鳴海寛のギター・プレイを堪能する名盤8選|連載『シティ・ポップ・ギター偉人伝』 鳴海寛のギター・プレイを堪能する名盤8選|連載『シティ・ポップ・ギター偉人伝』

鳴海寛のギター・プレイを堪能する名盤8選|連載『シティ・ポップ・ギター偉人伝』

シティ・ポップや国産ポップスを彩った名手たちのギター名盤を紹介する連載、『シティ・ポップ・ギター偉人伝』。第3回はサウンド・プロデューサー、ギタリストとして活躍した鳴海寛。

文・選盤=金澤寿和

鳴海寛(なるみ・ひろし)

ワン&オンリーのシティ・ポップ名盤を残したことで名高いユニット、東北新幹線の鳴海寛。しかしその名が浸透したのは、唯一作の発売から20年以上経過した、2000年代後半以降のことである。

ヤマハのポプコン(ヤマハポピュラーソングコンテスト)に応募したデモ・テープがプロへのキッカケで、それを機に谷山浩子や佐々木幸男、八神純子、来生たかおらをサポート。

そこでしばしば一緒になった作編曲家/キーボード奏者の山川恵津子と東北新幹線を組むも、ライブ・パフォーマンスに対する考え方の違いから自然消滅。その後は楠木恭介や故Cindyらをサウンド・プロデュースし、山下達郎のツアー“Performance ’88 ~’89”のギタリストに抜擢されて名を広めた。

1990年代にポップ・ユニット、Frascoで3枚のアルバムを発表。その後はジャズ・クラブで地道な活動を続けたが、2015年に急逝している。ギターのみならず、バック・コーラスでのスタジオ・ワークも多い。

東北新幹線『THRU TRAFFIC』/1982年

東北新幹線『THRU TRAFFIC』/1982年

20歳代半ばとは思えぬ完熟したギター・プレイ

ヤマハ関連の仕事で知り合って意気投合した鳴海と山川恵津子によるユニットの、ワン&オンリー作品にして名盤。作編曲を2人で分け合い、当時のAORやブラック・コンテンポラリー、ブラジル音楽などを参考に、ハイ・クオリティな都市型ポップスを目指した。

鳴海はボーカルやピアノにも才能を発揮したが、やはりギターが出色。デヴィッド・T・ウォーカーに心酔し、同じギブソン・バードランドを愛用して、まだ20歳代半ばとは思えぬエモーショナルな完熟プレイを披露している。

その真骨頂がインスト曲「Spell」やオープニング「Summer Touches You」だろう。

山下達郎『JOY~TATSURO YAMASHITA LIVE』/1989年

山下達郎『JOY~TATSURO YAMASHITA LIVE』/1989年

達郎氏との共演が聴けるライブ音源

84〜89年のライブ音源で構成した2枚組『JOY』。

1989年のツアーからの「蒼氓」、「LA LA MEANS I LOVE YOU」、「ゲット・バック・イン・ラブ」、「恋のブギ・ウギ・トレイン」、「DOWN TOWN」の5曲で、鳴海のギター&バック・ボーカルが聴ける。東北新幹線直後にも達郎氏からコールがあったそうだが、スケジュールが合わず、合流が叶わなかったらしい。

ココでは特にデヴィッド・T・ウォーカーやエリック・ゲイルを彷彿させる「蒼氓」が名演として有名。「〜ブギ・ウギ・トレイン」における達郎氏のカッティングとの掛け合い、「DOWN TOWN」のソロも聴きモノだ。

ミルキー・ウェイ『SUMMERTIME LOVE SONG』/1979年

ミルキー・ウェイ『SUMMERTIME LOVE SONG』/1979年

恩師との本格的レコーディング・セッション

鳴海が初めて参加したという本格的レコーディング・セッション。ミルキー・ウェイはヤマハ時代の恩師である先輩ギタリスト、松下誠と、ネム音楽院講師で松田聖子のデビュー時の編曲を担った信田かずおのユニットで、これが唯一作。

