2023年に惜しまれつつ休刊した音楽雑誌『Player』。楽器を扱う専門誌として『ギター・マガジン』とは良きライバル関係にあっただけに、その不在はやはり寂しい。音楽業界や楽器業界を盛り上げ、読者に大きな影響を与えたその偉大な55年に敬意を表して、元編集長の田中稔氏にその歴史を綴ってもらう。隔週更新。
文=田中 稔
第6回|1970年代の国内音楽シーン
70年代初頭の日本の音楽シーンは、60年代後半に一世を風靡したグループ・サウンズ・ブームは沈静化したが、ニュー・ロックと呼ばれる新たなスタイルの音楽が芽生えていた。やがて、キャロルやサディスティック・ミカ・バンド、四人囃子、頭脳警察、RCサクセション、LAZY、はっぴいえんど、Char、柳ショージ、ゴダイゴ、サザンオールスターズなど、洋楽の影響を強く受けながらも、日本語による独自な音楽スタイルや世界観を描いたアーティストが相次いで登場し、若い世代を中心に強く支持されるようになった。

フォークソング・シーンは60年代から引き継がれていたが、社会に対するメッセージ性は薄れ、ラブ・ソングやメロディアスな楽曲とポップでモダンな作品が増え、現在も歌い継がれているいくつもの名曲が生まれた。
現在も活躍するベテラン・シンガーの森山良子、ジャックス解散後にソロ活動が注目された早川義夫、甘い歌声の兄弟デュオで一世を風靡したビリー・バンバン、フレッシュな男女混合トリオの青い三角定規、演奏とボーカルが高く評価された赤い鳥、CSN&Yの日本バージョンとも言えるガロ、様々な音楽性を開花させた加藤和彦、プロテスト・フォークの中心的な存在だった岡林信康や高石友也、四畳半フォークの元祖といわれたかぐや姫、国民的な存在として今も活躍する中島みゆき、70年代以降も長きに亘って活躍した吉田拓郎、井上陽水、泉谷しげる、吉田美奈子、アリス、さだまさし、長渕剛、松山千春、独自な世界観とセンスで新たなジャンルを築いた荒井由実(現在の松任谷由実)、SUGAR BABE(山下達郎、大貫妙子など)、オフコース(小田和正、鈴木康博)など、フォーク系の流れを汲んだ才能豊かなシンガーソングライターが多くの世代から共感を得た。
また75年8月に、当時人気を博していたかぐや姫と吉田拓郎が中心となり、静岡県つま恋の多目的広場で野外オールナイト・コンサートを開催。『吉田拓郎・かぐや姫 コンサート インつま恋』とタイトルされたその野外コンサートは約5万人の観客を動員し、日本の“元祖夏フェス”として語り継がれている。
次回から数回にわたり、70年代の楽器シーンに関して検証してみたい。




次回|1970年代の楽器シーン①>
プロフィール
田中 稔(たなか・みのる)
1952年、東京生まれ。1975年秋にプレイヤー・コーポレーション入社。広告営業部、編集部にて『Player』の制作を担当。以来編集長、発行人を経て1997年に代表取締役就任。以降も『Player』の制作、数々の別冊、ムック本を制作。48年間にわたり『Player』関連の仕事に深く関わった。現在フリーランスの編集者として活動中。アコースティック・ギターとウクレレの演奏を趣味としている。