鳥山雄司のプレイ&アレンジメントを存分に堪能する13枚|連載『シティ・ポップ・ギター偉人伝』 鳥山雄司のプレイ&アレンジメントを存分に堪能する13枚|連載『シティ・ポップ・ギター偉人伝』

鳥山雄司のプレイ&アレンジメントを存分に堪能する13枚|連載『シティ・ポップ・ギター偉人伝』

シティ・ポップや国産ポップスを彩った名手たちのギター名盤を紹介する連載、『シティ・ポップ・ギター偉人伝』。第4回目は、セッション・ミュージシャン、サウンド・プロデューサーとして活動の枠を広げ、現在は自身のトリオ、PYRAMIDや山下達郎のツアー・バンド(2023年)などで活躍する職人ギタリスト、鳥山雄司の参加作を紹介!

文/選盤=金澤寿和

ラジ『キャトル』/1979年

ラジ『キャトル』/1979年

鳥山ソロ・デビュー前の貴重なセッション記録

高橋ユキヒロがプロデュース、坂本龍一がアレンジを手掛けたラジの3作目。

南佳孝やサディスティックスのアルバムにゲスト参加して歌ったり、AOR路線でソロ作を2枚を出した彼女だが、ここではシティ・ポップ感覚はそのままに、テクノ・サウンドによるフレンチ・スタイルを打ち出した。

鳥山はラジのライブをサポートした4人組、Elephantとして3曲、ユキヒロや教授に絡む形で2曲に参加。抑えたアーティキュレーション・プレイで貢献している。鳥山ソロ・デビュー前の貴重なセッション記録の1つだ。

高中正義『CAN I SING?』/1983年

高中正義『CAN I SING?』/1983年

高中を支えたサポート・ワーク

人気絶頂の高中正義が1983年にリリースした、、通算10枚目のオリジナル・アルバム(ライブ盤含め12作目)。

初めてシーケンサーを使った試金石的作品だが、タイトルどおりの歌うようなメロディとフレーズ構築の巧みさで、無機質さはまったく感じさせない。

また、当時はソロ・ギタリストのイメージが強かった鳥山が、完全に高中のサポートに回って小気味良いリズム・ギターを鳴らしていることに驚愕した覚えがある。

だが実際は、リン・ドラムやシーケンサーのプログラムをすべて彼が担っていて、高中の新しいトライアルにおける影の立役者だったことがわかる。鳥山はその後のツアーにも同行、しばし高中の参謀役を務めた。

佐藤博『SAILING BLASTER』/1984年

佐藤博『SAILING BLASTER』/1984年

佐藤博のソロ作には欠かせない鳥山のプレイ

名盤『awakening』(1982年)に次ぐ佐藤博のソロ5作目。鳥山の実力を最も早く認めた恩人であり、前作でも2曲でプレイ。

本作では佐藤の鍵盤ソロ曲やジャム・ナンバー(山岸潤史&石田長生が参加)を除く6曲に参加し、当時の最先端打ち込みサウンドにシャープなギター・カッティングを乗せている。「Jenny Lou」では鋭く切り込むトリッキーなソロも。

鳥山自身がギターを重ねたり、佐藤もテレキャスターでリズムを弾いているので、ブックレット掲載のミックス・シートを見ながら聴くと面白さが倍増。2012年に急逝した佐藤のソロ活動で、最も重用されたギタリストが鳥山だった。

宮手健雄『ZAZAZA』/1984年

宮手健雄『ZAZAZA』/1984年

全曲でアレンジ&エレキ・ギターを担当

湘南のシンガー・ソングライター、テミヤンこと宮手健雄のデビュー作で、兄貴分であるブレッド&バターの弟、岩沢二弓がプロデュース。鳥山は全曲でアレンジとエレキ・ギターを担当した。

年代相応のリバーブまみれのサウンド・メイクで、ギターはバッキングに徹しているが、ポップ・チューン「潮騒」ではスティーヴ・ルカサーばりの、メロウ・ミディアム「九月の青い雨」では松原正樹を彷彿させるギター・ソロを披露する。

アコースティック・ギターは笛吹利明が弾いており、ほかには高水健司、斉藤ノブ、中西康晴、森村献などが参加。祈CD化。

小山茉美『VIVID』/1985年

小山茉美『VIVID』/1985年

破壊力抜群のアドリブ・ソロや、シャープなリズム・ワークを披露

『Dr.スランプ アラレちゃん』(則巻アラレ)を筆頭に、『名探偵コナン』(クリス・ヴィンヤードなど)、『あんみつ姫』(あんみつ姫)などへの出演で知られる人気アニメ声優、小山茉美の4thアルバム。

