連載:『Player』盛衰記 第10回|1970年代のアコースティック・ギター・シーン   連載:『Player』盛衰記 第10回|1970年代のアコースティック・ギター・シーン  

連載:『Player』盛衰記 
第10回|1970年代のアコースティック・ギター・シーン  

2023年に惜しまれつつ休刊した音楽雑誌『Player』。楽器を扱う専門誌として『ギター・マガジン』とは良きライバル関係にあったが、その不在はやはり寂しい。音楽業界や楽器業界を盛り上げ、読者に大きな影響を与えたその偉大な55年に敬意を表して、元編集長の田中稔氏にその歴史を綴ってもらう。隔週更新。

文=田中 稔

第10回
1970年代のアコースティック・ギター・シーン

 70年代のアコースティック・ギター・シーンは、エレクトリック・ギター以上に華やかだった。60年代からのフォークソング・ブームは70年代に引き継がれ、若い世代を中心にギターの弾き語りやフォーク・バンドを結成して活動するアマチュア・ミュージシャンが数多くいた。各大学には、軽音楽部やフォークソング同好会などのクラブやサークルがあり、アマチュアのフォーク・コンサートなども日本各地で開催されるなど、アコースティック・ギターは若い世代の象徴として広く親しまれた。

 当時70年代に人気があったフォーク・ギターの国産ブランドとしては、アリア、ブルーベル、バーニー、キャッツアイ、グレコ、ジャンボ、Kヤイリ、マスター、マウンテン、モーリス、ライダー、Sヤイリ、タカミネ、スリーS、サム、ウェストーン、ヤマハ、ヤマキ(アルファベット順)などがあり、ドレッドノートを中心に様々なバリエーション・モデルが発売されていた。

 現在も神田小川町にあるアコースティック・ギター専門店の老舗として知られるカワセ楽器では、60年代後半からオリジナル・ブランドであるマスターを立ち上げ、いち早くマーティン・スタイルのギターを販売した。マスターは当時としてはかなりクオリティが高く、アマチュアはもちろんのこと一部のプロミュージシャンも愛用するほどの完成度を誇っていた。マスターは基本的にユーザーからのオーダーによって製作され、現在のカスタム・ギターのはしりともいえる存在だった。

 長年アコースティック・ギター・ブランドとして幅広いユーザー層を抱えるヤマハは、66年に始めて本格的なアコースティック・ギター、FGシリーズを発売した。そのモダンなデザインと完成度の高さで多くのファンを獲得し、以来数多くのアコースティック・モデルを発売し、現在に至っている。

 エレクトリック・ギターのコピー・モデル競争がアコースティックにも大きく影響を及ぼした70年代だったが、ヤマハがアコースティックのコピー・モデルを発売することはなかった。ちなみにヤマハ初のエレクトリック・アコースティックFG-350Eが発売されたのは72年で、日本の量産メーカーとして最も早くエレアコ時代を先取りしたブランドでもあった。

 アコースティック・ギターの場合は、エレキほどではないが70年代半ばあたりから国産のマーティン・コピーが人気を博すようになった。その切っ掛けとなったのがカワセ楽器のマスターと、70年代初頭に登場した田原楽器のジャンボだった。ジャンボはマーティン・スタイルをリアルに再現すると同時に、本格的なアコースティック・サウンドを追求した製品を開発し、当時拘りのあるギター・ファンに高く評価された。ギターに続いてフラット・マンドリンなども数モデル発売し、こちらも人気を博した。

 次回は、70年代に多くのギタリストが憧れた、マーティン・ギターに関して紹介する。

キャッツアイ
東海楽器製造のキャッツアイは人気ブランドのひとつ。ヴィンテージライクなコンセプトで多くのモデルを生産。
モーリス
モーリスも70年代を代表する人気ブランド。オベーションは新たなシーンを切り開いた。『楽器の本』より
スリーS
1890年からバイオリンの製作を開始した鈴木バイオリンは、スリーSブランドでアコースティックを生産した。
ヤマハ、Sヤイリ、カワイ、ゼンオン
ヤマハは数多くのモデルを発売し多くのファンを獲得。Sヤイリ、カワイ、ゼンオンなどのブランドもあった。
マスター
カワセ楽器のマスターは、セミプロ級のギターにも愛用され、カスタム・ギターの走りとして知られている。

プロフィール

田中 稔(たなか・みのる)

1952年、東京生まれ。1975年秋にプレイヤー・コーポレーション入社。広告営業部、編集部にて『Player』の制作を担当。以来編集長、発行人を経て1997年に代表取締役就任。以降も『Player』の制作、数々の別冊、ムック本を制作。48年間にわたり『Player』関連の仕事に深く関わった。現在フリーランスの編集者として活動中。アコースティック・ギターとウクレレの演奏を趣味としている。

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『Player』盛衰記