モダン・ジャズ・ギター界の巨星、ケニー・バレル。その生誕90周年を記念したユニバーサル・ジャズによる企画“ケニー・バレル生誕90周年記念 SHM-CDコレクション”により、彼が1950年代の終盤から60年代にかけて録音した名盤およびレア盤10タイトルがリイシューされた。ここではそれらの作品を中心とした必聴プレイリストとともに、彼の経歴とプレイ・スタイル、愛器を振り返ろう。
文・選曲=久保木靖 Photo by Bob Parent/Hulton Archive/Getty Images
GM厳選〜ケニー・バレルのブルージィさを堪能するプレイリスト〜
“ケニー・バレル生誕90周年記念 SHM-CDコレクション”とブルーノート、アーゴ/カデット、ヴァーブのカタログから厳選10作品がリイシューされた。その中でApple Musicに公開されているアルバムから、彼のブルージィなプレイが堪能できる楽曲をプレイリストとしてまとめてみた。ひとつのコンピレーション作品としてぜひ楽しんでほしい。
スターダムにのし上がったブルージィ・スタイルの雄
“洗練されたブルージィ・フィーリング”……使い古されたこの表現がどうしても必要だ。米国南部のダウン・ホームなブルースマンや、その影響の強いスウィング・スタイルのジャズ・ギタリストとは違い、デトロイトという工業都市で育まれたそのセンスは、聴く者をあっという間にハードボイルドな大人の夜の世界へ誘い込む。そんな芸当ができる唯一のギタリストが、ケニー・バレルなのだ。
ケニー・バレル(1931年7月31日〜)は、10代でジャズに興味を持つものの、最初に憧れたテナー・サックスは高価なために断念し、代わりにギターを購入。同世代の多くのギタリスト同様にチャーリー・クリスチャンを研究して腕を上げると、同郷のトミー・フラナガン(p)やミルト・ジャクソン(vib)といったツワモノたちに揉まれ、デトロイト周辺でその名を響かせるまでに成長。1951年にはディジー・ガレスピー(tp)のレコーディングに参加するまでになった。
NYへ進出すると、さっそくブルーノートから『Introducing』(1956年)でリーダー・デビュー。タル・ファーロウやバーニー・ケッセルといった白人が席巻していた当時のジャズ・ギター界にあって、黒人(正確には混血)のバレルが提示したブルース・フィーリングは、折からのハード・バップ(ブラック・フィーリングが濃厚なジャズ)・ブームに合致し、瞬く間にスターダムへ。その後、プレスティッジやアーゴ、ヴァーブ、CTIといったさまざまなレーベルから、近年に至るまで多数のアルバムを発表してきた。中でも『Midnight Blue』(1963年)はジャズ・ブルースのバイブルと言ってもいい不朽の名作だ。
さて、“洗練されたブルージィ・フィーリング”の秘訣はどこにあるのだろうか。ビバップをベースとしたスタイルなのは大前提だが、その上でまず、“マイナー・ペンタ+♭5th”という音使いがあげられる。メジャー・キーでこれを使うと、♭3rd、♭5th、♭7thという3つのブルーノート音が組み込まれるのだ。バレルは、ここに9thと6thを足してフレーズを構成することが多い。
そのほか、チョーキングのニュアンスを再現した高音での素早いスライド・アップや、4音フレーズをくり返すリフレインなどがあるが、極めつけはコール&レスポンスの導入だろう。ホーン・セクションなどとやり取りすることもあれば、単音ソロとコード・バッキングの掛け合いを1人で行なうこともある。いずれにせよ、これにはブルースの原点を感じずにはいられない。
そんなバレルが愛用したギターは、初期のギブソンES-175Dや21世紀に入ってからヘリテージとコラボしたSuper KBなどあるが、やはり、多く演奏されてきたギブソンSuper 400CESにとどめを刺す。中でもバレルが使っていたのは、1961〜1968年に生産されたポインテッド・カッタウェイのモデル。これは一般的なラウンデット・カッタウェイのモデルよりも切り欠けが大きいために、よりハイ・ポジションにイージーにアクセスできることが重要な決め手だったようだ。
生誕90周年記念リイシュー作品を紹介!
今回、1950年代終盤からの約10年間にリリースされたブルーノート、アーゴ/カデット、ヴァーブ作品の中から、初SHM-CD化タイトルを中心とする10作品がピックアップされてリイシューされた。『A Night At The Vanguard』(1960年)や『A Generation Ago Today』(1967年)といった定番のコンボ作品から、ガット・ギターとオーケストラの共演もある『Ode To 52nd Street』(1967年)やウェス・モンゴメリーへのトリビュート的な意味合いもある隠れ名盤『Night Song』(1969年)などに改めて脚光が当たることを喜びたい。