2021年の正月から1年間の予定で始めたこの連載も、今回を入れてあと二回で終了です。15ヵ月のお付き合い、ありがとう。当初「独特の音色作りや奏法、ギター人生にまつわる思い出などを中心に、好きに書いてくれてかまわないですから」と言われたのだけど、「好きに書いてかまわない」のとこだけしか聞いてないような“書き散らかしっぷり”だという自覚があるので、担当氏には少し申し訳ない気もしている。
「ギター専門誌ということもあって読者のほとんどは、いまみちさんより若い世代になると思いますから、こんなこともあったんだよ、などと経験から得たいろいろを書いてくれたら喜ばれると思います」そう言われたことは覚えているんだけど、脱線ばかりだったんじゃないかしら。そこで今回は、つじつま合わせのようだけど、自分が初めてギターでお金をもらったハコバン期に覗き見た“偉大な先輩ミュージシャンたち”のことを書きます。
今回は、連載始めの頃に書いたオーディションにめでたく採用され、ハコバンとして毎晩演奏することになってからの話。
そこは、ハコバンというと思い浮かべがちな“演歌や歌謡曲が中心の演奏”というのがまったくなく、60年代70年代の洋楽がレパートリーの中心ということもあり、GSのメンバーだった人や、ロック好きの数少ない(ほんとに少ない)常連さんでもっている店だった。今考えると、よく我々に毎月毎月ギャラ払ってくれてたよなぁ。
ある晩のこと。成毛滋、エディ藩、柳ジョージの御三方が連れ立って店に入ってきた時はドキドキした。自分が中学生の頃に手に入れたGrecoギターには当時、もれなく『成毛滋のロックギターレッスン』という教則カセットが付いていたのだ。だから成毛滋といえば自分らの世代にとってはロックギターの大先生みたいな人。そこに柳ジョージ&レイニーウッドとしてすでにヒット曲を持っていた、“和製エリック・クラプトン”の異名を持つ柳ジョージ。加えてGS企画外のロック・バンドとして超有名だったザ・ゴールデン・カップスのギタリスト、エディ藩まで! “なんでこの3人がこの店に揃ってるんだ。もしかして俺、なんかすごい店でハコバンやってんじゃないか?”と舞い上がった。後年、各氏の歴史を掘って全員繋がっていたことを知ることになるのだけど、その時は知る由もなかったし。
自分らの盛り上がりに欠ける拙い演奏の終盤、店のオーナーが柳氏に“バンドをバックに「Georgia on My Mind」を歌ってほしい”とリクエスト。「いいよ、じゃキーCね」とステージに上がってきた! テーブルに近い下手側に居たばっかりに、成毛氏に「俺が弾くよ。ピックも貸してくれる?」と言われ、俺のギターは成毛滋の腕の中。当時はべっ甲の五角形ピックを使っていたのだけど、「こんな硬いのじゃ弾けないな」とオードブル皿から胡瓜スライスを摘むとそれで弾いた。アレはマジだったのか、かまし芸としての行為だったのかは未だに謎のまま。だけど自分のギターがよりにもよって胡瓜スライスで弾かれているのを黙って見ているのは、大先生の仕業とは言え悔しい。いい音出してたぶん、余計に?。
で、エディさんはニヤニヤと座って演奏を聴いていたっけ。だから閉店後、上手側に居たもう一人のギターに「柳ジョージと成毛滋と共演した」と自慢され、二度悔しかったな。
その代わり、当時はもうクリエーションに参加していたアイ高野氏が、ドラムを叩きながらザ・カーナビーツ時代のヒット曲を歌った晩、“おまえのすべってぇ~”のアクションをギターを弾きながらずっと右目で追っていたのは自分だったから良し?。
あと、クールスのジェームス藤木氏がステージに上がってきた晩に、「ジョニー・B.グッド」をやったのだけどKey=Aで始めてしまい、とても不機嫌な顔をされたこともあった。皆さん、チャック・ベリーのスタンダード・ナンバー、「ジョニー・B.グッド」のキーはB♭なんですぜ?。
また違う夜、ジョニー大倉氏が店に入ってきた時には、もうどーしようか、と本気で緊張した。大好きだったキャロルのあの曲やこの曲のイントロやソロを、エアー弾きして構えて待っていたのだけれど、氏はひたすら飲んで酔っ払ってお帰りになりました。あはは?。
たまたま縁があって飛び込んだハコバンの世界で、垣間見ることができた先輩ミュージシャンたちのリアルな姿からは、無意識にせよ、なんらかの刺激をもらったんだと思う。自分が今はしなりのある柔らかいピックで弾くようになっているのは偶然じゃないのかも?
ではまた!
いまみちともたか
INFORMATION
2022年東名阪Live Tour
4月2日(土)/名古屋 HeartLand
4月3日(日)/大阪 南堀江 knave(2公演)
4月9日(土)/二子玉川 GEMINI Theater(2公演)
※各公演詳細は公式HPをチェック!
Profile
いまみちともたか
いまみちともたか◎1959年生まれ。BARBEE BOYSのギタリストとして1984年にデビュー後、佐野元春や井上陽水のレコーディングに参加するなど、多方面で活躍。ほかにも、椎名純平らとのヒトサライ、自身がホストとなってゲストを迎えるスタジオ・ライブ・シリーズ=“カメを止めるな”を主催するなど、精力的に活動中。18年ぶりのソロ・アルバム『Uta-MONO』が、2022年2月16日にリリース。
INFORMATION
2022年東名阪Live Tour
4月2日(土)/名古屋 HeartLand
4月3日(日)/大阪 南堀江 knave
4月9日(土)/二子玉川 GEMINI Theater
※各公演詳細は公式HPをチェック!
作品データ
『Uta-MONO Tomotaka IMASA Imamichi』
いまみちともたか
D.SKH-E/DSKH-2106/2022年2月16日リリース
―Track List―
01. ブリキのギターに愛を込めて-Tin man’s Ax-
02. SPICY-月下絶頂美人-
03. The 80’s-エイティーズ-
04. -AREEGATO- あり~がとう
05. J@B T@LK
06. パレードは中止 -lockdown parade-
07. 夢遊 -dream play-
08. カリスマ-Charisma-
09. 嘘のようなマジな話 -Truth lies here-
10. ぼくらのバックナンバー -centerfold mystery-
11. All Okay
12. 「うまくやれ」-Reboot-
13. How Do You Do?
―Guitarist―
いまみちともたか