T-SQUAREの必聴名盤Recommended by Masahiro Ando T-SQUAREの必聴名盤Recommended by Masahiro Ando

T-SQUAREの必聴名盤
Recommended by Masahiro Ando

今回の特集では、安藤正容本人にさまざまなテーマのもとインタビューを行なった。まず始めは、43年のキャリアでリリースした数多の名盤の中から厳選した8作品を、安藤によるコメントとともに紹介しよう。サブスクにも公開されているので、音を聴きながら読んでほしい。

取材/文=近藤正義

43年に及ぶTHE SQUARE~T-SQUAREの歴史をメンバーの変遷から大きく8つの時期に分け、安藤正容本人にそれぞれの時期で特に記憶に残っている作品を聞いた。

それらを必聴作品として、製作当時の思い出や作品への思い入れについての本人コメントとともに紹介しよう。

『Lucky Summer Lady』(1978年)

THE SQUAREの記念すべきデビュー・アルバム。夏、海、美女と涼しげにキメたジャケットのポイントも高く、中身も最高にカッコいいクロスオーバー・サウンド。後年のT-SQUAREのサウンドとはまったく違うと言ってもよい。アレンジにもソロにもジャズ的要素が強く、アダルトな味わいがある。リー・リトナー&ジェントル・ソウツと比べてもらってけっこうだ!

Ando’s Comment

安藤:リー・リトナー&ジェントル・ソウツに憧れていた時期です。レコード会社からカバー曲じゃなくてオリジナル曲を録音する許しが出たんですよ。初めてのレコーディングで何も知らないので、全員録音の一発勝負だと思っていましたから、プリプロでもの凄く練習しましたね。「フューチャー・フライ」という曲で、マイケルは自分のドラム・ソロに不満げだったんですが、僕のギター・ソロがうまくいったから“このテイクにしてくれない?”って頼んだのを覚えています(笑)。

リリース日:1978年9月21日
メンバー:安藤正容/御厨裕二(g)、伊東たけし(sax)、マイケル河合(d)、中村裕二(b)、宮城純子(key)、仙波清彦(perc)

『Magic』(1981年)

5枚目のオリジナル・アルバム。メンバーの入れ替わりが激しい時期を反映し、このアルバムの内容もボーカル入りのポップス調、テクノ調、フュージョン調という具合に混沌としている。しかし、アルバムの根底に流れているのは、ジャケット同様にスポーツ感覚のポップなサウンド。最後の曲ではタモリがトランペットとハナモゲラ・ナレーションで美味しいところをさらっていく。

Ando’s Comment

安藤:この頃は日本中のアレンジャーがエアプレイになった時期ですよね(笑)。今だから言いますが、僕もやっぱり影響を受けていて、意識的にボーカルを入れたりしていました。でも、僕にとっては英語の歌詞は内容よりも言葉が持つサウンドが大事で、作詞家の作った内容重視の歌詞とはちょっとイメージが違う、そんなジレンマがありました。ただ、「マジック」はマリーンがその後ずっと大切に歌ってくれていて嬉しいですよ。曲が作者の元を離れて独り立ちしていった良い例です。

リリース日:1981年11月1日
メンバー:安藤まさひろ(g)、伊東たけし(sax)、清水永二(d)、田中豊雪(b)、久米大作(k)

『R・E・S・O・R・T』(1985年)

10枚目には、ジェリー・ヘイ、ゲイリー・グラントなどがホーン・セクションとして参加。後年、コンサートの定番となったりアレンジを変えて何度もセルフ・カバーされた人気曲「オーメンズ・オブ・ラヴ」や「フォーゴトゥン・サガ」などが収録されている。THE SQUARE時代の集大成、最高傑作と評するファンも多い名盤である。

Ando’s Comment

安藤:ホール・ツアーができるようになった時期ですね。CMなどの影響もあって、とにかく伊東さんの人気が凄かった。楽屋の出口とかでも、ファンの人たちに名前を呼ばれるのは伊東さんだけで、僕を含めたほかのメンバーは“ギターの人”とか“ベースの人”って呼ばれていました(笑)。このアルバムは初のハワイ録音なんですが、スタジオや機材の面でいろいろトラブルがあって大変だったことも懐かしい思い出です。収録曲の中では個人的に「プライム」が好きですね。

リリース日:1985年4月1日
メンバー:安藤まさひろ(g)、伊東たけし(sax)、田中豊雪(d)、長谷部徹(b)、和泉宏隆(k)

『NATURAL』(1990年)

伊東たけしは15枚目となるこのアルバムで一旦バンドから離れるのだが、伊東在籍時におけるT-SQUARE時代の最高傑作と推すファンも多い。プロデューサー、ラス・フリーマンの影響も大きいのだろう。曲、アレンジ、演奏、録音、どれをとってもほかのアルバムにはない温もりと、幻想的で独特な世界を持っている。

Ando’s Comment

安藤:このアルバムではLAのギタリスト、ラス・フリーマンに何曲かプロデュースを頼んだんです。最初は同じギタリストとして彼の作業にはピンとこなかったんですが、終わってみると良いアルバムに仕上がったと思いました。先日、ブルーノートでこのアルバムに収録された和泉君とラス・フリーマンによる曲「ラビリンス・オブ・ラブ」を演奏した時、ラスらしさを含んだ良い曲だなと改めて感心しましたね。

