現代の音楽シーンにおける最重要ギタリストの1人、クルアンビンのマーク・スピアーが、世界中の“此処ではない何処か”を表現した快楽音楽を毎回1枚ずつ紹介していく連載。
最終回は、フランスの歌手/俳優のセルジュ・ゲンズブールによるフル作『ゲンスブール版女性飼育論』(1973年)をピックアップ。バックのファンキーな演奏と、セルジュのつぶやくような歌声のコントラストが特徴。
文=マーク・スピアー、ギター・マガジン編集部(アルバム解説) 翻訳=トミー・モリー デザイン=MdN
*この記事はギター・マガジン2024年5月号より転載したものです。
セルジュ・ゲンズブール『ゲンスブール版女性飼育論』/1973年
フランスが誇る好色男の
ファンキー・メロウな歌曲たち
ジェーン・バーキンやブリジット・バルドーといった女優と浮名を流した歌手/俳優のセルジュ・ゲンズブールによる73年作(邦題は『ゲンスブール版女性飼育論』)。70年代初頭のムードをとらえたファンキーなサウンドに乗って、ゲンズブールのスモーキーでつぶやくような歌声が静かに響く。ワウを聴かせたキッチュなギター・プレイもいくつか聴ける。
妖しいベースとタイトなドラム。ファンキーで大好きな作風だ。
この連載もこれで最後になる。僕が紹介したこれまでの作品はジャンルも年代もバラバラだが、君の琴線に触れるものが1枚でもあったら素晴らしいね。あと、ギター・マガジン2024年6月号にはインタビューも載っているから、ぜひ読んでくれ。
今回取り上げるのは、フランスが誇る歌手で俳優のセルジュ・ゲンズブールが、70年代初頭に出したアルバム。歴代作品の中でも特にフェイバリットなんだけど、なぜかと言うと、かなりファンキーな作風なんだ。
多くの人は彼がジェーン・バーキンと作った作品を知っていると思うけど、かなり静かに演奏する印象を持っていることだろう。でもこのアルバムでは実にファンキーな演奏が聴けるよ。
ベースラインには妖しさがあり、ドラム・サウンドはとてもタイトでデッドだ。演奏が躍動的なのに対して、セルジュのつぶやくような歌声が静的で、そのコントラストも楽しいよ。ギターもそこそこ入っていて、どぎついワウがかかったスライド・ギターなんかも聴けてけっこう好みだね。
表題曲である「Vu De L’Exterieu」という曲がなかなかに素晴らしい。彼のエロティックなイメージに合うスウィートなコード進行で、ソフトでアコースティックなムードも大好きだ。
セルジュ本人はキャリアの中期にいたけれども、このアルバムは彼がさらに彼らしくなろうとしていた時を封じ込めていると思うよ。
マーク・スピアー(Mark Speer) プロフィール
テキサス州ヒューストン出身のトリオ、クルアンビンのギタリスト。タイ音楽を始めとする数多のワールド・ミュージックとアメリカ的なソウル/ファンクの要素に現代のヒップホップ的解釈を混ぜ、ドラム、ベース、ギターの最小単位で独自のサウンドを作り上げる。得意技はペンタトニックを中心にしたエスニックなリード・ギターやルーズなカッティングなど。愛器はフェンダー・ストラトキャスター。好きな邦楽は寺内タケシ。