元々ピアノとアコースティック・ギターしか演奏してこなかった鳴海にエレキ・ギターを薦め、デヴィッド・T・ウォーカーの魅力を伝授したのが松下である。

当然本作では松下自身がメインでギターを弾いているが、ニック・デカロのカバー「ジャマイカ・ムーン」のバッキングは鳴海なのでは?という、まことしやかな噂も。

楠木恭介『JUST TONIGHT』/1985年

楠木恭介『JUST TONIGHT』/1985年

鳴海渾身のアレンジ&サウンド・プロデュース

a.k.a. 楠木勇有行/楠木達士。スタジオ・シンガーとして1000曲超のCMソングを歌い、カシオペア、柳ジョージ&レイニーウッドの後継、ザ・ウッド、角松敏生プロデュースのVOCALANDでも歌っていた超実力派のソロ・デビュー作は、鳴海渾身のアレンジ&サウンド・プロデュースだ。

ダニー・ハサウェイをアイドルとする楠木と、かつてはモータウンやフィラデルフィア・ソウルに傾倒していた鳴海というソウル好き同士が共鳴し、濃厚なコラボレート・アルバムができ上がった。

鳴海のエロいギター・プレイに魅せられているヒトは、スルー厳禁の重要作と言える。

CINDY『ANGEL TOUCH』/1990年

CINDY『ANGEL TOUCH』/1990年

ボーカルに寄り添うハートフルなギター

鳴海が参加した山下達郎89年ツアーのコーラス隊が、このCindy(2001年没)と佐々木久美。

Cindyのソロ・アルバムは3枚あるが、その3人が再会を果たしたのがこの2作目だ。約半分の楽曲が鳴海のアレンジ(共同含む)で、「Fall In Love」では達郎もガッツリ参加。

時節柄プログラミングを多用しているものの、バラード「Special Ever Happened」やアーバン・ポップ・チューン「私たちを信じていて」では、いかにも鳴海らしくボーカルに寄り添うハートフルなギターを弾く。オープニング「Surprise」のガット・ギターも要チェック。

メルティング・ポット feat.鳴海寛『ライヴ・アット・エッグマン+』/2017年

メルティング・ポット feat.鳴海寛『ライヴ・アット・エッグマン+』/2017年

全曲で鳴海の楽曲/ボーカル&ギターが聴ける貴重な1枚

1977年から1984年まで八神純子のバック・バンドを務めたメルティング・ポットの発掘音源集。

タイトルどおり、収録曲の中心は1983年の渋谷eggmanでの単独ライブ音源で、そこに八神の1980年のライブで録音された「Summer Touches You」(2年後、東北新幹線のアルバムに正式収録される)、1982年のスタジオ・リハーサル音源などを追加した1枚。

リード・ギターはバンマスでもある矢萩秀明だが、「なくしたものが多過ぎる」では鳴海のソロもタップリ(本作にはライブとスタジオ版、両方のバージョンを収録)。

この時期の音源で、全曲鳴海の楽曲/ボーカル&ギターが聴けるものはほかになく、大変貴重だ。

Frasco『film』/1996年

Frasco『film』/1996年

シャープなカッティングやオブリが楽曲を彩る

鳴海とヤマハ時代から付き合いの深い多田牧男 (d)、シンガー・ソングライターの政野早希子が組んだ職人気質のポップ・トリオによるセカンド。

ブラジリアン・テイストが強かった1作目からポップに展開し、アーベインな疾走感にしてヤラレる。

ゆえにギターうんぬんで聴く作品ではないが、随所に斬り込んでくるカッティングのシャープさ、オブリのセンスはさすが。

「夏の終わりに~Hannna & Time~」「青い月の影~film noir~」「風に乗って~breeze~」「Return To Your Smile」あたりも鳴海らしいギター・プレイが堪能できる。この後、シンガーが変わってもう1枚。

鳴海寛『ONE MAN BAND』/2016年

鳴海寛『ONE MAN BAND』/2016年

急逝を受け発売された自主制作盤の拡大版

文字どおり1人多重録音によるホーム・レコーディングの自主制作盤。

2004年に7曲入りで完成し、当人のサイトのみで流通していたが、2015年の急逝を受け、5曲を追加して一般発売された。

拡大版には、恩人である八神純子「Endless Summer」やジャズ・スタンダード「スピーク・ロウ」のほか、ミニー・リパートンやボビー・コールドウェルらのカバーで、同じスタイルで比較的近い時期に録られたものを収録。

趣味的作品だが、曲によってはデヴィッド・T〜鳴海節全開で、その無垢なギターやピアノを味わうには格好の作品と言える。