山下達郎のギタリスト2人目は、昭和ポップ(ニューミュージック)やYMOなどでも活躍した大村憲司。達郎作品においては、デュプリーとウェスが融合したかのようなムードで、楽曲を甘美に仕立て上げた。また、ソロイストとして起用されることも多く、その構築美はもはや芸術の域。達郎の狙いもそこにあったのだろうか。
文=井川恭一
デュプリーとウェスの
中間のムード
達郎より3学年上の憲司(49年~98年)と達郎の出会いは、アルバム『SPACY』(77年)。
このアルバムがリリースされた77年は、ほかにも吉田美奈子の『TWILIGHT ZONE』、大貫妙子の『SUNSHOWER』、といったシティ・ポップ史上に残る名盤が生まれた当たり年。これら海外からも評価の高い作品に参加して、ギター・ソロをとったのが憲司だ。
当時は、コーネル・デュプリー、エリック・ゲイルら腕利きスタジオマンを擁するスタッフ(Stuff)が注目を浴び、リスナーやミュージシャンに支持され、憲司もかなりの影響を受けていた。
日本のポップス・シーンでも単なる歌の伴奏に終わらず、シンガーと一体となって楽曲を作り上げていくことがトップのスタジオ・ミュージシャンに求められ、それに見事に応えたのが憲司だった。なにより、憲司が奏でる渋く艶やかなギター・トーンには、実際にスタッフに加入したとしても、とてもよく馴染んだであろうと思えるくらいの説得力があったのだ。
憲司がこの当時、歌伴/インストのセッションを問わずよく使っていたのは、フロントPUにハムバッカーを搭載した57年製テレキャスター。
ソリッドでありながらファットなニュアンスも持つこのギターに向かう時の憲司は、ブルージィとジャジィ、いわばコーネル・デュプリーとウェス・モンゴメリーの中間モードにあり、憲司の最大のアイドルであるクラプトン色はグッと薄くなる。
ギター・ソロ大名演
「SOLID SLIDER」を聴け
オクターブ奏法やオルタード・スケールを効果的に取り入れた「SOLID SLIDER」での名演に続いて、翌年リリースされたオムニバス『PACIFIC』(78年)に収録された達郎作曲の「キスカ」でも、憲司はテレキャスで「SOLID SLIDER」と同テイストのジャジィなソロを弾いている。
一方、ストラトを使ったソロとしては『POCKET MUSIC』(86年)収録の「THE WAR SONG」に続き、達郎プロデュースの鈴木雅之「Guilty」(88年)があり、ここでも彼の持ち味が存分に発揮された歪んだストラトの憲司節を聴かせている。
達郎が憲司をソロイストとして起用したのは、どこかドナルド・フェイゲンが楽曲のイメージに合うソロを緻密かつ貪欲に求めたことを思わせる。
ただ違うのは、フェイゲンが複数のギタリストやホーン・プレイヤーにソロを演奏させ、最も良いテイクをチョイスしたのに対し、達郎には“ここは憲司でなければならない”という、明確なイメージが最初からあったということだ。
達郎は憲司をギタリストという枠を超えて、独自のスタイルを持ったミュージシャンとして見ていて“ピーンと張り詰めた一種の狂気に近い集中力は物凄い”と評した。
危うさを合わせもつ憲司の素晴らしさを、ピンポイントで生かした達郎の慧眼もたいしたものだと思う。
大村憲司が参加した主な作品
『SPACY』 山下達郎
RCA/BVCR-17014
『Pacific』 細野晴臣,鈴木茂,山下達郎
GT music/MHCL-30126
『POCKET MUSIC』 山下達郎
ワーナー/WPCV-10022