現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
今回の1枚は、アフリカ・コンゴ民主共和国のグループ=コノノ No.1による3rdフル・アルバム、『コンゴトロニクス』。アンプリファイドされたカリンバのサウンドや、廃品を用いた手作り楽器によるビートが斬新な1枚だ。民族的なグルーヴとテクノ的なエッセンスが同居する、摩訶不思議な音像をご堪能あれ。
文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー 写真=鬼澤礼門 デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2023年2月号より転載したものです。
コノノNo.1
『コンゴトロニクス』/2005年
カリンバをアンプリファイさせた
トランシーなアフリカン・サウンド
車のパーツなどのジャンク品を改造したお手製の楽器を演奏するコンゴ民主共和国のグループ。親指ピアノ(カリンバやリケンベと呼ばれる)をエレキ・ギターのように増幅したトランス的なサウンドが話題を呼び、ビョークが自身の作品に招いたり、来日公演までも行なわれた。ファジーに歪んだカリンバが絶妙にビザールな雰囲気!
人生観が変わった、催眠術のようなアルバムだ。
コンゴの人力轟音テクノ・グループの作品だね。アフリカの民族楽器でカリンバというのは知っているかな? いくつも並んだ小さなヘラみたいなのを両手の親指でパチパチ鳴らす、小さいピアノみたいなものだ。サム・ピアノ(親指ピアノ)って言われたりもするね。
それでこのアルバムは、様々なカリンバをギターのピックアップで拾ってPAシステムで増幅させた、驚くべき作品だ。コンゴという国は、何年にもわたって国家として壊滅的な状態だったから、これは国外に避難した人たちが作ったアルバムらしいんだ。とはいえ、コンゴで生み出された音楽というのには変わりない。コンゴ的としか言いようのないリズムに満ちているからね。
トラディショナルな楽器を電気的に増幅したそのサウンドは、普通じゃ到底得られないような世界だよ。非常に高いエネルギーに満ちていて、原始的でありつつもどこかモダンなんだ。これはまさにテクノだとかエレクトロ・ミュージックに通ずるよ。そういった表現が、まったく西洋的じゃないチューニングでなされるところも重要だ。
僕は、この作品で人生観が変わってしまった。自分のギターで似たようなサウンドを出してみたいと願うことさえあるんだ。“どうやったらこういうサウンドの引き出しが作れるのか?”なんて風に、今でも時折考えたりもする。
それで、普通のストラトキャスターを非西洋的なチューニングに変えてみたりしてトライするけど、フレットの打ち方をそもそも変えなきゃやっぱりダメだよなと思うこともあるね。
催眠術のようだし、ワイルドでとても素晴らしいアルバムだよ。
マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール
テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。