リック・コックス『Maria Falling Away』岡田拓郎の“Radical Guitarist”第19回 リック・コックス『Maria Falling Away』岡田拓郎の“Radical Guitarist”第19回

リック・コックス『Maria Falling Away』
岡田拓郎の“Radical Guitarist”第19回

岡田拓郎をナビゲーターに迎え、カテゴライズ不可能な個性派ギタリストたちの作品を紹介する連載、“Radical Guitarist”。第19回は後期“第四世界”のサウンドを支えた名手、リック・コックスの『Maria Falling Away』をピックアップ。一般的なギターの概念から逸脱した、独自のアプローチによるサウンド・メイクに注目して聴いてほしい。

文=岡田拓郎 デザイン=山本蛸

今回紹介する作品は……

『Maria Falling Away』
リック・コックス

Cold Blue Music/CB0006/2001年リリース

―Track List―

01. All The While Towards Us
02. Maria Falling Away
03. Beige 2
04. The Years In Streams
05. Long Distance
06. All The While Towards Us II

ギターの一般概念を飛び越える
“プリペアド奏法”でのアプローチ

ライ・クーダーに“薄明かりと透明感を操る隠れた名手だ(the hidden master of the crepuscular and the diaphanous)”と言わしめたギタリスト、リック・コックスの2001年作。後期第四世界のサウンドを寡黙ながら的確なプレイで支えてきた彼が、1990年から2001年までに書き溜めた6曲が収録されている。

コックスの奏法の特徴としては、プレパラート、スポンジ、ブラシ、ステンドグラスなどを弦に挟んだり擦り付けたりする“プリペアド奏法”が挙げられる。本作で聴けるゆったりと漂うドローンも、ギターによるものとは思えないほどギターとしての記号性は剥奪されているが、微かに聴き取れる金属の摩擦音からはまさにギター的な手触りを感じ取ることができるだろう。

ビル・エヴァンスとサミュエル・バーバーを手本にしたという冒頭の「All the While Toward Us」は、コックスと近いスタイルを持つペダル・スティール奏者=チャス・スミスとのデュオによる、教会に響く美しい賛美歌の残響音だけを抽出したようなギター・アンビエント名演。ジョン・ハッセルとのコラボレート曲「The Years in Streams」は、22分の長尺にも関わらず冒頭からほとんど何も起こらないまま曲は終止符を打つが、風景が描かれた名画を目の前にした時のような感覚に陥るほど、このままで十分すぎるほど美しい。

著者プロフィール

岡田拓郎

おかだ・たくろう◎1991年生まれ、東京都出身。2012年に“森は生きている”のギタリストとして活動を開始。2015年にバンドを解散したのち、2017年に『ノスタルジア』でソロ活動を始動させた。現在はソロのほか、プロデューサーとしても多方面で活躍中。

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