昭和のポップスを支えた職人ギタリスト、椎名和夫の名演が光る名盤10選 昭和のポップスを支えた職人ギタリスト、椎名和夫の名演が光る名盤10選

昭和のポップスを支えた職人ギタリスト、椎名和夫の名演が光る名盤10選

シティ・ポップを始めとする、良質な国産ポップスを彩った名手たちのギター名盤を紹介する連載『職人ギタリストで斬る名盤セレクション [邦人編]』がスタート! 記念すべき1人目は、山下達郎の初期名曲「Bomber」のフェイザー・ソロでも知られる椎名和夫だ!

文・選盤=金澤寿和

椎名和夫(しいな・かずお)

はちみつぱい末期〜ムーンライダーズ結成に参加。当時はギターだけでなく、ヴァイオリンも弾いていた。アルバム1枚でグループを離れ、セッション活動に移行。78年からは山下達郎のバンドがメイン・ワークになり、80年頃からはアレンジャーとしても活躍。RCサクセションや甲斐バンド、中島みゆきらを広く担当し、86年に編曲を手掛けた中森明菜「DESIRE -情熱-」が日本レコード大賞を受賞している。同年にキーボード奏者/編曲家:新川博と共にスタジオ・ペニンシュラ設立。逸早く打ち込みやデジタル・レコーディングに取り組んだ。現在は現場を離れ、演奏家のための著作権活動に精力的を注いで団体理事などを歴任している。

山下達郎『MOONGLOW』 1979年

山下達郎『MOONGLOW』

ソロでジェット・フェイザーが炸裂!

椎名が山下達郎のレコーディングに参加したのは、78年作『GO AHEAD!』から。するといきなり「Bomber」のジェット・フェイザーが掛かったギター・ソロで話題になる。ライヴを意識して作ったという本作では、上原ユカリ (ds), 田中章弘 (b), 難波弘之 (kyd) らと共に、より緻密になったバンド・アンサンブルを構築。アーニー・アイズレーを髣髴とさせる「HOT SHOT」のスクイーズ・ソロ、『GREATEST HITS』と別ヴァージョンとなる「FUNKY FLUSHIN’」でのエモーショナルなソロなど、圧巻の一言。

山下達郎『RIDE ON TIME』 1980年

山下達郎『RIDE ON TIME』

2本のカッティング・ギターがせめぎ合う

「BOMBER」の流れを汲む掛け合いソロを堪能できる「SILENT SCREAMER」のインパクトが強いが、それより青山純&伊藤広規という新しいリズム・コンビが加わって理想のバンド・フォーマットが固まり、ポリリズムを駆使したファンク・アンサンブルが完成した点こそ一番に注目したい。ギターに関しても、達郎氏と椎名のギターがカッチリL/Rに振り分けられ、カッティングの絶妙なせめぎ合いが楽しめる。アナログ時代は楽曲ごとやチャンネルの別のクレジットはなかったが、02年のリマスターCDから詳細を記載。達郎氏の演奏へのコダワリを垣間見た。

間宮貴子『LOVE TRIP』 1982年

間宮貴子『LOVE TRIP』

和製AOR名盤ではアレンジも担当。

シティポップが世界的ブームになる以前から、ジワジワと再評価が始まっていたAORスタイルの名盤。星勝、井上鑑など著名編曲家が並ぶ中、タイトル曲を筆頭に半数以上の楽曲でアレンジを担当。楽曲ごとのミュージシャン・クレジット詳細は不明ながら、アレンジ曲のしなやかなギター・カッティグは椎名で間違いないだろう。しかしその中の一曲、「哀しみは夜の向こう」でフィーチャーされるジャジーかつ甘美なソロ・ワークは、松木恒秀のプレイと思われ。プレイヤーのエゴを抑えて楽曲に寄り添うところが、椎名のスゴいところだ。

当山ひとみ『FIVE PENNYS』 1985年

当山ひとみ『FIVE PENNYS』

手堅さの中にも椎名節が光る。

80’sブギー系シティポップとして再評価が進むペニーこと当山ひとみの5作目。アレンジを椎名和夫が手掛け、青山純・伊藤広規・難波弘之・野力奏一といった山下達郎バンドの面々がバックを固める。椎名もほぼ全曲でギターを弾くものの、手堅いバッキングに終始。それでも「Walker」での計算されたコード・カッティングと単音バッキングのコンビネーション、トリッキーなソロは、実に彼らしい演奏だ。「Air Pocket」でメロディアスなソロ、「ひとりぼっちにならないで」でのブルージーなソロと器用なところを披露しつつ、ハード・ポップでは北島健二にリードを委ねる。

中原めいこ『2時までのシンデレラ〜FRIDAY MAGIC』 1982年

中原めいこ『2時までのシンデレラ〜FRIDAY MAGIC』

松原正樹、鈴木茂も参加!

