1969年4月26日、ジミ・ヘンドリックスがLAフォーラムを沸かせた一夜 1969年4月26日、ジミ・ヘンドリックスがLAフォーラムを沸かせた一夜

1969年4月26日、ジミ・ヘンドリックスがLAフォーラムを沸かせた一夜

ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの『ライヴ・アット・ザ・LAフォーラム』がついに発売となった。1969年4月26日に米LAフォーラムで行なったライブを収めた1枚で、初めて公式の完全版として単独作品化されたものだ。今回はその一夜の物語を、演奏楽曲のレビューとともにお送りしよう。

文=fuzzface66 Photo by Don Klein/Authentic Hendrix LLC

バンド内の“緊張状態”がもたらしたものとは?

また1つ、公式リリースが待ち望まれていたジミのライブ・アルバムが登場した。『ライヴ・アット・ザ・LAフォーラム』──1969年4月26日、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスがロサンゼルスのザ・フォーラムで行なった、約1時間20分に及ぶステージの模様が収録されている。

このライブ音源の一部は、1990年に『LIFELINES -The Jimi Hendrix Story』と題したボックス・セットの中の1枚としてアメリカでリリースされた。今回はその全貌が収録されたうえ、オリジナルの8トラック・マスター・テープからエディ・クレイマーが新たにミキシングを施した、最高の状態に仕上げられている。各楽器の音像がよりクリアになっているのはもちろん、会場の匂いまで伝わってきそうな空気感にも驚かされるはずだ。

ライヴ・アット・ザ・LAフォーラム
ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス

【収録楽曲】

  1. イントロダクション
  2. タックス・フリー
  3. フォクシー・レディ
  4. レッド・ハウス
  5. スパニッシュ・キャッスル・マジック
  6. 星条旗
  7. 紫のけむり
  8. 今日を生きられない

    メドレー
  9. ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)
  10. サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ
  11. ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)

このLAフォーラム公演は、1969年4月11日から始まったジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスの(結果的にラストとなった)アメリカ・ツアーの一部だ。このツアーには、莫大に膨れ上がったスタジオ使用料を工面するために企画されたという側面があるが、それはジミが次なる段階へのシフト・チェンジを模索してスタジオでチャレンジをくり返していた証でもある。しかし、それと同時に、ジミの“頭の中で鳴っているサウンド”をスタジオで追及する作業は、それに延々と付き合わされるメンバーとの間に亀裂を生じさせる原因にもなっていた(まとめ役になってくれていたプロデューサーのチャス・チャンドラーが離れてしまったことも大きな要因だ)。

特にベースのノエル・レディングとジミの間で前年から燻り続けていた火種は、ノエルが自身のバンド“ファット・マットレス”を結成したあたりからほぼ修復不可能な状態にまで陥った。ジミも、軍隊時代からの盟友でベーシストのビリー・コックスとコンタクトを取り、“時期が来たらまた連絡する”と密約するなど、グループとしてはかなりの“緊張状態”でこのツアーをこなしていたことになる。

そんな“緊張状態”のグループがプレイするステージの出来は、たいてい良いか悪いかの二通りしかない。このLAフォーラム公演は、それが良い方向に作用した好例と言える。

3人の個性が熱くぶつかり合う

オープニングの「Tax Free」から10分を越えるジャムで飛ばすジミに、ノエルとミッチも負けずに応戦。ライブ冒頭からすでに3人の熱い火花が飛び交っている。ラージ・ヘッドで貼りメイプル指板のネックを持つオリンピック・ホワイトのストラトキャスターを源流に、ワウ・ペダル(おそらくVOX製Clyde McCoy)やFuzz Faceといったエフェクト類も時折駆使しながら、後方に並べられたフル・スタック・マーシャルを震わせる(会場にあわせて3台のうち左の1台はオフにしているようだ)。そんなジミのサウンド・マジックの実態も如実に伝わってくる。

続いて興奮状態のオーディエンスの歓声とともに始まる「Foxy Lady」は、おそらくシリコン・タイプであろうFuzz Faceの、ミドル域から突き抜けるようなドライブ・サウンドが強烈。ソリッドなウネリと、ほとばしる残響音が、“惑わせる女”の姿を描き出す。

