イカサマイマサ『さわがしいノマド』 イカサマイマサ『さわがしいノマド』

イカサマイマサ
『さわがしいノマド』

昔のヒトに「ミュージシャンです」とか「バンドやってます」と言うと、「浮き草稼業かい」とか「根なし草にはなるんじゃないよ」などと、あまり歓迎されてなさげな反応しかもらえなかったので、20代の頃とかは「ご職業は?」と尋ねられるのがとても嫌だった。だからって「音楽家です」と名乗るのもどこか憚られるものだから、例えば何らかの書類に職業欄があったりすると困った。“商業音楽家”とか“実演作曲家”とか妙竹林な造語を捻り出しては、記入したあとで後悔していた。

“ギタリスト”と書く度胸、必要だったのになぁ。

もちろん同業者と集っている時は、それなりにイキっていた自覚はある。けれど、そうではない場にはなるべく行かないように、うっかり踏み入れた際には、目立たぬように、堅気のヒトに見えるように努めて振る舞っているつもりなんだ、と言うとよく笑われる。あれれ?

夜はスナックなのだけど、不定期で昼間に店内のジュークボックスのポップスやオールディーズをかけっぱなしにして珈琲を出している店があって、自分のようなオコチャマでも客として扱って(というか放置して)くれる不思議なノリだったので、高校生の頃かな? 1人で時々通っていた。

ある日、どう見ても東映実録映画で取り上げられている系の雰囲気を醸し出す年配の男性が先客で居た。目が合った。“視線はずしたら負けだ、ガキだと思われてたまるか”と16歳男子はどこまでも怖いもの知らずなのだ。男性は座ったまま、静かだけどとても通る声で「やたらそう言う目で人様を見ちゃいかんぞ」と言った。それだけでこちらはもう完敗です。なのに「こういうところは、自分の金で来るもんだぞ」と続けられたら、もう恥ずかしいやら悔しいやらで、即死だった。なのに店主は顔色ひとつ変えずに自分のテーブルに珈琲を置きに来るものだから、たまらない。小声で店主となにかを話しているものの、それっきりこちらには見向きもしない年配男性の凄みというか、カッコよさにあてられて、どうやって帰ったのか覚えていないけど、それっきり高校を卒業するまでその店に行くことはなかった。

ハコバンでギターを弾くようになった頃、一度昼間にそこを訪ねたことがある。やってなかった。次に訪ねた時は区画整理でもあったのか両隣の二階建てと共に消え、マンションみたいなビルが建っていた。

過日、打ち合わせで行った、いまだに昭和の雰囲気を残している喫茶店でのこと。先客に動画サイトか何かで顔を見たことのありそうなお兄さんがいて、その後輩風の青年と二人、とてもカンにさわる笑い声を立てながら大声で随分とエグい話を交わしていた。自分は打ち合わせの相手に「先に着きましたが満席でした。場所を変えましょう」と、そっとメッセをして、その店をあとにした。なぜか、ふと、高校時代のあの年配男性のことを思い出したので書いた、自分が高校生の頃の恥ずかしい話でした。

あの店のあったエリアや1975年くらいという時代を考えると、“あの年配氏はもしや?”と思い当たる節があったので、気になった人名で画像検索をしようと…したけど、やめた。騒がしいノマドのことを、静かな通る声で一喝できるようになってからでいいや。

ではまた!

いまみちともたか

INFORMATION

YouTubeチャンネル始動!!

いまみちともたかのYouTubeチャンネルが始動! その第一弾動画として「うまくやれ-Reboot-」のMVが公開された。今後の動向も要チェック!

ソロ・アルバムに先がけ、先行2曲が配信中!

「うまくやれ -Reboot-」
いまみちともたか、そして浜崎貴司
「ブリキのギターに愛を込めて」
いまみちともたか

Profile

いまみちともたか

いまみちともたか◎1959年生まれ。BARBEE BOYSのギタリストとして1984年にデビュー後、佐野元春や井上陽水のレコーディングに参加するなど、多方面で活躍。ほかにも、椎名純平らとのヒトサライ、自身がホストとなってゲストを迎えるスタジオ・ライブ・シリーズ=“カメを止めるな”を主催するなど、精力的に活動中。

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