文=高橋智樹
極限進化の2ndアルバムに凝縮された
ギターとロックとポップの蜜月関係
パンク/メタル/オルタナ/エモといった特定のジャンルの影響を強く感じさせるわけではないにもかかわらず、いやだからこそ、秋山黄色というアーティストの楽曲とサウンドは、ジャンルやスタイルでは解析不可能な“ロックそのもの”のバイタリティに満ちている。そして、それを紛れもなく2020年代最先端のハイパーな訴求力を備えた音楽として響かせる、類稀なるクリエイティビティに満ちてもいる。1stフルアルバム『From DROPOUT』以降の1年間、時代と/シーンとの共鳴度を加速度的に高めてきた秋山黄色が、自身の状況も「その先」への挑戦精神もすべてダイナミックなギターと熱唱へ直結することで、驚愕の極限進化を遂げるにいたった。『FIZZY POP SYNDROME』はそういう作品だ。
アルバム冒頭のフィードバックノイズに重なる「LIE on」のリフが描き出す、快楽原則をそのまま音符に置き換えたような祝祭感。ドラマ主題歌として秋山黄色の名を世代を超えて知らしめた「サーチライト」の、心の迷いも軋轢も鮮やかにネガポジ転換するギター・サウンドのドライブ感。ファンキーなカッティングとワイルドなコード・ストローク、エモーショナルな高音の単音フレーズ……といった多彩なギタープレイが、アグレッシブな歌とせめぎ合いながら不屈の存在証明を“今、ここ”に刻み込む「アイデンティティ」。清冽なバッキングの歪みサウンド&間奏で聴かせる緻密なソロ・プレイが、明快なコントラストと躍動感を立ち昇らせる「Bottoms call」。リミッターがはずれた「宮の森アンダーグラウンド」の激走感。レゲエ風のカッティングが灰色の日常を陽光で染め上げる「ゴミステーションブルース」───。1曲また1曲とクライマックスが訪れるようなアルバムは最後、ハードエッジなビートとギターの音像が渦巻く「PAINKILLER」で、聴く者の痛みを力強く肯定して幕を閉じる。
1年前の前作『From DROPOUT』より格段にハイパーな訴求力を増した今作は同時に、自己表現や承認欲求の域を遥か遠くに置き去りにして前へ先へと突き進む秋山自身の“時代と共振する意志”を何より痛快に証明するものだ。内省や苦悩の結晶としてのロックアートではなく、閉塞感を打ち破るカウンター的存在として自ら時代の先頭に立つための渾身のロックアクト───。ギターとロックとポップの蜜月の共犯関係が、ここには確かに鳴っている。
作品データ
秋山黄色
『FIZZY POP SYNDROME』
エピックレコードジャパン/ESCL-5498/2021年3月3日リリース
―Track List―
01. LIE on
02. サーチライト:テレビ朝日系土曜ナイトドラマ「先生を消す方程式。」主題歌
03. 月と太陽だけ
04. アイデンティティ:フジテレビ“ノイタミナ”「約束のネバーランド」Season 2オープニングテーマ
05. Bottoms call
06. 夢の礫:「映画 えんとつ町のプペル」劇中挿入歌
07. 宮の橋アンダーセッション
08. ゴミステーションブルース
09. ホットバニラ・ホットケーキ
10. PAINKILLER
―Guitarist―
秋山黄色