山川恵津子の全面プロデュース&アレンジで、シンセやサンプラーを多用した先鋭的エレクトロ・サウンドを構築しており、山川ワークス最重要作の呼び声が高い。

そうなると、ギターは土方隆行や鳥山などロック系テクニシャンの独壇場。実際に鳥山は9曲中6曲に参加し、オープナー「ディスタンスの真夏」では破壊力抜群のアドリブ・ソロを披露。ほかにも、随所でシャープなリズム・ワークが楽しめる。

二名敦子『Naturally』/1985年

二名敦子『Naturally』/1985年

昨今のシティ・ポップ再評価で大バズリした「Hi-Way 1」

今年春に鳥山雄司ご本人と話す機会があり、“今度シティ・ポップ系の鳥山ワークスについて書く”と知らせたところ、自身が真っ先に言及された曲が、『Naturally』に収録された「Hi-Way 1」だった。

「Hi-Way 1」は本作で唯一、鳥山が作編曲を手掛けたナンバーで、当時からライブ人気が高かったとか。それが昨今のシティ・ポップ再評価で、サブスク及びYouTubeで大バズリし、彼女のレパートリーでNo.1の再生回数を稼いでいる。

アルバム全体は芳野藤丸によるサウンド・プロデュースがイイ感じ。

櫻井哲夫『DEWDROPS』/1986年

櫻井哲夫『DEWDROPS』/1986年

シンセ・オペレーターとしての手腕も光る1枚

カシオペアの創設メンバーだった櫻井哲夫(b)が、在籍中に発表した1stソロ。

当時はカシオペアの複数メンバーが揃って外部セッションに参加する機会が多く、野呂一生(g)不在時にギターに指名されるのが松下誠か鳥山だった。

櫻井作の歌モノが中心の本作では、9曲中5曲が櫻井・鳥山の共同アレンジで、そのうちギターを弾いたのが3曲。「TENSION」ではフラッシンなソロも聴ける。が、むしろシンセ・オペレーターとして櫻井の右腕となっており、井上鑑アレンジ曲でシンセを弾くパターンも。

ギター・プレイはもとより、プログラムやアレンジ、サウンド・プロデュース面で高く評価されていたことがハッキリとわかる。

彩恵津子『PASSIO〜恋する心の迷宮庭園』/1986年

彩恵津子『PASSIO〜恋する心の迷宮庭園』/1986年

鳥山が全面的にアレンジ&サウンド・プロデュース

キラキラした歌声が特徴的な彩恵津子の4作目は、康珍化が総指揮を務め、鳥山が全面的にアレンジ&サウンド・プロデュースを担当。

鳥山はギター、キーボード、ドラム&シンセ・プログラムまで掌握し、それを山木秀夫(d)、美久月千晴(b)、森村献(key)らの生演奏が彩る。

ダンサブルな「ピグマリオン」、ブギーな「とめて、パシオ」などのリズム・ワークがおいしいが、ポップ・ミディアムな「Fun!Fun!Fun!」、久保田利伸とのアーバン・デュエットで聴ける「永遠のモーニング・ムーン」のスムーズなカッティングなどがより印象的だ。パッシブでエモいソロは、鳥山・彩の共作曲「狼ガール」でご堪能。

崎谷健次郎『DIFFERENCE』/1987年

崎谷健次郎『DIFFERENCE』/1987年

キレの良いリズム・ワークで魅せた全面参加作

作編曲からプロデュースまでを手掛けるマルチ・クリエイター、崎谷健次郎の1stには、鳥山がギターで全面参加。まるで自身のアレンジ作品で弾くように、キレの良いリズム・ワークで迫ってくる。

とりわけ、映画『いとしのエリー』(1987年)の主題歌に使用されたデビュー・シングル「思いがけないSITUATION」のアグレッシブなギター・ソロは圧巻(その後のアーム・プレイは窪田晴男)。甘美なメロウ・フローター、「夏のポラロイド」のカッティングも、コントロールの効いたナイス・プレイ。

