マニュエル・ゲッチング『E2-E4』  岡田拓郎の“Radical Guitarist”第13回 マニュエル・ゲッチング『E2-E4』  岡田拓郎の“Radical Guitarist”第13回

マニュエル・ゲッチング『E2-E4』
岡田拓郎の“Radical Guitarist”第13回

岡田拓郎をナビゲーターに迎え、カテゴライズ不可能な個性派ギタリストたちの作品を紹介する連載、“Radical Guitarist”。第13回はマニュエル・ゲッチングが1984年に生み落とした『E2-E4』。のちにサンプリング・ソースとしてテクノ/ハウスの定番となる1枚だが、このビートとギターの組み合わせは現代のギタリストにこそ聴いてほしい。

文=岡田拓郎 デザイン=山本蛸

今回紹介する作品は……

『E2-E4』
マニュエル・ゲッチング

Inteam GmbH/ID 20.004/1984年リリース

―Track List―

01. Ruhige Nervosität
02. Gemäßigter Aufbruch
03. …Und Mittelspiel
04. Ansatz
05. Damen-Eleganza
06. Ehrenvoller Kampf
07. Hoheit Weicht (Nicht Ohne Schwung…)
08. …Und Souveränität
09. Remis

テクノ/ハウスの原石となった実験作

早すぎたテクノ/ハウスの金字塔としてのちのトラックメイカーたちに大きな影響を与えた『E2-E4』の制作者が、サイケデリック・バンド出身のギタリストということは、もしかしたらあまり知られていないかもしれない。

マニュエル・ゲッチング(Manuel Göttsching)を中心に、1970年ベルリンで結成されたアシュ・ラ・テンペル。初期はジミ・ヘンドリクスやピンク・フロイドに影響を受けたスペイシーな即興的ジャムを中心としたスタイルだったが、次第にプリ・テクノ的な電子シーケンスを多用した作風へと変化していく。

マニュエル自身のソロ・アルバムである本作も、その流れの中に位置している。この変化の背景にはフィリップス・グラスやスティーヴ・ライヒといったミニマル・ミュージックへの傾倒、そして当時のシンセサイザーの劇的な進化が挙げられるが、当初マニュエル自身はディスコやファンクといったダンサンブルな音楽を目指していたわけではなく、あくまで電子音や反復が織りなす瞑想的なサイケデリアに取り憑かれていたのだと想像する。が、本作は海を越え、ニューヨークはクラブ・ミュージックのメッカ=“パラダイス・ガラージ”でラリー・レヴィンがプレイしたことで、テクノ/ハウスとしての人気に火がつく。この話を聞いたマニュエルは、このレコードで踊っている人がいることに驚いたとか……。

淡々と変化し続ける電子音のマシン・シーケンスの上を、エモーショナルなギターが軽やかに滑るアシュラ後期からの作風を踏襲するが、1時間近い曲全長と、削ぎ落とされたエレクトロ使いに、これまでの総決算的な強度を感じさせる。

テクノ以降の耳にはこのマシン・ビートに対してブルージィなギターが弾きまくるさまは少々いびつに感じるかもしれないが、マニュエルは本作のリファレンスにミニマル・ミュージックとピーター・グリーンを挙げている。なるほど、フリートウッド・マック「アルバトロス」〜マニュエル・ゲッチング「E2-E4」という流れは、どちらも当時の本人たちの意図やギター・ミュージックの分脈とは離れ、片やアンビエントの源流として、片やテクノの源流として後世のミュージシャンやリスナーに親しまれている、というのはとても興味深く思える。

著者プロフィール

岡田拓郎

おかだ・たくろう◎1991年生まれ、東京都出身。2012年に“森は生きている”のギタリストとして活動を開始。2015年にバンドを解散したのち、2017年に『ノスタルジア』でソロ活動を始動させた。現在はソロのほか、プロデューサーとしても多方面で活躍中。

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