『ザ・プロブレム・オブ・レジャー:ア・セレブレーション・オブ・アンディ・ギル・アンド・ギャング・オブ・フォー』V.A. 『ザ・プロブレム・オブ・レジャー:ア・セレブレーション・オブ・アンディ・ギル・アンド・ギャング・オブ・フォー』V.A.

『ザ・プロブレム・オブ・レジャー:ア・セレブレーション・オブ・アンディ・ギル・アンド・ギャング・オブ・フォー』
V.A.

文=新見圭太

稀代のアンチ・ギター・ヒーローを巡る、
“語り部たち”による極上の口上。

“本作は、2020年に64歳で亡くなったアンディ・ギルが生前から計画していたギャング・オブ・フォーのトリビュート・アルバムである。アンディ・ギルは……”と本文を続けることはできるが、正直なところあまりに偉大なアンチ・ギター・ヒーローである彼について、何から語り始めたら良いものだろうか。

ミック・グリーン、ウィルコ・ジョンソンから脈々と受け継がれてきた硬質で鋭利なカッティング・マスターであること? それとも2nd『Solid Gold』で鳴り響くファンキーなカッティング? あるいはセオリーにとらわれないフリーキーかつノイジィなソロ? いや、不協和音と先鋭性に満ちた1st作を『Entertainment!』(1979年)と名づけたことに代表される批評性? その前に、1度目のバンド解散をした84年以降、大きく軌道に乗り始めたプロデュース業(レッチリの1st『The Red Hot Chili Peppers』はギルがプロデュース)での音楽的な饒舌さについて?

こうした彼の多面性を見事にとらえ、その魅力を語りかけてくるのが本作である。本稿で筆者ができることは、総勢20組いる“語り部”の中から数人を紹介することと、その雄弁さを伝えることだけだろう。

本アルバムは、現代UKポストパンクの雄=アイドルズによる「ダメージド・グッズ」で幕を開ける。ベースや歌メロをツイン・ギターに置換しつつ、あえて音程をずらしたチョーキングやトレモロ・ピッキングを用いることで、換骨奪胎(かんこつだったい) を果たした彼らの演奏は、本作の開幕宣言として実にふさわしい。

ギルのカッティングにおけるファンキーな側面に着目し、それらを発展&再構築したプレイも聴きどころだ。まずは、「ナチュラルズ・ノット・イン・イット」で参加したトム・モレロ。ほぼ全編に渡ってミュート・カッティングを入れることでラウドさを演出しながらも、エフェクティブなサウンドとチョーキングを用いたオブリを散りばめて、大胆かつ巧妙に独自の磁場を形成している。次に「ノット・グレート・メン」でのジョン・フルシアンテ。原曲では途中まで1&2弦3フレットで進行するリフなのだが、それを15フレットのハイ・ポジションに置き換えつつ、14フレットと12フレットでの装飾音を追加したアレンジを聴かせる。途中のディレイ・タイムを変化させながら録音したようなフィードバック・ノイズを交えつつ、歯切れの良い単音&コード・カッティングを駆使したシグネチャー・サウンドに昇華した。

ギルを自身のアイドルと語り、親交もあった布袋寅泰は、82年に発表されたEP『Another Day, Another Dollar』から「トゥ・ヘル・ウィズ・ポヴァティ」で参加。原曲に忠実なアプローチからはギルへの深い尊敬の念が、また骨太なカッティングからは、布袋がたびたび語る“音の切り方”の真髄が感じ取れる。

ここで述べた以外の“語り部”も、実に様々な方法で素晴らしい口上を聴かせてくれる。それらが惜しみなく収められた、この優れたトリビュート作によって、“稀代のアンチ・ギター・ヒーロー”であるアンディ・ギルの魅力を再発見/再確認していただければ、筆者としては本望である。

作品データ

『ザ・プロブレム・オブ・レジャー:ア・セレブレーション・オブ・アンディ・ギル・アンド・ギャング・オブ・フォー』
V.A.

ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ/GILL21CDJ/2021年6月4日リリース

―Track List―

DISC1
01.ダメージド・グッズ(アイドルズ)
02.ナチュラルズ・ノット・イン・イット(トム・モレロ&サージ・タンキアン)
03.イン・ザ・ディッチ(ヘルメット)
04.ウェア・ザ・ナイチンゲール・シングス(3D&ノヴァ・ツインズ&ギャング・オブ・フォー)
05.トゥ・ヘル・ウィズ・ポヴァティ(布袋寅泰)
06.ラブ・ライク・アンスラックス(ゲイリー・ニューマン)
07.ウィ・リブ・アズ・ウィ・ドリーム・アローン(ゲイル・アン・ドロシー)
08.アイ・ラブ・ア・マン・イン・ア・ユニフォーム(ヘルベルト・グレーネマイヤーfeat.アレックス・シルヴァ)
09.ノット・グレート・メン(ローンレディ)
10.5.45(JJステリー)

DISC2
01.ダメージド・グッズ(ラ・ルー)
02.ナチュラルズ・ノット・イン・イット(エヴリシング・エヴリシング)
03.リターン・ザ・ギフト(ダド・ヴィラ・ロボス)
04.ホワット・ウィ・オール・ウォント(ザ・ダンディ・ウォーホールズ)
05.パラライズド(ウォーペイント)
06.ノット・グレート・メン(フリー&ジョン・フルシアンテ)
07.アイ・ラブ・ア・マン・イン・ア・ユニフォーム(ザ・サウンズ)
08.ラスト・マイル(ハードコア・レイヴァー・イン・ティアーズ)
09.フォーエバー・スターツ・ナウ(キリング・ジョーク&ギャング・オブ・フォー)
10.ノット・グレート・メン(Sekar Melati)

―Guitarists―

マーク・ボーウェン、リー・キアナン、トム・モレロ、ジョン・フルシアンテ、布袋寅泰、ペイジ・ハミルトン、ダン・ビーマン、エイミー・ラブ、アレックス・ロバートショウ、コートニー・テイラー・テイラー、ピーター・ホルムストローム、ダド・ヴィラ・ロボス、エミリー・コーカル、テレサ・ウェイマン、フェリックス・ロドリゲス、ジョーディー・ウォーカー、他