岡田拓郎をナビゲーターに迎え、カテゴライズ不可能な個性派ギタリストたちの作品を紹介する連載、“Radical Guitarist”。今回は映画音楽なども手がけるサンフランシスコ・ベイエリアの重要人物、ヘンリー・カイザーについて話をしよう。
文=岡田拓郎 デザイン=山本蛸
今回紹介するギタリストは……
ヘンリー・カイザー(Henry Kaiser)
◎生年月日/1952年9月19日
◎出身地/アメリカ・カリフォルニア州サンフランシスコ
◎使用ギター/Fender Stratocaster
脈絡のない多様なバックグラウンドから、独自の音楽性を形成していく。
40年に渡り、他の追随を許さぬラディカルなギターの実験を続けてきたエクスペリメンタル・ギタリスト、ヘンリー・カイザー。作曲家、即興演奏家、民族音楽学者、映画音楽作曲家といった音楽業のみならず、フリーランスのリサーチ・ダイバーとして南極へ幾度も訪れたりと、異色の経歴を持つことでも知られている。
1952年、カリフォルニアに生まれたカイザーは、ベイエリアで育った多くの同世代のミュージシャンと同様に、グレイトフル・デッドやクイックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィスといったサイケデリック・ロックやブルースなどを聴いて育つ。そして、ほかにもアジアやアフリカの伝統音楽、モートン・フェルドマン、イアニス・クセナキス、武満徹といった実験音楽など、多様な音楽に触れながら音楽的な表現を蓄えていった。
彼が特にフェイヴァリットに挙げている音楽家には、キャプテン・ビーフハートやマハヴィヌシュ・オーケストラ、テリエ・リピダル、ロビー・バショウなどが並び、その脈絡のなさが彼の音楽性を表わしているようにも思える。
ジャンルや文化を横断して多数の作品を作り上げていく。
ユージンチャド・ボーン作品への参加を皮切りに1970年代後半から即興演奏シーンで頭角を現わし、その後もデヴィッド・リンドレーとともにマダガスカルの現地ミュージシャンとの(植民地支配型ではない)録音、韓国や日本の伝統音楽奏者との接近、ジム・オルークやネルス・クライン、デレク・ベイリーといった世代もスタイルも異なる多くの音楽家と共演してきた。彼の膨大な作品の数々は、ジャンルや文化を超えて今なお驚異的なペースで増え続けている。
このなんとも一言で形容不可能なカイザーであるが、自身のギター・スタイルについては3つの要素を挙げ言及している。
「即興ギタリスト、サイケデリック・ギタリスト(ジャンルとしてのサイケではなく自身のギターから出てくるものは心を広げるものでなければならないという意味で)、そして実験的ギタリスト。この3つの要素を組み合わせることが、私がギターと過ごしてきた年月の目的なのです」
一度耳にしていただければ共感してもらえると思うが、彼の音楽は非常に実験的でありながら、実験音楽におけるある種の小難しさや暗さのようなものとは無縁のように感じる。彼の音楽は“驚き”をシンプルな形でストレートに知覚させ、聴き手を楽しませ続けている。
ギター・サウンドに関しては、エフェクトを多用したバリエーション豊かな音色を聴かせる(エフェクター収集家としても知られる!)。特にディレイとピッチシフターを組み合わせ、フィートバック音を実音とは異なる音程に変調させたアプローチはトレードマークと言えるだろう。それらの変調率は自然治癒リズムである、心拍数または呼吸数などに設定されているとのこと。
使用ギターは、初期の頃はストラトキャスターやES-335を手にしているが、近年はクライン・ギターを始めとした様々なコンポーネント・ギターを使用。アンプはダンブル・アンプを愛用している。
著者プロフィール
岡田拓郎
おかだ・たくろう◎1991年生まれ、東京都出身。2012年に“森は生きている”のギタリストとして活動を開始。2015年にバンドを解散したのち、2017年に『ノスタルジア』でソロ活動を始動させた。現在はソロのほか、プロデューサーとしても多方面で活躍中。