和田加奈子『KANA』/1987年

和田加奈子『KANA』/1987年

バーサタイルなプレイ&サウンド・メイク

アニメ『きまぐれオレンジ☆ロード』のエンディング・テーマや、NHK『ベストサウンドⅡ』への出演などで知られるシンガー、和田加奈子の傑作3rdアルバム。

収録曲10曲中6曲が鳥山のアレンジで、当然ながらエッジを効かせたギターのリズム・ワークも彼自身によるもの。鳥山が楽曲を書き下ろした「Sunday Brunch」、シングル・カットされた「誕生日は−1」を始め、この時期らしいサウンド・メイクに呼応してポール・ジャクソンJr.にもポール・ペスコにも自在に早変わりできるあたり、まさにバーサタイル。

CINDY『Don’t Be Afraid』/1991年

CINDY『Don’t Be Afraid』/1991年

鳥山が3曲でアレンジを担当したCINDYの3rdアルバム

80年代後半は山下達郎のアルバム及びツアーで活躍したエンジェリック・ボイスの持ち主、CINDYが1991年に遺したソロ3作目。

前作(『ANGEL TOUCH』/1990年)に続き、ニュー・ジャック・スウィングな「Tell Me Why」、珍しくアコギでソロを取るたおやかなバラード「In The Rain」、ほとんどリズムだけで楽曲をリードしていくグラウンド・ビート「Live So Fast」の3曲で鳥山がアレンジを担当。それ以外では鳴海寛、清水信之、ラメール・ヒュームスらがアレンジを分け合っている。

鳥山雄司『A Taste of Paradise』/1985年

鳥山雄司『A Taste of Paradise』/1985年

今こそ聴きたいフュージョンのカタチが詰まった4th

当時は然して評判を取れずに終わるも、現在はバレアリックなフュージョン/ブギーとして著しく人気が高くなっている鳥山のソロ4作目。

青山純、伊藤広規、佐藤博、山木秀夫、橋田正人、富樫春生、CINDY、EVEなど、気心知れた敏腕ミュージシャンを多数招集しつつ、シンセやシーケンスも大胆駆使。

ギンギンのハード・エッジなソロからギター・シンセによるパット・メセニー風ヘヴンリー・チューン、1人多重のアンビエント・トラックまで、今こそ聴きたいフュージョンのカタチがココに詰まっている。

PYRAMID『PYRAMID 5』/2022年

PYRAMID『PYRAMID 5』/2022年

クラブ寄りのアーバン・ポップ指向を強めた5作目

慶應義塾高校の同級生、鳥山、神保彰(d)、和泉宏隆(k/のちにT-SQUARE)の3人による同窓会バンド、OKボーイズとして2003年結成。2005年にPYRAMIDとしてデビュー作を発表した。

学生時代に演奏していたフュージョン名曲を取り上げつつ、断続的に4作をリリースした。しかし、2021年に和泉が急逝。その後も鳥山・神保で活動を継続し、フィリップ・セス、Kan Sano、福原美穂らをゲストに迎え、クラブ寄りのアーバン・ポップ指向を強めてこの5作目を完成させた。

制作費をクラウドファンディングで募ったため、CDは参加者特典。アナログLPのみが市販されている。

プロフィール

鳥山雄司(とりやま・ゆうじ)

1959年神奈川県藤沢市生まれ。プロ・ギタリストの父親の影響で幼少期からジャズやハワイアンに親しみ、中学からロック・バンドで演奏。大学ではジャズ・サークルに参加し、同級生の神保彰 (d/のちにカシオペア)、和泉宏隆 (k/のちにT-SQUARE)と活動した。

また、リズム隊の伊藤広規・青山純と知り合い、共に佐藤博のアルバム『ORIENT』(1979年)に参加。それがプロとしての初レコーディングになる。併行して南佳孝、ブレッド&バター、りりィらをサポートし、1981年の『TAKE A BREAK』でソロ・デビュー。翌1982年の2作目『SILVER SHOES』は、ニール・ラーセン&バジー・フェントンとの共演で、フュージョン・ファンに高く評価された。

その後、セッション・ミュージシャンとして活動枠を広げ、高中正義や松任谷由実のツアーにも帯同。さらにシンセサイザーやコンピューターのプログラミングを身につけ、アレンジやプロデュースで活躍し、小室哲哉、TM NETWORK、葉加瀬太郎、尾崎豊、シャ乱Q、松田聖子など、幅広いアーティストを手掛けていく。また、『世界遺産テーマ曲集』(1997年)を始めとする各種サントラ、2005年に結成した神保・和泉の同級生トリオ、PYRAMIDでも5作品を発表。2023年からは山下達郎のツアー・バンドに参加した。