リリース日:1990年4月21日
メンバー:安藤まさひろ(g)、伊東たけし(sax)、則竹裕之(d)、須藤満(b)、和泉宏隆(k)

『Welcome to the Rose Garden』(1995年)

20枚目のオリジナル・アルバム。バラエティに富んだ曲が揃い、構成も凝っている。しかもメロディアスな曲が多いので、アルバム1枚を一気に聴けてしまう。ラストの曲「プライム・タイム」は、『リゾート』に収録されていた「プライム」のアレンジを変えたセルフ・カバー・バージョン。ソリッドで爽やかな、本田雅人在籍の時期を代表するアルバムである。

Ando’s Comment

安藤:2ヵ月くらいイギリスに滞在してのレコーディングでした。ジュリアン・メンデルスゾーンというエンジニアが、僕の感覚と凄く相性が良かったんです。特にミックスの時にはメンバーそれぞれにも思惑があっていろんな意見が飛び交うのですが、そこで作曲者としての意向を伝えるのはとてもエネルギーを要するわけです。でも彼は、言わずとも僕の思いどおりにジャッジしてくれたので、僕としてはストレスがなかった。あと、則竹君のドラムをそれまでになくリアルにとらえている1枚だと思います。

リリース日:1995年5月21日
メンバー:安藤まさひろ(g)、本田雅人(sax)、則竹裕之(d)、須藤満(b)、和泉宏隆(k)

『Sweet & Gentle』(1999年)

24枚目となる本作はサックス=宮崎隆睦の時期を代表するアルバムだ。ソリッドかつハードな本田雅人とは違い、伊東に近いウォームな印象で迫る彼の持ち味がよく出た1枚。宮崎本人もとても気に入っていると聞いた。キーボードに正式メンバーが不在の時期だが、サポートした松本圭司(k)のクールな存在は鋭く光っている。

Ando’s Comment

安藤:このアルバムはコンプレッションが強くて、独特なサウンドに仕上がっています。それはヴィレッジのスタジオで録音したことが関係しています。ここはスタジオの天井が低くて響かないのでドラムの録音が大変で。でも、そんなスタジオの特徴を逆手にとっていろいろ工夫しているんですよ。エネルギーが溢れていて、良いアルバムだと思います。宮崎君がこのアルバムを好きだって聞いたけど、僕も好きですね。

リリース日:1999年5月21日
メンバー:安藤まさひろ(g)、宮崎隆睦(sax)、則竹裕之(d)、須藤満(b)

『FRIENDSHIP』(2000年)

26枚目のオリジナル・アルバムは安藤&伊東の2人体制。“安藤の脱退表明とそれにともなうバンドの解散”という真相は当時は報じられず、彼らのデュオ活動が新たなT-SQUAREであるとされた。2人の笑顔によるジャケット写真のように、全体的にゆったりした印象で、安藤が多用したアコースティック・ギター、伊東による久々のフルートと深い音色のアルト・サックスが心地よい。

Ando’s Comment

安藤:伊東さんと2人の時期は海外レコーディングが多かった。僕も英会話が堪能じゃないからコミュニケーションが上手くいかなくて大変でしたね。でも、外国人の扱いという点では、プレイヤーの僕らよりマネージメントの青木(幹夫)のほうがもっと苦労したはず。文化の違いというか、こちらの常識がまったく通じないですから(笑)。僕と伊東さん以外のメンバーを調達しなくちゃならないのは大変でしたけど、僕にとっては刺激的でした。2人のユニットという状態でやるのも好きでしたね。

リリース日:2000年10月18日
メンバー:安藤まさひろ(g)、伊東たけし(sax)

『PASSION FLOWER』(2005年)

坂東と河野の正式加入により、バンド形態を復活させた新生T-SQUAREによる第1弾となった31枚目。この若手メンバー2人が収録曲の半数を提供し、アルバムの中核を担っているのが頼もしい。彼らがかつてのスクエアらしさを踏まえたうえで新たなエッセンスを加味するセンスには驚いた。ジャケット・デザイン同様、弾けるような爽やかさを満喫できる。

Ando’s Comment

安藤:この時期はマイケルが毎回コンセプトを決めて持ってきたから、アルバムとしてのまとまりは凄く強いと思う。この作品の時は“爽やかなフュージョンをやろう”ということだった(笑)。坂東君が加入した最初のアルバムだったから、マイケルがレコーディング・スタジオでドラムの録音についていろいろレクチャーしていたのを覚えています。坂東君と河野君が昔のスクエアを知り尽くしたマニアだったので、僕も伊東さんも安心して彼らに任せることができたんですよ。

リリース日:2005年4月20日
メンバー:安藤まさひろ(g)、伊東たけし(sax)、河野啓三(k)、坂東慧(d)

作品データ

『FLY! FLY! FLY!』 T-SQUARE

T-SQUARE Music Entertainment Inc./OLCH10022-23/2021年4月21日リリース

―Track List―

01.閃光
02.FLY! FLY! FLY!
03.Only One Earth
04.Quiet Blue
05.Brand new way
06.Growing Up!
07.The Hotrodder
08.回帰星-kaikiboshi-
09.Joy Blossoms

―Guitarist―

安藤正容