そして“アメリカの魂とはこういうものじゃないかな?”と語りかけて始まる「Red House」は、貼りメイプル指板ならではの音の立ち上がりの良さと、ジミのピッキングとの絶妙なコンビネーションによる最高のブルース・リックが心地良い。そこから徐々にドライブしてミッチのドラムとともに駆け上がり、ノエルのジャジィなベース・ラインとともに、ボディやネック裏を叩いてパーカッション的な彩りを加える。その後、色気たっぷりなワウ・ペダルを使った独奏に移る、というこの時期の定番スタイル。

続く「Spanish Castle Magic」も、飛ばしまくるジミにノエルとミッチが食らいついていくという10分超の構成だが、このようなジャム形式の展開こそ、当時ジミが構想していた“新しい音世界”のための青写真を描くのに必要不可欠な要素だったのだろう。

そして、この頃からすでにステージで頻繁に取り上げられるようになった、「Star Spangled Banner」へ。混沌としたサウンド・コラージュで展開されるジミ流のアメリカ国歌は、当時の反戦運動や人種差別問題といった政治情勢を反映した象徴的な曲として受け止められ、このツアー中にはブラック・パワーの支持者から“白人側に加担している”として激しく非難されたりもしている。

そのまま、のちにウッドストックでも披露されてお馴染みの流れとなる「Purple Haze」へとなだれ込むと、再びオーディエンスが沸き(手拍子まで聴こえる)、ジミもテンションを保ったままソロを展開し“歯弾き”も披露。また、この頃の「Purple Haze」が持つグルーヴ感には、自己主張し始めたノエルのベース・ラインもかなり貢献している(彼のベスト・テイクとしてはLAフォーラムよりもサンディエゴを推したいが)。

続くネイティブ・アメリカンのチャントのようなミッチのドラム・パターンで始まる「I Don’t Live Today」でも、熱いテンションを保ったままの3人の個性がぶつかり合う。特に後半のジミは弾きまくり状態である。

この時点で、もう何度オーディエンスに静止するよう求めたのかわからないが(終始“座ってくれ”という素っ気ない言い方をするノエルとは対称的に、ジミは、“リラックスして”、“心を1つにしよう”など、常にオーディエンスに語りかけるように諭している)、そんな興奮状態の会場で展開されたステージのラストを飾るのが「Voodoo Child (Slight Return)」だ。途中、クリームの「Sunshine Of Your Love」を挟み込み、再び「Voodoo~」へと戻る17分近くにも及ぶスペシャル・メドレー。エッジの利いたロック・テイストなラインを紡ぎ出すノエルのベースと、ポリリズムとシンコペーションを利かせてグルーヴするミッチのドラム。それをバックに“Fuzz Face+ワウ”という天空を突き抜けるようなハイ・トーンを何度も放つジミ。この時、きっとジミはストラトのヘッドを天井に向けて、のけ反っていたことであろう。

まさにこの日のラストに相応しい出来栄えで、ショウ全体をとおしても間違いなくハイライトだった。熱演を終えた3人に拍手が送られる中、ジミはピース・サインを返してステージをあとにしたという。

しかし、結局グループが抱えていた“緊張状態”はどうすることもできず、6月のコロラド州デンバー公演を最後に、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスは解散。以降ジミはウッドストックへ向けて次なる段階へ本格的にシフト・チェンジしていくが、このアメリカ・ツアーではほかにも名演に数えられるステージがいくつか存在するのもまた事実である(オークランド・コロシアム、マディソン・スクエア・ガーデン、サンディエゴ・スポーツ・アリーナなど)。

ともかく、このLAフォーラム公演はもとより、ジミの夭折からも、もうかれこれ50年以上もの歳月が流れたわけだが、いまだに新しいファンを獲得し続けるその理由は、生前ジミの燃えたぎっていたエネルギーが尋常ではなかったことにほかならない。そんなエネルギーの一端を垣間見ることのできる本作を、ぜひともじっくり堪能していただきたい。

作品データ

ライヴ・アット・ザ・LAフォーラム
ザ・ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンス

ソニー/SICP-6490/2022年11月18日リリース

―Track List―

  1. イントロダクション
  2. タックス・フリー
  3. フォクシー・レディ
  4. レッド・ハウス
  5. スパニッシュ・キャッスル・マジック
  6. 星条旗
  7. 紫のけむり
  8. 今日を生きられない

    メドレー
  9. ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)
  10. サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ
  11. ヴードゥー・チャイルド(スライト・リターン)

―Guitarist―

ジミ・ヘンドリックス