崎山蒼志の未知との遭遇第37回：9月のツアー

新世代のシンガー・ソングライター／ギタリスト、崎山蒼志の連載コラム。1人のミュージシャンとして、人間として、日々遭遇する未知を自由に綴っていきます。月一更新です。

デザイン＝MdN
※本記事はギター・マガジン2024年11月号に掲載された記事を再編集したものです。

薫くんのレス・ポールは奇跡のギターだと思います。

　9月、自分も所属する音楽プロダクション、ソニー・ミュージックアーティスツ(SMA)創立50周年の企画ライブを同じくSMA所属で公私ともに関係のあるバンド、“クジラ夜の街”と行ないました。東名阪を巡るツアーです。

　それに伴い、ツアータイトルでもある「劇情」という曲を制作しました。クジラ夜の街と、自分それぞれの良さが、バランス良く交差する、ジャンルレスで興味深い楽曲です。とても気に入っています。

　自分は、レコーディングでエレアコのメイン機でもあるアダマスを使用しました。アダマスでレコーディングすることが意外と多くないので（しかも今回はより珍しくマイク録りがメインでした）、「劇情」はそんな自分のアダマスの音色をダイレクトに感じられる楽曲かと思います。

　バンドと“せーの”でのレコーディングは、それぞれのバンドの持つ特有のグルーヴの波に、ひとりサーフボードを持って乗り込んで行くような、不思議な体験であります（かつてリーガルリリーの皆さんと曲をご一緒した時も同じことを思いました）。普段サポートメンバーの皆さんを招きバンドサウンドを出しているのとはまったく異なる体験です。テイクを重ねるごとにグルーヴしていく瞬間は、まるでクジラ夜の街の一員になれたみたいな気持ちになりました。貴重な経験でした。

　そんなクジラ夜の街と回る、9月の東名阪“劇情”ツアー。今回自分は、スペシャルバンド編成でお届けしました。ギターはクジラ夜の街から、自分の昨年のツアーも一緒に回ってくれた山本薫くん。そしてベースとドラムはなんと、事務所の大先輩であるBase Ball Bearから関根史織さん、堀之内大介さんという、事務所の周年企画だからこそできる贅沢なバンドセットです。中高時代から聴いてきたBase Ball Bearのお二人とご一緒しツアーを回れることは、かつてまるで想像し得ない出来事でした。しかも自分の曲を……感謝しきれません。

　初日リハからめちゃくちゃ良い感じでした。僕は薫くんの所有する2台のレス・ポールのうちの、70年代のグレコのレス・ポール・タイプを貸して貰い（もう一本はギブソン）、それをエレキのメインで使用しました。

　今までレス・ポールを弾いてきた経験があまりなく、重いっていう印象が第一にあったので手に取ってこなかったのですが、薫くんのビンテージのグレコのレス・ポール・タイプを手に取ってみて、なんて素晴らしいギターなんだろうと仰天しました。思ったより重たくなく、ネック、ヘッドとのバランスも良い感じです。弾けば、ファットで軽やかなクリーン、オーバードライブで歪ませた時のジュワッとした音、もっと歪ませた時のハードロックな音色。自分の中のギター魂を揺さぶられるギターです。リアの歯切れ良さもカッティングにピッタリです。豊かかつ、他の楽器の邪魔をしない帯域で鳴る感じも、バンドにぴったしです。

　これは素晴らしいと思って、自分でもレス・ポールを所有してみたくなり、楽器屋に出向きました。グレコと同じようにジャパン・ビンテージに絞って、ネットで見て気になったTokaiのレス・ポール・モデルを試奏しました。80年代製、ゴールドトップのLS-50。見た目に惹かれました。まず持った時の感触はずっしり重い。今まで避けてきてはいたものの、これはこれでまたレス・ポール感のある良いギターだと思いました。クリーンで弾いてみます。ファットでいて軽やかな気持ちの良い音色です。コード感が明瞭で、テンション・コードを弾きたくなります。でも個人的に、立って、わりと動いてギターを弾くのでこの重さは厳しいかもしれないと思って、諦めました。薫くんのレス・ポールは奇跡のギターだと思います。サウンドの明瞭さ、素晴らしさ、重量感。あまりメーカーや年代に捉われすぎず、僕も素晴らしいレス・ポール・タイプといつか出会ってみたいと思いました。

　ライブでは、薫くんとのダブルレス・ポール＋関根さんのチャップマン・スティックでの曲もやりました。激ヤバ編成。凄く楽しかったです。また絶対やりたいです！

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