マルチ弦楽器奏者の高田漣を講師に招き、マンドリン、バンジョー、ウクレレ、ラップ・スティールといったギター以外の弦楽器を学んでいこうというこの連載。最終回となる今回は、スティール・ギターの弾き方を見ていきましょう。
文:高田漣 写真:八島崇
第5回(最終回):スティール・ギターに挑戦!
源流のハワイアン・スタイル
このところ趣味で19世紀後半から20世紀初頭の英米の文学作品を読みふけっているのですが、およそ今から百年前の人々も21世紀を生きる私たちとさほど変わらぬことを憂い、悩み、換言すれば人類はことのほか進化どころか進歩すらしていないのだという
だが、この約1世紀ギターを取り巻く環境は人類のそれ以上に劇的な変化を経験しました。百年前のジャズエイジの聴衆が現代をみると、まずギターの電気化に驚くでありましょうが、
ハワイでスティール・ギターが誕生した魅惑的な物語は以前この連載に記したので割愛しますが、この20世紀初頭のハワイのギタリストたちの多くは職を求めて合衆国本土へ向かいました。そんな綺羅星のごとく活躍した名手の中でも、とりわけ現在でも光輝く存在がソル・ホーピーであります。
彼の発明と云われるC♯mチューニング(B・D・E・G♯・C♯・E)は、ギターの特殊奏法であったハワイアン・スタイルにおいてギターの調弦にもとづいたセット弦からの脱却を果たしました。本来5弦目の弦を6弦に、その5弦目には4弦とほぼ同じゲージを用いたのです。
ですが、今回の譜例ではギターと親和性の高いE6/C♯mチューニング(6弦からE・B・E・G♯・C♯・E)で記しましょう(写真1)。
この調弦はアコギ界では定番のD6チューニングの1音上でありますが、通常の押弦の奏法とは違い、本来バーの一列上でしかハーモニーを選べないスティール・ギターの場合には必要性がより顕著になります。6度の音があることによってマイナーなどの和音にも対応が可能になるのです。ブルースなどのスライド奏法との一番の違いはキーに関わらず、その調弦を使用する点です。とはいえデュアン・オールマンやローウェル・ジョージなどひとつの調弦であらゆるキーを演奏する達人も存在しますが。
さて、この調弦とキーが同一の場合、開放弦と12fがトニック、5fがサブドミナント、7fがドミナントと成ります。まずはこの調弦とキーの違うパターンに慣れるためにスティール・ギターの定番曲「スリープ・ウォーク」(Ex-1)をモチーフにトライしてみましょう。エイモス・ギャレットやブライアン・セッツァーなどの名演でも知られるこの名曲は、サント&ジョニー・ファリーナというイタリア系の兄弟デュオの1959年のNo.1ヒット曲。スティール・ギターのしかもインスト曲として唯一の栄冠を手にした楽曲であります。
キーはC。8fがトニック、1fがサブドミナント、3fがドミナントですが、3fの1と2弦がミとソ、つまりCの3度と5度であるのでこの2音でトニックにも成り得るのです。さらに3弦目はシなのでCメジャー7thの響きに、さらには平行関係のAmでいうとm9thともなるわけで、これが独特な白昼夢的な雰囲気作りに重宝されます。ちなみにサントがオリジナル録音の際に使用したチューニングはいまだに謎のままであります。
続きはアコースティック・ギター・マガジン2022年3月号 Vol.91をご覧下さい!
高田漣 Profile
1973年生まれ。2002年、アルバム『LULLABY』でソロ・デビュー。現在まで7枚のオリジナル・アルバムをリリース。自身のの活動と並行して、他アーティストのアレンジ及びプロデュース、映画、ドラマ、舞台、CM音楽を多数担当。ギターだけでなく、ペダル・スティール、ウクレレ、マンドリンとさまざまな弦楽器を操る。父はフォーク・シンガーの高田渡。
公式サイト:https://rentakada.com/