鈴木茂が参加した大滝詠一楽曲での名演。 鈴木茂が参加した大滝詠一楽曲での名演。

鈴木茂が参加した大滝詠一楽曲での名演。

大滝詠一をギター目線で見つめた時、ダントツで最重要人物と言えるのが鈴木茂だ。はっぴんえんど時代からの盟友にして、大滝がキャリアを通じて最も信頼を置いたエレキ・プレイヤーである。彼が大滝作品でどんな名演を残したのか、特製のプレイリストとともに振り返ろう!

文=編集部 写真=山川哲矢

 鈴木茂が参加した大滝作品は、はっぴいえんど時代に作った『大瀧詠一』(1972年)と次作『NIAGARA MOON』(1975年)、『A LONG VACATION』(81年)、『EACH TIME』(84年)の4作が代表的だ。大滝が生前に残したオリジナル・ソロ・アルバムというくくりでは、コロムビア時代の2作品『GO! GO! NIAGARA』(1976年)と『NIAGARA CALENDAR』(1977年)を除くほぼ全作品に参加したことになる。そう、大滝にとって鈴木茂というギタリストは、はっぴいえんどで一緒に音を鳴らしている時から絶対的な存在なのだ。

 ナイアガラ・サウンドにおける鈴木茂の役割は、70年代は“バッキング〜ソロを担うメイン・ギタリスト”、80年代は“ソロイスト”(後述)、とざっくり区分ができる。1st『大瀧詠一』では、茂がいたく尊敬するジェリー・リードの「Amos Moses」をもじった「びんぼう」のトゥワンギーなリフや、「ウララカ」、「あつさのせい」の軽快でカラっとしたギター・ソロ、メジャー・ペンタが気持ち良い「恋の汽車ポッポ第二部」など、カントリー・ロック的な名演が目立つ(本作はサブスク未解禁のため、本プレイリストには入っていません。悪しからず!)。

 次作『NIAGARA MOON』は、かの名作1stソロ『BAND WAGON』を米国で作ったあとに参加した作品であるため、いわゆる“無敵モード”の茂の演奏が味わえる1作。この頃傾倒していたスライド・ギターの好プレイ(「論寒牛男」、「シャックリ・ママさん」など)を始め、「福生ストラット(パートII)」や「ロックン・ロール・マーチ」での粘っこいバッキングも実にクールだ。

 そして『NIAGARA MOON』で語り草になっているのが、「論寒牛男」での演奏だ。間奏のギター・ソロでは、当人のキャリア史上最速と言われる超絶速弾きを披露。さらにアウトロのスライド・ギターは合計4〜5本のテイクが次々に聴けるなど、まさに暴れたい放題だ。大滝本人も生前、次のような賛辞を送っている。

 “間奏は最初はスライド・ギターだったんだけど、他の人のダビングをやっているときに茂が福生のこたつの待合室で、一人でいろいろやってたね。で、“スライドじゃなくてこっちでやろうかな”と言い出した。それであのソロ。“何じゃこりゃ!”って。何回も弾いて、茂は“良いの使って”って帰るわけだけど、コーダでそれを全部使った(笑)”。

 “ましてや茂は洋行帰りなんですよ。あの名盤『BAND WAGON』が出る2ヵ月前で。だから向こうで腕を磨いてきたスライド・ギターからピッキング・ギターから、狂気的な演奏をしてるんですよ”。

(『レコード・コレクターズ増刊 大滝詠一 Talks About Niagara』より)

 『BAND WAGON』で一流アーティストに成長した元バンド・メイトに対する、深いリスペクトがうかがえる素敵な発言だ。

 さて、コロムビア時代の実験的な2作を経て、大滝は勝負となる新作アルバムのために茂を呼び寄せる。新作のタイトルは『A LONG VACATION』。泥臭さのあったこれまでの作品とは異なる、リゾート感漂うスウィートなサウンドがコンセプトだ。そこで大滝は、“ソロイスト”としての鈴木茂の才能を頼った。つまり『BAND WAGON』で見せたロックなセンスではなく、「卒業写真」(荒井由実)のソロのようなメロディ・メイカーとしての一面に、である。

 『ロンバケ』初心者の方はとりあえず、「君は天然色」、「雨のウェンズデイ」、「スピーチ・バルーン」の3曲に入ったギター・ソロを聴いてみてほしい。茂が見事にそのセンスを発揮しているのがわかるはずだ。甘く切ない、それでいてほどよく酸味が効いた、まさに『ロンバケ』の世界にふさわしいメロディ。大滝ファンの方々も、この機会にぜひ再度聴き直してほしい。なお、ボーナス的に「さらばシベリア鉄道」の間奏も必聴。上記3曲とは全然違う雰囲気だが、ベンチャーズ少年だった茂の本格的サーフ・ロック・ソロが痛快だ。

 『ロンバケ』以降も、『NIAGARA TRIANGLE VOL.2』(1982年)の「Water Color」や『EACH TIME』(1984年)収録の「銀色のジェット」で同じようにメロディアスなプレイを残した鈴木茂。コンプレッサーをかけた極上クリーン・トーンによる彼のリード・ギターは、今やシティ・ポップにおけるギターのひとつの定型と言ってもいいかもしれない。

作品データ

『A LONG VACATION 40th Anniversary Edition』

ソニー/SRCL-12010~12011/2021年3月21日リリース

―Track List―

【CD1】
01.君は天然色
02.Velvet Motel
03.カナリア諸島にて
04.Pap-pi-doo-bi-doo-ba物語
05.我が心のピンボール
06.雨のウェンズデイ
07.スピーチ・バルーン
08.恋するカレン
09.FUN×4
10.さらばシベリア鉄道
【CD2】
『Road to A LONG VACATION』

―Guitarists―

安田“同年代”裕美、三畑卓次、笛吹利明、福山享夫、川村栄二、松下誠、松宮幹彦、吉川“二日酔ドンマイ”忠英、徳武弘文、村松“カワイ・ギター教師”邦男、鈴木“Hoseam-O”茂