドの1つと目された、オレゴンのスラッシュ・メタル・バンドの1st。スピードアップしてもリフが単純化せず、複雑なギター・ワークをこなしていたところが特長である。ハードコアのスピードに影響を受けつつも、メタル・バンドとしてリフを捨てることはなかったのだ。このバンドもグラインドコア勢に多大なる影響を与えた。
The Accüsed
『The Return of… Martha Splatterhead』
●リリース:1986年
●ギタリスト:Tom
世界初クロスオーバー?
シアトルのクロスオーバー・バンド。元々はハードコア・パンクをプレイしていたが、だんだんとメタル色を強めていく。彼らの特徴は、やはりブレインによる猫の鳴き声のようなボーカルだろう。元Panteraのフィル・アンセルモは、“The Accusedが初のクロスオーバー・バンドではないか”と発言している。80年代にリリースした3枚のアルバムは、どれも必聴。
*本記事はギター・マガジン2021年4月号にも掲載しています。
『ギター・マガジン2021年4月号』
特集:90年代 オルタナ革命
1991年、オルタナ元年。
パンクがメジャーを飲み込み始めたこの年、
それまでのロック・ギターの概念を一変させる
新時代の轟音が産声をあげていた……。
ソニック・ユース、ダイナソーJr.、スマッシング・パンプキンズ、ニルヴァーナ……etc。90年代初頭に隆盛を極めたオルタナティヴ・ギタリスト達は何に影響を受け、どんな思い出ギターを弾き、どういう機材でサウンドを作っていたのか? 今なお強大な影響力を持つ彼らに焦点をあてた、ギタマガ初の90年代オルタナ特集。