シンガー・ソングライター中原めいこの初期作品は、新川博による華やかなアレンジとのコンビネーションの良さで脚光を浴びた。その振り出しがこの2作目。楽曲ごとのクレジットはないものの、新川の盟友とも言える松原正樹と椎名がギターを弾き、鈴木茂の名も。だから誰がどの曲、どのパートを誰が弾いているか、妄想しながら聴くのが楽しい。めいこと新川のコラボは、3rd『ミ・ン・ト』、「君たちキウイ・パパイヤ・マンゴーだね」のヒットが出た4th『ロートスの果実』まで続き、どれにも椎名が参加している。

BEERS『MISTRESS』 1983年

BEERS『MISTRESS』

痺れるようなリード・ギター

斉藤恵と橋本ヨーコ(後に竹田和夫ボーイズ・オン・ロックス)による男女デュオ、唯一の作。アレンジは新川博、鈴木宏昌、椎名が分け合っているが、椎名は自分のアレンジ曲だけでなく新川編曲の一部でもギターを担当。プレイ自体はむしろ新川曲の方がフィ―チャー度が高く、井上大輔作曲/新川編曲のシングル曲「壊れたワイパー」でのバッキング、「夜明けの舟」の痺れるようなリード・ギターが印象深い。ともすれば歌謡ポップスに陥りそうな楽曲を、演奏陣のセンスが救う。松木恒秀、伊藤広規、山木秀夫などが参加。

桐ヶ谷仁『VERMILION』 1984年

桐ヶ谷仁『VERMILION』

メロウなサウンドの中にキレのあるバッキング

79年に松任谷正隆の下からデビューした甘い歌声のシンガー・ソングライターの4thアルバム。以前はメロウ・フォークと言えそうな、穏やかで落ち着いた作風が特徴的だったが、レーベル移籍を挟んだ今作では、時代感を取り込んだ清新なAOR系メロウ・サウンドにシフト。青山純・伊藤広規の山下達郎リズム・セクション起用を前提に、全曲アレンジを椎名が担っている。…といっても、リードが聴けるのはタイトル曲ぐらいで、堅実なバッキングがメイン。それでも「摩天楼物語」など、キレのあるリズム・ワークはさすがだ。ギターは椎名と渡辺格の2人。

来生たかお『Romantic Cinematic』 1984年

来生たかお『Romantic Cinematic』

デヴィッド・Tばりのギター・ソロに注目

映画をモチーフに制作された来生の通算10作目で、全曲が来生と椎名の共同アレンジ。エレキのバッキングもすべて椎名で、バック・コーラスも担当している。キャストは、青山純・伊藤広規・難波弘之・松田真人といった、やはり山下達郎バンドの面々が中心。都会的かつ穏やかなAORスタイルを貫いていて、来生ファンならずとも注目したいアルバムだ。「いつも永遠の夏じゃなく」で聴けるデヴィッド・T・ウォーカー張りのギター・ソロは、達郎作品で聴けるフェイザーを掛けた激しいプレイの対極にあるが、これもまた椎名の名演に数えるべき。

山本達彦『MUSIC』 1985年

山本達彦『MUSIC』

甘いバッキングが相性抜群

79年にデビューした山本達彦のオリジナル8作目。佐藤準と5曲ずつアレンジを分け合っているが、山本も椎名もスティーリー・ダン・フリーク同士、ギター・プレイではバッキングに徹するも、「Night Memories」や「夢より美しく」にその相性の良さが現れている。青山純/山木秀夫 (ds)、高水健司/伊藤広規 (b)、難波弘之/野力奏一/中村哲/重実徹 (kyd) といった山下達郎バンド周辺を中心に、一流どころが参加。コーラスは東北新幹線の山川恵津子と鳴海寛。「月影のヒロイン」で聴けるとジャズ・フィールたっぷりのギター・ソロは、同級生だという渡辺香津美による。

NICO『Shadow』 1985年

アレンジ/サウンド・プロデュースも担当。

嶋田衛と嶋田繁の双子デュオ、3作目。82年のデビュー当初は爽快なAOR路線を歩んだが、ムーン移籍後の本作では、兄弟が書く楽曲を椎名和夫がアレンジしてサウンド・プロデュース、ニューウェイヴ風の音へシフトした。バッキングの主軸は山下達郎バンドのメンバー。エッジィな音作りでギターが活躍し、エレキはすべて椎名のプレイ。味のあるソロも2曲あり、ハード・ロッキンなソロのみ北島健二。ニコは92年に GARDENと改名。最近は本作所収「肖像画のモデル」がバレアリック方面で再評価されているとか。