新世代のシンガー・ソングライター/ギタリスト、崎山蒼志の連載コラム。1人のミュージシャンとして、人間として、日々遭遇する未知を自由に綴っていきます。 月一更新です。
デザイン=MdN
ある日、サウンドホールの奥を見つめている時に。
ギターは部屋のようだと思う時があります。特にアコースティック・ギターはサウンドホールが空いており、中が覗けます。覗くために顔を近づけると、木の良い香りが鼻に当たり、私はどことなくそのギターの産地である国を想うのです。
中は空洞で、ボディの曲線を内側から見ていると、職人さんの技術に改めて感嘆します。そうしてある日、サウンドホールの奥を見つめている時にハッと、「ギターを手にすることはある種空間を所持することで、それは手元に小さな部屋を持つようだ」という考えが浮かびました。ギターのボディ(素材は木に限らず)や中の空洞は、私の暮らす部屋の空気をも染み付かせます。例えば公園に行き、そこでギターをかき鳴らせば、ギターを通して私の暮らす部屋と公園はつながるかのような感覚になるのです。ギターは私の部屋の一区画と化し、またそれ自体が時として遠い国から遥々やって来た、孤立した部屋でもあるのです。長い歴史、産地の職人の手際、あらゆる時間を湛え、今ここにある「移動する場所」という楽器の1つです。そうして音色で今この瞬間を満たす。そう考えるとワクワクしてきますし、緊張の場面も、部屋と共にあると思うと(?)リラックスして臨めそうですね。ギターは(私の)小さな部屋。ギターをこれからも大切に、たくさん弾くことで、様々な景色をギターに繋げ、私自身もギターを通じてたくさんの人や場所と出会い、繋がってゆきたいです。
そんなことを思ったのも、スペイン製のとあるガット・ギター(次の写真)を家で弾いていたからでして、私は近頃またガットの魅力、クラシック・ギターの魅力に取り憑かれる思いでいます。ガット・ギターはそのふくよかな音色から、単音でも歌を支えてくれる印象があり、歌と一緒にメロディを紡ぎ出せる気がするのです。
私がガット・ギター奏者として憧れているのは、素晴らしいシンガーでありながらトロンボーン奏者であるリタ・パイエスの母、エリサベト・ローマ。彼女のプレイは、非常に丁寧かつ、繊細で、心地が良いです。リタ・パイエスの歌に寄り添いながら、前に出るところではしっかり前へ出つつ、基本的には優しいタッチで、時に心の琴線と共振するほど抒情的に奏でられます。彼女のギター・プレイにおける抑揚の表現が好きです。
フレージングは時にどことなくジプシー・キングスを連想させられる哀愁漂うもので、ラテン、フラメンコからさらにはブラジル音楽まであらゆる音楽を感じさせられます。弾きすぎず、あくまでもリタ・パイエスの歌やトロンボーンの隣にいる、といったクールなフレージングばかりで、まさに娘を見守る母親のように優しさで溢れている風に感じられます。私は『COMO LA PIEL』というアルバムが大好きです。お薦めです!
日々練習だなと感じます。やはりギターと向き合う時間が、技術向上にもギターと仲良くなるにも一番大事ですよね。最近はYouTubeなどでたくさんの素晴らしいギタリスト、ギター講師の方が親切に練習法を教えてくれる動画が山ほどあるので、自分の練習方法が凝り固まってしまわないためにも、日々観ては勉強しています(ギターの解説動画はインターネットの中でもあまりにも恩恵のあるコンテンツだと感じています)。もっと練習して、エリサベト・ローマくらい丁寧で余裕のあるギターを弾けるようになれるよう、精進したいです。
最後に、ギターでない話題になるのですが、最近初めてアナログ・シンセサイザーを購入しました(上の写真のギターの下)。MoogのMother-32というモデルです。ギターや、ギターに関わる機材もそうですが、やはり新しい楽器は胸躍りますし、その楽器自体に詰め込まれたたくさんの可能性にある種心が無になり、無我夢中で音楽と向き合える感覚になれるのが、好きです。まさしく未知との遭遇。大切にします。
著者プロフィール
崎山蒼志
さきやま・そうし。2002年生まれ、静岡県浜松市出身のシンガー・ソングライター。現在19歳。2018年、15歳の時にネット番組で弾き語りを披露、一躍話題に。独自の言語表現で文芸界からも注目を浴びている。