2015年にデンマークでオーダーメイド・ブランドとして誕生したバウム・ギターズ(Baum Guitars)は、“オリジナル・シリーズ”のリリースをきっかけに、世界中から注目を集め始めている。評価の高い個性的なデザインや、現代にマッチしたサウンドはどのように生まれたのか。バウム・ギターズの歴史と急成長の歩みを追っていこう。
文=福崎敬太 協力=バウム・ギターズ、神田商会、トミー・モリー
ギター製作に魅了された一流のアート・ディレクター
日本から西へ約8700km、北欧デンマーク。建築や家具などを筆頭に、機能的で美しい意匠を多く生み出してきたことで、“デザイン大国”と呼ばれている。そんなデンマークのオークスに拠点を置くバウム・ギターズも、自国のデザイン哲学を色濃く受け継いだ。
クラシカルだがモダン、個性的だが奇抜ではない、絶妙のバランスで成り立っているバウム・ギター。その歴史は、1人のデザイナーの自宅地下室からスタートする。
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ブランド創設者であるモーテン・バウが初めてギターを作ったのは1980年代末、15歳になった頃だった。兄が弾くエレクトリック・ギターに惹かれたものの、まだ自分で買えるお金がなく、“ならば自分で作ってしまえ”と、ストラトキャスターにインスパイアされた1本を自らの手で作り上げたのだ。ここから、ギターを弾くことに加え、“作ること”も彼にとって魅力的な存在となった。
その後、ルシアーにまつわる書籍を読みあさり、実際にギターを分解して組み直すなど、独学でギターの構造や製作についての知識を深めていく。また、実際の木工技術などは、知人のビルダーから学んでいったそうだ。
一方でアートに関する教育を受け、グラフィック・デザインの知識と情熱を身につけていく。そしてマーケティング会社に就職すると、アート・ディレクターとして、デンマークを代表する企業=レゴや国営企業などと仕事をするように。ブランディングや製品のためのビジュアル戦略などをディレクションすることで、“顧客のニーズをデザインで解決する”というプロフェッショナルになっていった。
そして、そのデザインへの情熱とギター製作への愛情が1つとなる。アート・ディレクターとしてのアイディアをギターに落とし込むため、その実験場として自宅の地下室に作業場を設けた。ここで“Guitar Projekt”と題し、オリジナル・ギターを制作していくことになる。
地下室で自身のライフ・ワークとしてギター製作を続け、2014年に現在も特徴として残り続けているヘッド形状=Teardropのデザインが完成。そして翌2015年、ついに自身のブランドである“バウム・ギターズ”を立ち上げた。
時代に左右されないギターを、世界中に届ける
ミュージシャンの意見を取り入れながら、オーダーメイドでギターを作り上げるバウム・ギターズだが、設立時の基本ラインナップは次の2モデルだった。
- Conquer 59:オフセット・ボディの柔らかな曲線を持つセミホロウ・モデル
- Leaper Tone:シングル・カッタウェイのセミホロウ・モデル
また、これらのモデルのデザインに合わせて、オリジナルのGoldsoundピックアップも開発された。トランスペアレントでダイナミックなサウンドを目指したもので、現在は“Goldsound”コレクションとしてシングルコイル、P-90タイプ、ミニ・ハムバッカー、ハムバッカーがラインナップされている。
翌2016年に、Wingman、Backwing、Carve、Vergeと次々に新作を発表する中で、インスタグラムなどのSNSでその個性的なルックスが話題を呼び、着実にブランドの名を広めていった。
そして2017年、デンマークの音楽フェス=スムックフェスト(Smukfest)で、シンガー・ソングライターのアレックス・ヴァーガスがバウム・ギターを手にステージへ上がる。これをきっかけに、デンマーク国内のギタリストたちから広く認知されるように。
しかし、その人気や需要の高まりに対して、オーダーメイドのため高価になるうえ、月産本数には限りがある。そこで、ファクトリー・メイドの“オリジナル・シリーズ”を2020年にリリースすることとなった。
このシリーズは、国外の工場で基本的な生産工程を経たあと、デンマーク・オークスの工房で最終調整をしてから、各国へと出荷されている。そのため、コストダウンを実現しながらも、バウム・クオリティを保ったギターに仕上がった。これにより、世界のユーザーにバウムの魅力が伝わっていく。
さらに、それにとどまることなく、バウムをもっと手軽に体験できるよう、シンプルなスペックに特化したヴェガ・シリーズも発表。1000ドルを下回る価格に抑えながらも、バウムらしいデザインとサウンドがしっかりと体験できるものとなっている。
2023年10月時点で、日本国内ではオリジナル・シリーズのモデルが入手可能。ぜひ楽器店でその実力を試してみてほしい。